保護者面談でよく出るのが、「外出先で泣き叫ばれると、もうどうしていいかわかりません」という声です。スーパーのお菓子売り場で床に寝転がる。着替えの途中で固まって動かない。食べ物を投げる。公園から帰れない。寝る前にぐずり出す。
園で見ている限り、イヤイヤ期のかんしゃくは「全部同じ理由」で起きているわけではありません。場面ごとに、背景にある発達の課題が違います。一律の対応──たとえば「気をそらす」「放っておく」だけでは、うまくいく場面といかない場面が出てきます。
この記事では、15年間の保育現場で観察してきたイヤイヤ期のかんしゃくが起きやすい5つの場面を整理し、それぞれに対応する声かけパターンを具体的にお伝えします。
そもそもイヤイヤ期のかんしゃくはなぜ起きるのか
発達心理学では、1歳半〜3歳半ごろの「イヤイヤ期」は自我の芽生えと位置づけられています。「自分でやりたい」「こうしたい」という意志が育つ一方で、それを実行する手先の器用さや、言葉で伝える語彙がまだ追いついていません。さらに、感情をコントロールする前頭前皮質は5〜7歳ごろまで発達途上です。
つまり、かんしゃくは「気持ちの量」と「表現する手段」のギャップから生まれる、発達的にごく自然な現象です。お子さんの性格やしつけの問題ではなく、脳の発達段階が追いついていないだけ──まずこの前提を持っていただくと、少し気持ちが楽になるかもしれません。
5つの場面と声かけパターン
場面1: 買い物での欲求爆発──「あれ買って!」の背景
スーパーやコンビニで「お菓子買って!」と泣き叫ぶ場面。保護者にとって最も人目が気になるかんしゃくのひとつです。
背景の発達課題: この時期の子どもは「欲しい」という衝動を自分で抑える力(衝動制御)がまだ育っていません。目に入った瞬間に欲求が爆発するのは、前頭前皮質の未成熟による自然な反応です。
声かけパターン: 事前予告+選択肢
- 出発前に「今日はお菓子は買わないよ。ジュースとヨーグルト、どっちか選んでいいよ」と予告する
- 店に入る直前にもう一度「さっきのお約束、覚えてる?」と確認する
- それでも泣いたら「買いたかったね。悲しいね」と気持ちだけ受け止めて、淡々とレジへ向かう
ポイントは「事前予告」と「限定された選択肢」の組み合わせです。選択肢を与えると「自分で決めた」という満足感が生まれ、全面拒否より切り替えやすくなります。
場面2: 着替えで固まる──「自分で!」と手先のギャップ
ボタンが留められない、靴下が裏返しになる。「自分でやる!」と言ったのに、うまくいかなくて泣き出す場面です。
背景の発達課題: 「やりたい気持ち(自立心)」と「できる力(微細運動)」のギャップ。2歳前後はこのギャップが最も大きい時期です。
声かけパターン: 部分参加+実況中継
- 全部手伝うのではなく「ここまでママがやるね。最後のボタンは〇〇ちゃんがパチンってしてくれる?」と一部を任せる
- 手伝っている間も「腕を通すよ〜、はい片方できた!」と実況中継する
- できたら「自分でできたね!」と過程を認める
「最後の一手」を本人にやらせる方法は、園でもよく使います。完成の達成感だけ味わえるので、「自分でやった」感覚が残ります。
場面3: 食事中に食べ物を投げる──言葉にならないもどかしさ
スプーンを投げる、お皿をひっくり返す。「食べたくない」なのか「これじゃない」なのか、大人にも読みにくい場面です。
背景の発達課題: 2歳児の語彙は300〜500語程度。「このスープ熱い」「こっちのパンが食べたかった」という複雑な気持ちを言語化できず、行動で表現するしかない段階です。
声かけパターン: 感情の翻訳+代替行動
- 「投げたかったんじゃなくて、イヤだったのかな?」と気持ちを言葉に翻訳してあげる
- 「イヤなときは手をパーにして『いらない』って言ってみようか」と代わりの表現を見せる
- 投げた瞬間に長い説教はしない。「投げるのはナシね」と短く伝えて、すぐ代替行動を示す
他の子と比べると見落としますが、食事中の「投げる・こぼす」の頻度はクラス内でもかなり個人差があります。行儀の問題ではなく、伝え方を練習している最中だと捉えてみてください。
場面4: 公園から帰れない──時間の見通しが持てない
「帰るよ」と言った瞬間に大泣き。あと5分、あと5分とずるずる延びていく場面です。
背景の発達課題: 2歳児にはまだ「時間の見通し」を持つ力がありません。「あと5分」と言われても、5分がどれくらいかわからない。突然楽しいことが終わる恐怖に近い感覚です。
声かけパターン: 予告カウントダウン+次の楽しみ
- 帰る10分前に「あと滑り台3回で帰ろうね」と回数で予告する(時間より回数のほうが子どもに伝わります)
- 「3回目だよ、最後の1回!」とカウントダウンする
- 「帰ったらおうちで絵本読もうか」と次の楽しみをセットにする
園でお散歩から帰るときも同じ方法を使っています。「あと何分」ではなく「あと何回」に変換するだけで、切り替えがぐんとスムーズになります。
場面5: 就寝前のぐずり──眠さに気づけない体
夜になると機嫌が悪くなり、何をしても泣く。抱っこしても反り返る。保護者が最も消耗する時間帯です。
