「うちの子の中学校、中間テストがなくなったんですけど、内申点は大丈夫なんでしょうか」——ここ数年、保護者からこうした声を聞く機会が増えました。
2018年に東京都千代田区立麹町中学校が定期テストを全廃したことをきっかけに、定期テストの削減・廃止の流れは全国に広がっています。2023年時点で中学校の22.9%が定期テストの廃止もしくは回数削減を検討しているというデータもあります。神奈川県では横浜市の公立中学校110校が年4回実施に移行し、鎌倉市では年5回実施の学校はほぼ皆無になりました。
しかし、なぜテストが減っているのか、その構造的な理由を正確に理解している保護者は多くありません。今回は、学習指導要領の本文に立ち返りながら、定期テスト削減の背景と家庭での備えを整理します。
定期テスト削減は「ゆるくなった」のではなく、評価の構造が変わった
定期テストの削減に対して「学校がゆるくなった」「学力が下がるのでは」という懸念を持つ保護者は少なくありません。しかし、文科省の発表を読み解くと、この動きの本質は「テストを減らす」ことではなく、「テストだけでは評価しきれない力を測る」ための構造転換であることがわかります。
2021年度から全面実施された現行の学習指導要領では、生徒の学習を以下の3つの観点で評価することが求められています。
- 知識・技能——基礎的な知識や技能の習得度
- 思考・判断・表現——課題を見出し、考え、表現する力
- 主体的に学習に取り組む態度——学びを自己調整し、粘り強く取り組む姿勢
従来の定期テストは、主に「知識・技能」の測定に強みがありました。しかし、「思考・判断・表現」や「主体的に学習に取り組む態度」は、ペーパーテスト1回で測定することが構造的に難しい。レポート課題、グループ討議、ポートフォリオ、振り返りシートなど、多様な評価場面を設ける必要があるのです。
つまり、定期テストの回数を減らした分、テスト以外の評価機会が増えているというのが実態です。「テストが減った=評価が甘くなった」ではなく、「評価の場面と方法が分散した」と理解するのが正確です。
麹町中学校の「その後」が示す制度改革の難しさ
定期テスト廃止の先駆けとなった千代田区立麹町中学校は、2014年から2019年にかけて工藤勇一校長のもとで宿題廃止・定期テスト廃止・固定担任制廃止といった大胆な改革を実施しました。定期テストの代わりに導入された「単元テスト」は、各単元の学習が終わるたびに実施され、希望すれば再テストも受けられる仕組みでした。
生徒が自主的に学習する姿勢が育ったという成果が報告された一方で、2024年度には服装ルールの見直しや定期試験の再導入が検討されるなど、改革路線の一部見直しが進んでいます。
私が出版社で教育政策を10年取材してきた経験から言えるのは、教育改革は「導入」よりも「定着」が難しいということです。制度の理念がどれほど正しくても、教員の異動、保護者の理解度、地域の教育文化によって運用は大きく変わります。これは、プログラミング教育やGIGAスクール構想でも繰り返し見てきた「制度は全国一律だが運用で格差が生まれる」パターンそのものです。
「テストが減ると内申点が不利になる」は本当か
保護者の最大の不安は、「テストが減ると内申点に悪影響が出るのではないか」という点でしょう。この不安は、内申点の仕組みを正確に理解することで整理できます。
まず押さえておくべきは、定期テストの実施に法的な規定はないという事実です。文部科学省は定期テストの回数や方式を規定しておらず、実施方法は各学校の裁量に委ねられています。つまり、年5回でも年3回でも、あるいは単元テスト方式でも、内申点の算出には影響しません。
内申点を構成する5段階評定は、3観点(知識・技能/思考・判断・表現/主体的に学習に取り組む態度)のそれぞれをA・B・Cで評価したうえで総合的に決定されます。テストの点数はあくまでこの3観点を判断する材料の一つであり、テスト回数が減ったとしても、評価の総量が減るわけではないのです。
ただし、注意すべき点もあります。テスト回数が減ることで、1回のテストの内申点に対する比重が相対的に大きくなるケースがあります。年5回のテストなら1回の失敗を他の4回でカバーできますが、年3回になると挽回の機会が限られます。この構造を理解しておくことは重要です。
単元テスト移行で「二極化」が進むリスク
定期テストから単元テストへの移行には、見過ごせないリスクもあります。
単元テストは範囲が狭いため、「その場その場で乗り切れる」生徒にとっては負荷が軽くなります。一方で、複数単元にまたがる応用問題や、半年前の学習内容との関連を問う出題がなくなることで、知識の定着と応用力の育成が弱くなる懸念があります。
