SNSで3万件以上の共感を集めた投稿があります。「大学生で困ったら、とりあえず学生相談室に行ってほしい」──ある大学関係者の呼びかけです。奨学金のこと、生活費のこと、教科書代のこと。大学には想像以上に多くの支援窓口があるのに、それを知らないまま困窮する学生が後を絶ちません。
文科省の発表を読み解くと、高等教育の修学支援新制度は2024年度に第4区分(年収約600万円世帯)まで拡充され、2025年度からは多子世帯の所得制限が撤廃されました。制度は確実に広がっています。しかし、制度の存在を知らなければ使えません。
私は教育出版社で10年、文科省記者クラブで2年の取材経験がありますが、取材を重ねるほど感じるのは「制度はあるのに届いていない」という構造的な問題です。今回は、高校生のお子さんを持つ保護者に向けて、大学入学前に確認しておくべき学生支援制度を5つに整理し、具体的なチェックリストをお伝えします。
なぜ「入学してから知る」では遅いのか
JASSOの「学生生活調査」(令和4年度)によれば、大学生の学費と生活費の合計は年間約182万円にのぼります。特に一人暮らしの学生は、入学直後の4〜5月に初期費用が集中し、経済的に最も厳しい時期を迎えます。
ところが、多くの支援制度の申請には期限があります。給付型奨学金の在学採用は年2回(春・秋)、授業料減免の申請は入学直後の数週間が勝負です。「困ってから調べる」では、次の申請時期まで半年待つことになりかねません。
出版社時代に「煽り見出しの方がPVが伸びる」現実と戦った経験から、私は中立的な情報整理にこだわっています。今回も「こうすれば得」という話ではなく、知っておけば選択肢が増える制度の全体像をお伝えします。
高校生の親が入学前に知っておくべき5つの支援制度
1. 学生相談室──勉強の悩みだけではない「総合窓口」
学生相談室と聞くと「メンタルヘルスの相談場所」というイメージが強いかもしれません。しかし実際には、奨学金の手続き、生活費の困窮、住居トラブル、アルバイトの労働問題など、学生生活全般の相談に対応しています。
文科省は大学に対して「ワンストップ型の相談窓口」の整備を求めており、近年は一つの窓口で複数の問題に対応できる体制が広がっています。お子さんが入学する大学の学生相談室がどこにあり、何を相談できるのか、入学前にWebサイトで確認しておくだけで、いざというときの初動が変わります。
2. 高等教育の修学支援新制度──「うちは対象外」と決めつけない
2020年に始まったこの制度は、返還不要の給付型奨学金と授業料・入学金の減免がセットになっています。学習指導要領の本文には「主体的・対話的で深い学び」が謳われていますが、その学びの前提となる経済基盤を支える制度です。
2024年度からは従来の第1〜第3区分に加え、第4区分(世帯年収約600万円まで)が新設されました。さらに2025年度からは、扶養する子どもが3人以上いる多子世帯は所得制限なしで授業料・入学金の減免を受けられるようになっています。
見落としやすいポイント:家計が急変した場合(失業・病気・災害など)は、通常の申請時期を待たず随時申請が可能です。この「家計急変採用」の存在を知っているかどうかで、緊急時の対応速度がまったく異なります。
3. 大学独自の奨学金・授業料減免──国の制度の「すき間」を埋める
国の修学支援新制度の所得要件に該当しない世帯でも、大学独自の奨学金や授業料減免制度を利用できる場合があります。国立大学では従来から授業料免除制度があり、私立大学でも独自の給付型奨学金を設けている大学は少なくありません。
大学側の意図はこういう構造です──国の制度でカバーしきれない中間層の学生を大学独自の支援で補完し、経済的理由による退学を防ぎたい。志望校選びの段階で、各大学の奨学金制度一覧を比較しておくことをお勧めします。
4. 食料支援(フードパントリー)──「まさかうちの子が」に備える
大学生向けのフードバンク・フードパントリーは、ここ数年で急速に広がっています。全国のフードバンク団体数は2019年の約120団体から2025年3月末には287団体へと倍増しました。大学構内で食品を無料配布する取り組みも増えています。
ある大学の調査では、「食費に困った経験がある」と回答した学生が47.2%にのぼる一方、フードバンクの食品提供を「受け取りたい」と答えた学生は85.7%でした。需要は確実にあるのに、制度の存在を知らない学生が多いのが現状です。
5. 学生支援課の各種手続き代行──一人で抱えなくていい
休学・復学の手続き、健康保険の切り替え、在留資格の相談(留学生の場合)など、大学の学生支援課は事務手続きの相談にも対応しています。特に保護者が病気や失業で対応できなくなった場合、学生が一人で手続きを進められるよう支援する体制が整っている大学も増えています。