背景の発達課題: 2歳前後の子どもは、自分が「眠い」ことに気づけません。眠気からくる不快感を「怒り」として表出するため、大人からは理由のないかんしゃくに見えます。
声かけパターン: ルーティン+体のサイン実況
- 就寝前の流れを毎日同じ順番にする(歯磨き→パジャマ→絵本→電気を暗くする)
- 「目がトロンとしてきたね、体が眠たいって言ってるよ」と体のサインを言葉にしてあげる
- 寝る前のスクリーンタイムを避け、部屋を段階的に暗くする
わが家でも息子が小さかった頃、毎晩同じ絵本を同じ順番で読むルーティンを続けていました。最初は「また同じ本?」と思いましたが、繰り返しの安心感が入眠の合図になっていたようで、ルーティンが定着してからは寝る前のぐずりが明らかに減りました。
どの場面にも共通する「2ステップの原則」
5つの場面をご紹介しましたが、すべてに共通するのは「気持ちを受け止めてから、代わりの行動を見せる」という2ステップです。
- 受け止め: 「〇〇したかったんだね」「イヤだったね」と、まず気持ちに名前をつける
- 代替行動: 「こうしてみよう」と具体的な次の一手を見せる
順番が逆──つまり気持ちを受け止める前に「ダメでしょ!」と制止すると、子どもは「わかってもらえなかった」と感じ、かんしゃくがエスカレートしやすくなります。
とはいえ、毎回完璧にできなくて当然です。園の保育士でも、疲れているときは声が大きくなることがあります。大事なのは10回のうち6〜7回できていれば十分、ということ。「今日はうまくいかなかったな」と思ったら、寝る前に5秒だけぎゅっと抱きしめてあげてください。保護者面談でよく出るのが「完璧にやらなきゃ」というプレッシャーですが、子どもが求めているのは完璧な対応ではなく、「最後は受け止めてくれる人がいる」という安心感です。
かんしゃくが「いつもと違う」ときのチェックポイント
ここまでお伝えした5つの場面は、発達的に自然な範囲のかんしゃくです。ただし、以下のような変化が見られた場合は、かかりつけの小児科や保健センターに相談してみてください。
- かんしゃくが30分以上続くことが日常的にある
- 自分を叩く、頭を壁にぶつけるなどの自傷行為を伴う
- 3歳半を過ぎてもかんしゃくの頻度・強度が減っていかない
- 特定の感覚刺激(音・光・触感)に対して極端に反応する
「相談する=問題がある」ではありません。専門家に現状を共有することで、お子さんに合った関わり方のヒントが見つかることがあります。
よくある質問(FAQ)
Q1. イヤイヤ期はいつからいつまで続きますか?
個人差はありますが、1歳半ごろから始まり、2歳前後がピーク、3歳半〜4歳ごろに徐々に落ち着くケースが多いです。前頭前皮質の発達とともに感情のコントロールが少しずつできるようになります。ただし「〇歳で終わる」と決まっているものではなく、お子さんの言語発達や気質によって幅があります。
Q2. 外出先でかんしゃくを起こしたとき、周囲の目が気になって冷静に対応できません。
「周りに迷惑をかけている」と感じると焦りますよね。ただ、子どもの脳は「人目がある場所だから我慢しよう」という判断ができる段階ではありません。まずは安全な場所に移動して(店の隅、車の中など)、静かに「悲しかったね」と気持ちを受け止めてあげてください。保護者が焦ると子どもにも伝染します。
Q3. 「泣けば思い通りになる」と学習しませんか?
「気持ちを受け止める」ことと「要求をすべて通す」ことは違います。「お菓子が欲しかったんだね(受け止め)。でも今日は買わないよ(行動の基準は変えない)」というように、共感と行動の線引きを分けて伝えることが大切です。
Q4. きょうだいがいると上の子にかまう余裕がなく、かんしゃくがひどくなります。
下の子のお世話で上の子への関わりが減ると、かんしゃくが増えることはよくあります。朝の出発前や寝る前の5秒間だけでも「〇〇ちゃんだけの時間」を作ってみてください。私自身も息子が小さかった頃、毎朝玄関で「行ってきますのぎゅー」を5秒間のルーティンにしていましたが、たったこれだけでも子どもの安心感につながると実感しました。
Q5. 保育園ではかんしゃくを起こさないのに、家でだけひどいのはなぜですか?
これは「家が安全基地になっている証拠」です。園では周囲に合わせて頑張っている分、安心できる家で感情を解放しています。保育園での入園直後に「お迎え時にだけ泣く子」がいますが、あれと同じ仕組みです。家で甘えられること自体が、お子さんの情緒の安定につながっています。
参考文献
- 森口佑介『自分をコントロールする力 非認知スキルの心理学』(講談社現代新書、2019年)──前頭前皮質と自己制御の発達について
- 厚生労働省「保育所保育指針解説」(2018年)──1歳以上3歳未満児の発達特性と保育の留意点(pp.100-130)
- Nurtured First「Understanding Tantrums And 4 Scientific Reasons Why They Happen」──前頭前皮質の未成熟とかんしゃくの関係を解説した海外エビデンス記事
- 講談社 WEB げんき「2歳のイヤイヤ期。正しい対応を発達心理学の専門家が解説!」──発達心理学の専門家による対応ガイド






