「集団塾だけでは不安だから、夏から個別指導を追加しようと思うんです」──毎年6月から7月にかけて、私のコンサルに寄せられる相談で最も多いテーマのひとつがこれです。
保護者の気持ちは痛いほどわかります。夏期講習の日程表が届き、苦手単元が手つかずのまま残っている。塾の先生には「このままだと厳しい」と言われた。何かしなければ──と焦って個別指導のパンフレットを取り寄せる。その行動自体は間違いではありません。
しかし、18年で2000名以上を指導してきた経験から言えるのは、個別指導を「追加」して成果が出た家庭と、月謝だけ増えて成果が出なかった家庭には、明確な違いがあるということです。調査データでも、中学受験で塾を併用した家庭は全体の約43%に上りますが、その全員が成果を得ているわけではありません。
私は常々、親が動く範囲を最初に決めることが受験戦略の要だと考えています。個別指導の追加も同じで、「何を・どこまで・いつまでに」を親が設計してから動くかどうかで、結果はまったく変わります。
個別指導を追加しても「効果が出ない」家庭の3パターン
パターン①:集団塾の復習が追いつかないまま個別を上乗せする
最も多い失敗パターンです。集団塾の宿題が消化しきれていないのに、個別指導を週1〜2コマ追加する。結果、子どもの1週間の可処分学習時間がさらに圧迫され、集団塾の復習の質まで下がるという悪循環に陥ります。
ある保護者は「個別を増やしたのに偏差値が2ポイント下がった」と相談に来ました。話を聞くと、集団塾の週3日に加えて個別を週2日追加し、子どもは週5日塾に通っていた。家庭での復習時間はほぼゼロ。これでは集団塾の授業すら定着しません。
個別指導の追加は、総学習量の「足し算」ではなく「入れ替え」で考えるべきです。集団塾のオプション講座を1コマ削って、その時間を個別に充てる──この「引き算してから足す」発想がない家庭は、ほぼ確実に消化不良を起こします。
パターン②:個別の先生に「苦手科目をお任せ」してしまう
「算数が苦手なので見てください」とだけ伝えて、あとは先生任せ。これが2つ目の失敗パターンです。
個別指導の先生は優秀でも、お子さんの失点構造を正確に把握するには時間がかかります。最初の数回は「どこがわからないか」を探るだけで終わり、本格的な指導に入るのは3〜4回目から。週1回の通塾なら、実質的に1か月が「診断期間」で消えます。
一方、模試の結果を見て失点を3つに分類(計算ミス・立式不能・途中停止)し、「この子は速さと比の立式でつまずいている」と特定した状態で個別に依頼すれば、先生は初回から的を射た指導に入れます。
パターン③:苦手科目をすべて個別に丸投げする
「算数も国語の記述も理科の計算も見てほしい」──気持ちはわかりますが、個別指導で同時に扱えるテーマは最大2つが限界です。3つ以上を並行すると、どの単元も中途半端に触れるだけで深い理解に到達しません。
個別指導の費用は1コマ(80〜90分)あたり5,000円〜8,000円が相場です。週2コマ×4週で月4〜6万円。集団塾の月謝と合わせると、夏の教育費は月10万円を超えることも珍しくありません。費用対効果を最大化するなら、「この2単元だけ」と絞り込む勇気が必要です。
個別指導で「効果が出る」家庭に共通する3つの特徴
特徴①:穴の特定が終わっている
効果が出る家庭は、個別指導に申し込む前に、子どもの弱点を具体的に言語化できています。「偏差値が低い」ではなく「割合の文章題で線分図が描けない」「理科の物理計算でグラフの読み取りが弱い」というレベルまで特定している。
この特定作業は親の仕事です。模試3回分の答案を並べて、失点パターンを整理する。30分もあればできます。偏差値表ではなく過去問との相性で見ると、どの単元に時間を投下すべきかが見えてきます。
特徴②:集団塾のコマを「削ってから」追加している
私がコンサルで見てきた「個別指導で成果を出した家庭」の8割以上が、集団塾のオプション講座や演習コマを減らしてから個別を入れていました。
たとえば、夏期講習の全オプションを取ると1日6〜8時間になる塾もあります。ここから苦手単元に直結しないオプション2コマを削り、浮いた時間の半分を個別指導に、残り半分を家庭での復習に充てる。総時間は増やさず、苦手単元への集中度を上げるのがポイントです。
以前、小6の10月にコンサルに来た家庭で印象的な事例がありました。家には市販問題集が12冊以上あり、どれも1周目の途中で止まっていた。塾テキスト+志望校過去問+苦手単元用1冊の3冊に絞り、1日の学習時間は変えなかったのですが、1冊あたりの完成度が劇的に上がりました。個別指導も同じです。教材や講座を「足す」のではなく「絞る」ことで密度が上がる。
特徴③:個別の先生に「範囲と期限」を伝えている