朝6時に起きて文科省や教育委員会のリリースを確認するのが私の日課ですが、最近の通知を見ていると、大学に対して「学生支援の包括的な体制整備」を求める文書が明らかに増えています。制度は整いつつあります。あとは利用者側がその存在を知ることです。
入学前チェックリスト──保護者が今できる5つの確認
以下のチェックリストを、志望校が決まった段階で確認しておくことをお勧めします。
- □ 学生相談室の場所・連絡先・対応範囲を大学Webサイトで確認した
- □ 高等教育の修学支援新制度の所得要件をJASSOの「進学資金シミュレーター」で試算した
- □ 志望大学独自の奨学金・授業料減免制度の一覧を確認した
- □ 家計急変時の「随時申請」の存在と手続き方法を把握した
- □ 入学直後の申請スケジュール(給付型奨学金の春採用は例年4月)を確認した
これらの確認は、お子さんと一緒に行うことをお勧めします。なぜなら、実際に窓口へ足を運ぶのはお子さん自身だからです。「困ったらここに行けばいい」という情報を親子で共有しておくことが、最も確実なセーフティネットになります。
「制度を知っている」は、合格と同じくらい大切
大学入試改革の「英語民間試験導入」報道の煽り合戦に違和感を持ったことがあります。報道は「賛成 vs 反対」の二項対立に切り取りがちですが、原典を読むと論点はもっと多層的でした。学生支援制度の報道も同じ構造があります。「大学無償化」という見出しだけでは、自分の家庭が対象かどうかはわかりません。
大切なのは、制度の全体像を把握し、自分の家庭に該当するものを見つけることです。受験勉強と同じくらい、いやそれ以上に、入学後の生活を支える制度の知識は重要です。
よくある質問(FAQ)
Q1. 学生相談室は予約が必要ですか?
大学によって異なりますが、多くの大学では予約なしでも相談できる「オープンアワー」を設けています。まずは大学のWebサイトで確認し、電話やメールでの相談に対応している大学も増えています。緊急の場合は予約なしで対応してもらえるケースが一般的です。
Q2. 修学支援新制度は成績が悪いと打ち切られますか?
はい、支援継続には一定の学業要件があります。具体的には、GPA(成績評価)が下位4分の1に属する場合や、修得単位数が標準の6割以下の場合に「警告」が出され、連続で該当すると支援が打ち切られます。ただし、「成績が良くないと申請できない」わけではなく、申請時は「学ぶ意欲」が重視されます。
Q3. 親の年収が高くても使える支援制度はありますか?
あります。2025年度から多子世帯(扶養する子ども3人以上)は所得制限なしで授業料減免を受けられます。また、大学独自の奨学金には所得制限がないもの(成績優秀者向け給付型など)もあります。さらに、フードパントリーなどの生活支援は所得要件なく利用できる場合がほとんどです。
Q4. 家計が急変した場合、いつでも奨学金を申請できますか?
JASSOの給付型奨学金には「家計急変採用」があり、失業・病気・死亡・災害などで家計が急変した場合は随時申請が可能です。急変事由の発生から3か月以内に大学の窓口に相談することが推奨されています。通常の春・秋の申請時期を待つ必要はありません。
Q5. 高校在学中から準備できることはありますか?
JASSOの給付型奨学金は、高校3年生の段階で「予約採用」に申し込むことができます(例年、春に募集)。予約採用で内定を得ておけば、入学後すぐに支援を受けられます。高校の進路指導室やスクールカウンセラーに相談するのが最も確実です。
参考文献
- 文部科学省「高等教育の修学支援新制度」
https://www.mext.go.jp/kyufu/ - 日本学生支援機構(JASSO)「令和4年度 学生生活調査」
https://www.jasso.go.jp/statistics/gakusei_chosa/2022.html - 日本学生支援機構(JASSO)「給付奨学金(返済不要)」
https://www.jasso.go.jp/shogakukin/about/kyufu/index.html - 日本学生支援機構(JASSO)「家計急変採用-給付奨学金」
https://www.jasso.go.jp/shogakukin/moshikomi/rinji/kakei_kyuhen/index.html - 文部科学省「経済的に困難な学生・生徒が活用可能な支援策」
https://www.mext.go.jp/a_menu/coronavirus/benefit/index.html






