小学校で英語が正式教科になって6年。文科省の調査データを見ると、小学6年生の「英語の勉強が好きではない」と答えた割合は31.5%に達しています。教科化前の2013年度は23.7%でしたから、約8ポイントの増加です。
SNSやメディアでは「小学校英語は失敗だった」という論調が目立ちますが、文科省の発表を読み解くと、問題の構造はもっと複層的です。本稿では一次資料をもとに、英語嫌いが増えた3つの構造的要因を整理し、保護者が家庭でできる5つの具体策をお伝えします。
「英語嫌い8ポイント増」の背景にある3つの構造的要因
要因1:「外国語活動」から「教科」への段差
小学3〜4年生の「外国語活動」は、歌やゲームを通じて英語の音に親しむ時間です。成績はつきません。ところが5年生になると突然「外国語科」として正式教科になり、通知表で3段階評価がつくようになります。
学習指導要領の本文には、5年生からは「読むこと・書くこと」も加わると明記されています。つまり、4年生まで「聞く・話す」中心だった子どもが、5年生で一気に4技能を求められる。この段差こそ、英語嫌いを生む最大の構造的原因です。
さらに中学校への接続も課題です。文科省の2024年度経年変化分析調査では、中学3年生の英語平均点が2021年度比で22.9ポイント低下しました。スピーキングの基本的な現在進行形の質問への正答率も41.7%から30.8%へと10.9ポイント下落しています。小学校での「音声中心」の学びと、中学校の「文法・読み書き中心」の学びの断絶が、数字として表れています。
要因2:教員の指導体制の格差
小学校の英語教育は、多くの場合、英語専門ではない学級担任が担っています。文科省の「英語教育実施状況調査」(令和6年度)によれば、中学校でCEFR B2(英検準1級相当)以上を持つ英語教員は44.8%、高校では80.7%ですが、小学校の担任教員でこの水準に達している割合は極めて低いのが実態です。
私が出版社時代に教育白書を取材していた頃から、「制度は全国一律だが運用で格差が生まれる」という構造は繰り返し見てきました。GIGAスクールの活用格差、プログラミング教育の学校間格差、そして今回の英語教育——いずれも同じ構造です。かつて出版社で「煽り見出しの方がPVは伸びる」という現実と向き合いながらも、中立で具体的な記事を3年かけて育てた経験があります。英語教育の問題も、煽りではなく構造で読み解くことが大切です。
要因3:家庭間の「先取り格差」
英語教室やオンライン英会話で就学前から英語に触れている子どもと、小学校で初めて英語に出会う子どもの差は、教科化によってより可視化されるようになりました。3観点評価で成績がつくことで、この差が「できる・できない」として数値化され、英語への苦手意識に直結しやすくなっています。
3観点評価の仕組みを知れば「通知表の読み方」が変わる
小学校英語の通知表には、次の3つの観点で評価がつきます。
- 知識・技能:英語の音声や基本的な表現を理解しているか
- 思考・判断・表現:場面に応じて自分の考えを英語で伝えようとしているか
- 主体的に学習に取り組む態度:間違いを恐れずにコミュニケーションを図ろうとしているか
重要なのは、テストの点数だけで評価が決まるわけではないという点です。特に3つ目の「主体的に学習に取り組む態度」は、授業中に積極的に発話しようとする姿勢や、振り返りカードの記述内容で評価されます。保護者がこの構造を理解しているかどうかで、子どもへの声かけが大きく変わります。
家庭でできる5つの具体策
1. 通知表の3観点を子どもと一緒に読む
「英語の成績が悪い」と一括りにせず、3つの観点のどこに課題があるかを確認しましょう。「知識・技能」が低いなら基礎的なインプット不足、「主体的態度」が低いなら授業での発話への心理的ハードルがある可能性があります。
2. 4年→5年の「段差」を家庭で緩和する
4年生の冬休みから、教科書の「読む・書く」パートを親子で少しずつ見ておくだけで、5年生の授業への不安が軽減されます。完璧に書ける必要はなく、「こういう活動が始まるんだな」と知っておくことが目的です。
3. 「間違えてもいい」を家庭の文化にする
英語嫌いの多くは「間違い」への恐怖から生まれます。家庭での英語の話題は、正確さよりも「伝えようとする姿勢」を認める声かけを意識してください。これは3観点評価の「主体的態度」の考え方と一致しています。
4. 学校の授業進度と教科書の内容を把握する
朝6時に起きて文科省や教育委員会のリリースを確認するのは私の日課ですが、保護者の方にはそこまでは求めません。ただし、学期ごとに教科書のどの単元まで進んでいるか、子どもに聞いてみてください。進度の把握は、つまずきの早期発見につながります。
5. 英語の「音」に触れる環境を低コストで用意する
高額な英語教室に通わせなくても、NHKの語学番組やYouTubeの英語アニメなど、日常に英語の音を取り入れる方法はあります。週に2〜3回、10分程度でも継続することで、リスニングへの抵抗感が和らぎます。
よくある質問(FAQ)
Q1. 小学校の英語で成績が悪いと中学英語にも影響しますか?
直結はしませんが、英語への苦手意識が固定化するリスクはあります。小学校で「英語嫌い」になった子どもが中学で好きになるケースは少数です。小学校のうちに3観点の課題を特定し、苦手意識を和らげることが重要です。
Q2. 英語の先取り学習はさせるべきですか?
学習指導要領が求めているのは高度な英語力ではなく、「コミュニケーションを図る素地・基礎」です。先取りよりも、英語に対するポジティブな体験を積むことを優先してください。
Q3. 3観点評価の「主体的態度」はどうすれば上がりますか?
国立教育政策研究所の評価参考資料によれば、「主体的態度」は授業中の発話意欲や振り返りの質で評価されます。家庭では「今日の英語の授業で何をやった?」と聞く習慣をつけるだけで、子どもの振り返り力が高まります。
Q4. 小学校英語の教科化は「失敗」なのですか?
制度としての評価はまだ定まっていません。英語嫌いの増加は事実ですが、原因は制度そのものではなく、「外国語活動→教科」の段差設計、教員の指導体制、評価構造の保護者への伝達不足という3つの構造的課題にあります。次期学習指導要領(2026年答申予定)での改善が注目されます。
Q5. 英検を早めに取らせた方がよいですか?
英検は到達度を測る指標としては有効ですが、合格を目的にした対策学習が英語嫌いを助長するケースもあります。子どもの英語への態度を見ながら、無理のないタイミングで検討してください。
参考文献
- 文部科学省「令和6年度 英語教育実施状況調査の結果について」(2025年6月公表)
- 文部科学省「令和6年度 経年変化分析調査」(2024年度実施、2025年7月公表)
- 国立教育政策研究所「『指導と評価の一体化』のための学習評価に関する参考資料(小学校 外国語・外国語活動)」
- 文部科学省「小学校学習指導要領(平成29年告示)外国語活動・外国語編」






