「もう3歳なのに、うちの子だけまだオムツが取れない」──保護者面談でよく出るのが、まさにこの相談です。
SNSでは「2歳でトイトレ完了!」という投稿が目に入りやすく、焦りを感じる方は少なくありません。でも、園で見ている限り、3歳の時点でオムツが完全に外れていない子はクラスの中でまったく珍しい存在ではないのです。
この記事では、認可保育園で15年・0歳児クラスから5歳児クラスまで全年齢を担当してきた現場の視点から、おむつはずれの「個人差」を具体的な数字で示し、園と家庭で声かけを揃える3つのステップをお伝えします。
3歳でオムツが取れていないのは「少数派」ではない
まず、数字を確認しましょう。日本国内の調査では、おむつが外れる平均年齢は3歳2か月前後とされています。「平均」ということは、その前後に大きな幅があるということです。
スウェーデンの追跡調査では、昼間に一度もおもらしをしなくなる割合は以下のように報告されています。
- 3歳時点:52%(約半数はまだ完了していない)
- 4歳時点:93%
- 5歳時点:100%
つまり、3歳の時点でおむつが完全に外れている子はおよそ半数。残りの半数はまだトレーニングの途中なのです。
私のクラスの「おむつはずれ分散データ」
以前、2歳児クラス(2歳後半〜3歳前半)の20人について、おむつはずれの状況を整理したことがあります。
- 日中ほぼパンツで過ごせる子:6人
- トイレで成功することもあるが失敗も多い子:8人
- トイレに座ることはできるが排泄はオムツの子:4人
- トイレに座ること自体を嫌がる子:2人
クラスの7割の子が、まだ何らかの形でオムツを使っていました。この数字を保護者面談でお伝えすると、「うちだけじゃないんですね」とほっとされる方がとても多いのです。
以前、言葉の発達について同じようにクラス全体の分散データをお見せしたとき、「数字で見せてもらえたから待てた」という保護者の方がいました。おむつはずれも同じで、「平均」ではなく「分散」で見ると、焦る必要がないことが見えてきます。
おむつはずれの鍵は「膀胱の蓄尿機能」の成熟
おむつが外れるかどうかは、しつけや練習量の問題ではありません。医学的に最も大切なのは、膀胱の「蓄尿機能」が十分に成熟しているかどうかです。
日本小児泌尿器科学会の解説によると、排尿の発達は以下のように進みます。
- 0〜1歳頃:膀胱に尿がたまると反射的に排尿する
- 1歳半頃:尿がたまる感覚がわかり始める
- 2〜3歳頃:膀胱が大きくなり、ある程度尿をためられるようになる
- 3〜4歳頃:大人に近い排尿コントロールが可能になる(遅い子で5歳頃)
つまり、蓄尿機能がまだ成熟していない段階でトイレトレーニングを頑張っても、子どもの体が追いついていないのです。「出す」練習よりも、「ためる」機能の発達を待つことが大前提になります。
「始めるのが遅いとダメ」は誤解
「早く始めたほうが早く終わる」と思われがちですが、実は研究データはそれを支持していません。蓄尿機能が整った段階で始めたほうが、トレーニング期間は短く、失敗体験も少なく済む傾向があります。
私が朝7時に出勤してクラスの子どもたちを迎え、午前活動から給食、午睡、午後活動と一日を見ていて実感するのは、「2時間おきにトイレに連れて行っても出ない子」は、まだ体の準備が整っていないだけだということです。その子たちも、数か月後には自分から「トイレ行く」と言い始めます。
園と家庭で揃える声かけ3ステップ
蓄尿機能の発達を前提にしたうえで、園と家庭で声かけを揃えることが、おむつはずれをスムーズに進める大きなポイントです。
ステップ1:「出た」を一緒に確認する声かけ
まずはオムツの中で排泄した直後に、「おしっこ出たね」「うんち出たね」と事実を言葉にします。
これは成功・失敗の評価ではなく、「排泄した」という感覚と言葉をつなげる作業です。園でも家庭でも同じ言葉を使うと、子どもの中で「この感覚=おしっこ」という結びつきが早くできます。
保育園では「出たね、教えてくれてありがとう」という声かけを統一しています。ご家庭でも同じフレーズを使っていただけると、子どもにとってわかりやすくなります。
ステップ2:「座ってみる」を日課にする声かけ
次の段階では、食事の前・お風呂の前・寝る前など、生活の切り替わりのタイミングでトイレに誘います。
大切なのは「おしっこ出る?」と聞くのではなく、「トイレに座ってみようか」と誘うこと。「出る?」と聞かれると、まだ尿意を正確に把握できない子は「出ない」と答えてしまいます。