また、定期テストが持っていた「テスト期間に向けて計画的に勉強する」という学習ペースメーカーとしての機能も失われます。自己管理ができる生徒は単元テスト方式でも学力を伸ばせますが、まだ学習の自己調整力が育っていない生徒にとっては、「いつ何を勉強すればいいかわからない」状態になりやすい。
結果として、自律的に学べる生徒とそうでない生徒の格差が広がるという「二極化」の報告が、定期テストを廃止・削減した学校の一部から上がっています。
家庭でできる3つの備え
テスト制度の変化に対して、家庭で取り組める具体的な備えを3つ整理します。
1. 子どもの学校のテスト制度を正確に把握する
まず最初にやるべきは、わが子の学校が現在どのようなテスト制度を採用しているかを正確に確認することです。年間のテスト回数、単元テストの有無、テスト以外の評価方法(レポート・発表・ポートフォリオ等)、そして各観点の評価にテストがどの程度影響するかを、学校の年間計画や保護者会で確認してください。
学校のテスト制度は年度ごとに変わる場合があります。「去年まではこうだった」が通用しないことも珍しくありません。
2. 「テスト以外で評価される力」を家庭で意識する
3観点評価の中で、家庭学習だけでは対策しにくいのが「主体的に学習に取り組む態度」です。この観点は、ノートの工夫、振り返りシートの記述、授業での質問、自己評価の正確さなど、「学びに向かう姿勢」の可視化が求められます。
家庭でできることとしては、学習の振り返りを子ども自身の言葉で語らせる習慣が有効です。「今日の授業で一番わからなかったことは何?」「この問題、どう考えて解いた?」と問いかけることで、子ども自身が学習プロセスを言語化する力が育ちます。
3. テスト回数が減った分、「復習のペースメーカー」を家庭で設計する
定期テストが年5回から年3回に減った場合、テスト間の期間が約2ヶ月から約4ヶ月に延びます。この空白期間に復習が途切れると、テスト前に膨大な範囲を一気にやり直す「一夜漬け型」に逆戻りするリスクがあります。
対策として、月1回の「家庭内確認テスト」を設けることをおすすめします。大がかりなものは不要で、教科書の章末問題やワークの確認問題を30分程度解くだけで十分です。定期テストが持っていたペースメーカー機能を、家庭が補完するイメージです。
よくある質問(FAQ)
Q1. 定期テストが廃止された学校では、通知表はどうやって決まるのですか?
A. 単元テスト、レポート課題、授業中のパフォーマンス、振り返りシートなど、複数の評価材料を3観点(知識・技能/思考・判断・表現/主体的に学習に取り組む態度)ごとに総合して評定が決まります。テスト1回の点数で通知表が決まるわけではありません。
Q2. テストが減ると高校受験の内申点に不利になりませんか?
A. テスト回数の多寡は内申点の算出方法に直接影響しません。内申点は3観点のA・B・C評価をもとに5段階評定で算出されるため、テスト以外の評価場面でも十分に挽回可能です。ただし、1回のテストの比重が大きくなる点には注意が必要です。
Q3. 単元テストは定期テストより簡単なのですか?
A. 出題範囲が狭い分、各問題の難易度が高く設定されている学校もあります。また、単元テストの頻度は定期テストより多いため、「テストの総量」はむしろ増えているケースもあります。
Q4. 塾の定期テスト対策講座が使えなくなりますか?
A. テスト回数が減った学校では、従来型の「テスト2週間前からの集中対策」は機能しにくくなります。塾選びの際は、単元テスト対応や日常学習サポートに対応しているかを確認するとよいでしょう。
Q5. 定期テスト廃止は今後さらに広がるのでしょうか?
A. 3観点評価の趣旨に沿った動きであるため、テスト回数の削減は今後も続くと見られます。一方で、麹町中学校のように一度廃止した学校が再導入を検討するケースもあり、「完全廃止」ではなく「削減+多様な評価との組み合わせ」が主流になる可能性が高いでしょう。次期学習指導要領でも「個別最適な学び」と「協働的な学び」の一体的充実が強調されており、テスト以外の評価はさらに重視される方向です。
参考文献
- 文部科学省「学習指導要領(平成29年告示)解説 総則編」
- 国立教育政策研究所「『指導と評価の一体化』のための学習評価に関する参考資料」(2020年)
- ベネッセ教育総合研究所「広まる定期テストの廃止 その背景やメリット、課題を解説」
- ステップ進学情報ブログ「中学校の定期テスト『削減』の波、広がる――神奈川県の公立中における現状」
- ベネッセ VIEW next ONLINE「高校に広まる定期考査廃止の動き ─そのメリットと課題を考える─」(2024年2月)