「8月末までに、速さの立式パターン5種類を自力で書けるようにしたい」──このようにゴールと期限を明確に伝えている家庭ほど成果が出ています。先生側も授業設計がしやすくなり、毎回の授業に一貫性が生まれます。
個別指導を正しく活用する3ステップ
ステップ1:模試3回分の失点を「3分類」する
まず、直近の模試3回分の算数(または苦手科目)の答案を用意します。間違えた問題を以下の3つに分類してください。
- 計算ミス:解き方はわかっていたが、計算過程でミスした
- 立式不能:問題文を読んでも式が立てられなかった
- 途中停止:途中まで進んだが、解法の次のステップがわからず止まった
このうち、個別指導で効果が最も高いのは「立式不能」の問題です。計算ミスは演習量と注意力の問題であり個別指導向きではありません。途中停止は類題演習で改善できることが多い。しかし「そもそも式が立てられない」問題は、考え方の根本を1対1で教わることで大きく改善します。
ステップ2:立式不能が集中する単元を「最大2つ」に絞る
3回分の模試で「立式不能」に分類された問題を単元別に整理します。多くの場合、失点は特定の2〜3単元に集中しています。割合・速さ・図形の3大苦手単元のいずれかに偏る子がほとんどです。
ここで重要なのは、3単元以上を同時に扱おうとしないこと。夏休みの40日間で個別指導が効果を発揮できる単元数は最大2つです。「割合と速さだけ」「図形と比だけ」と、勇気を持って絞り込んでください。
ステップ3:個別指導の先生に「3点セット」で依頼する
個別指導の初回面談、または担当の先生に以下の3つを伝えます。
- 対象単元:「速さの文章題、特にダイヤグラムと旅人算の立式」など具体的に
- 現在地:「模試3回で立式不能が5問中4問この単元に集中」と失点データ付きで
- ゴール:「8月末までに、速さの基本パターン5種類の立式を自力でできるようにしたい」
この3点セットがあるだけで、個別指導の先生は「何を・どの水準まで・いつまでに」を逆算して授業を組み立てられます。漫然と「算数を見てください」と言うのとは雲泥の差です。
個別指導を追加する前に確認すべき「3つの数字」
最後に、個別指導を検討する際に親が確認すべき数字を整理します。
| 確認項目 | 判断基準 |
|---|---|
| 集団塾の復習消化率 | 宿題の8割以上を消化できているか。できていなければ個別追加より先に集団塾の量を見直す |
| 子どもの可処分学習時間 | 塾と学校を除いた家庭学習時間が1日90分以上あるか。これ以下なら個別を入れる余裕がない |
| 月額費用の上限 | 集団塾+個別指導の合計が家計の許容範囲内か。個別は月4〜6万円が相場で、夏期はさらに上がる |
朝5時に起きて過去問を分析するのが私の日課ですが、毎朝感じるのは「情報は足りている家庭がほとんど。足りないのは情報の整理と優先順位づけだ」ということです。個別指導の追加も同じ。「何かしなければ」という焦りで動く前に、30分だけ手を止めて失点の分類をしてみてください。その30分が、夏の数万円と数十時間の投資を意味あるものに変えます。
よくある質問(FAQ)
Q1. 個別指導は何年生から始めるのが効果的ですか?
集団塾との併用であれば、小5の夏以降が現実的なタイミングです。小4以前は集団塾のカリキュラムに慣れることが優先で、穴の特定もまだ難しい時期です。小5の夏に模試データが3回分以上たまった段階で、失点パターンを分析してから検討するのが合理的です。
Q2. オンライン個別指導と対面の個別指導、どちらが良いですか?
目的によります。算数の立式指導など「書きながら考えるプロセス」を見てもらいたい場合は対面が有利です。一方、国語の記述添削や理科の知識確認など、画面共有で十分な内容であればオンラインでも効果は変わりません。費用はオンラインのほうが1〜2割安いことが多いので、対象単元の特性で選んでください。
Q3. 家庭教師と個別指導塾、どちらを選ぶべきですか?
家庭教師は1対1が確実で、子どもの集中力が続きやすい反面、費用は個別指導塾の1.5〜2倍が相場です。個別指導塾は1対2〜3の場合があり、先生が他の生徒を見ている間の「待ち時間」が発生します。特定の2単元だけを短期集中で改善したい場合は、費用対効果で個別指導塾の1対1コースを選ぶのがバランスが良いでしょう。
Q4. 個別指導を夏だけのスポット利用にすることは可能ですか?
可能です。むしろ期間を区切ったスポット利用のほうが目的が明確になり、効果が出やすい傾向があります。「7月中旬〜8月末の6週間、週1回、割合の立式だけ」というように期間・頻度・範囲を絞って依頼してください。多くの個別指導塾は夏期の短期コースを設けています。