座って出なくても「座れたね、すごいね」で終わりにする。出たら「トイレで出たね!」と一緒に喜ぶ。園でも家庭でも、この「座れたことを認める」スタンスを揃えることが重要です。
ステップ3:「失敗しても大丈夫」を伝える声かけ
パンツに切り替えた後は、当然おもらしが起きます。このときの大人の反応が、おむつはずれの進み具合を大きく左右します。
「あ、出ちゃったね。大丈夫、お着替えしようか」──園ではこのフレーズを全職員で徹底しています。
「なんでトイレに行かなかったの」「さっき聞いたのに」という言葉は、子どもにとって排泄=叱られる体験になり、むしろトイレを避ける原因になります。
失敗を責めないこと。これは園だけ、家庭だけでは効果が薄く、子どもが一日を過ごすすべての場所で一貫していることが必要です。
「うちの子、発達に問題があるのでは」と思ったときの判断基準
おむつはずれが遅いことだけで発達の問題を疑う必要はありません。ただし、以下のサインがある場合はかかりつけ医や小児泌尿器科への相談をおすすめします。
- 5歳を過ぎても昼間のおもらしが頻繁にある
- 排尿時に痛みを訴える
- 以前できていたのに急にできなくなった(退行)
- 排尿の間隔が極端に短い(30分以内に何度もトイレに行く)
これらに当てはまらず、日中の排尿間隔が2時間程度空くようになっていれば、蓄尿機能は順調に育っています。あとはタイミングの問題です。
よくある質問(FAQ)
Q1. 保育園ではトイレに行けるのに、家では行きたがりません。どうすればいいですか?
園では周囲の子がトイレに行く姿が「お手本」になっています。家庭では、親御さん自身がトイレに行くときに「ママ(パパ)もトイレ行ってくるね」と見せることが効果的です。声かけのフレーズは園と同じものを使ってください。
Q2. 幼稚園入園までにオムツが取れないとまずいですか?
多くの園では入園時にオムツの子を受け入れています。入園前に無理に外そうとすると、トイレへの恐怖心につながるリスクがあります。入園予定の園に事前に相談し、方針を確認しておくと安心です。
Q3. 夜のオムツはいつ取れますか?
夜間の排尿コントロールは昼間よりさらに遅く、抗利尿ホルモンの分泌が成熟する必要があります。スウェーデンの調査では、夜間に一度も漏れない子の割合は3歳で17%、4歳で63%です。夜のオムツは5〜6歳まで使っても問題ありません。
Q4. ごほうびシールは効果がありますか?
短期的なモチベーションにはなりますが、「シールがもらえないからトイレに行かない」という逆効果になるケースもあります。シールよりも、「座れたね」「教えてくれたね」という言葉の承認のほうが長期的に効果があると現場では感じています。
Q5. トイレトレーニング中に下の子が生まれて赤ちゃん返りしました。中断すべきですか?
環境の大きな変化があったときは、無理に続けず一時中断して構いません。赤ちゃん返りが落ち着いてから再開すると、驚くほどスムーズに進むことが多いです。
まとめ
おむつはずれの時期は、子どもの膀胱の蓄尿機能の成熟度によって大きく異なります。3歳の時点で完了していない子は約半数。決して少数派ではありません。
大切なのは、「出た」を確認する → 「座ってみる」を日課にする → 「失敗しても大丈夫」を伝えるの3ステップを、園と家庭で揃えること。そして何より、子どもの体の準備が整うのを待つという姿勢です。
他の子と比べると見落としますが、あなたのお子さんにはあなたのお子さんのペースがあります。「いつか必ず取れる」──15年間、何百人もの子どもたちを見てきた実感として、これは確信を持って言えることです。
参考文献
- 日本小児泌尿器科学会「排尿機能発達・尿失禁症」
https://jspu.jp/ippan_013.html - ベネッセ たまひよ「排尿・蓄尿の発達から考えるトイレトレーニング【泌尿器科医監修】」
https://st.benesse.ne.jp/ikuji/content/?id=195450 - 浦安市「おむつはずれの時期はいつですか。トイレトレーニングはどのようにすすめたらよいでしょうか」
https://www.city.urayasu.lg.jp/kodomo/kosodate/kenko/1006653.html - KADOKAWAグループ「トイレトレーニングに関するアンケート結果」
https://group.kadokawa.co.jp/information/promotional_topics/article-14290.html






