夏の模試で毎回図形を落とす。過去問を解いても図形だけ空白が多い。そういう子を持つ親から「どうしたら図形ができるようになりますか」という相談が、毎年7月から集中してくる。
18年間で2,000名以上を指導してきた経験から言えば、図形が苦手な子には3つのタイプがある。このタイプを特定せずに「図形の問題集を追加する」という対策をとる家庭がほとんどだが、それは的外れになりやすい。まず苦手のパターンを見極めることが先決だ。
中学受験の算数で図形が重要な理由
2026年2月に実施された主要中学入試を見ると、御三家を含む難関校の算数において、図形問題が配点の30〜40%を占めるのが標準的な構造だ。広尾学園中の2026年入試では立体図形の出題がなかったことで平均点が49.3点まで下がり、合格者平均との差が広がったという分析が複数の指導機関から出ている。開成中では「時間変化と面積の対応関係を正確に捉える問題」と「条件整理型の図形問題」が合否の分岐点になった。
過去問との相性で見ると、図形の出題形式は学校によって構造がまったく異なる。算数全体の偏差値が足りていても、志望校が「面積比の記述が多い学校」か「補助線の発想力を問う学校」かによって、得点の出方がまったく変わる。
だからこそ、「図形全般が苦手」という大雑把な把握では夏の対策が立てられない。苦手を3タイプに分類して、集中すべきポイントを絞るところから始める必要がある。
図形が苦手な子の3タイプ分類
18年間のデータから整理した3タイプは以下の通りだ。
タイプ1:空間把握型
図を見ても「形が頭の中に入らない」子。複雑な図形を見た瞬間に思考が止まる。特に立体図形や、平面図形でも重なりや回転が絡むと手が止まる。
このタイプの特徴は、問題を読む前に図を見ただけで諦めモードに入ることだ。解答欄に何も書かれていないか、見当外れな数字だけが書いてある。計算力自体は問題ないのに、図形だけ得点が取れない。
原因は、図形を「全体として」とらえようとするからだ。図形問題は分割して見る訓練が必要で、1つの複雑な形を「どこで切るか」という視点が育っていない子が多い。
タイプ2:補助線型
問題の意味は理解できるが、どこに補助線を引けばいいかわからない。図は正確に書けるし、面積や角度の計算式自体は知っている。しかし、そこに至るための「補助線の一手」が浮かばない。
このタイプは「問題を理解しているのに解けない」という経験を繰り返すため、モチベーションを失いやすい。模試の解説を読むと「そうか」と納得するが、自力では同じパターンでも補助線が引けない。
補助線には「平行線を引く」「垂線を降ろす」「対角線を延長する」「等積変形の補助線を引く」という4つの主要パターンがある。このパターンを見て「どれを使うか」の判断が瞬時にできるようになるまで反復することが対策の核心だ。
タイプ3:面積比・相似型
比の概念が弱く、面積比や相似比の問題で手が止まる。計算の手順は理解できるが、辺の比と面積の比の関係(2乗になる)や、相似比から面積比への変換が直感的に掴めていない。
このタイプは特に、偏差値帯55〜65前後の難関校に頻出する出題パターンと合わない場合に致命的になる。難関校になるほど「面積比の設定が複雑な問題」の比重が上がるからだ。
根本的な原因は、「比」という概念を暗記として処理していることにある。比の意味を図形と結びつけて理解している子は、新しい問題が出ても自力で考えられる。比を公式として覚えている子は、少し変化した問題で詰まる。
夏休み前にやること:自分の子はどのタイプか
タイプを特定するには、模試3回分の図形の失点を以下の3分類で記録する。
- 白紙・着手なし:図を見た瞬間に止まっている → タイプ1(空間把握型)
- 途中まで解いているが行き詰まる:「ここまではわかった」という跡がある → タイプ2(補助線型)
- 式は立てているが答えが違う:計算手順はあるが比の扱いで間違える → タイプ3(面積比・相似型)
1人の子が複合型になっていることもあるが、主タイプが1つに絞られることが多い。タイプを絞ったら、夏休みの図形対策は1タイプに集中する。2タイプ以上を同時に取り組むと、どちらも中途半端になる。
以前コンサルで来た小6男子の事例を紹介する。偏差値58で安定していたが、志望校(偏差値62)の過去問を解くと算数で合格最低点に20点以上届かなかった。模試の算数失点を3分類すると、図形問題の失点の8割が「途中まで解いて行き詰まるタイプ」だった。つまりタイプ2(補助線型)だ。志望校の過去問5年分の出題マップを作ったところ、その学校は「平行線を利用した面積問題」が頻出だが、相似や立体はほぼ出ない構造だった。対策を平行線の補助線パターンに絞り、塾の宿題のうち立体図形の演習を2割削って浮いた時間を補助線の反復に充てた。11月の段階で過去問の図形得点率が倍近くになり、本番でも合格を果たした。
タイプ別の家庭学習設計
タイプ1(空間把握型)の対策
最初の1週間は「図形を分割して見る」練習だけに限定する。複合図形を見たら、まず定規で「どこで区切れるか」を書き込む作業を毎日10分行う。目的は計算ではなく、「分割の手順」を体に覚え込ませることだ。
立体図形に苦手がある子は、展開図を実際に紙で作る作業が有効だ。1日1つ、展開図を切り抜いて組み立てる経験を2週間続けると、空間のイメージが変わってくる。
親の役割は「図を一緒に分割する付き合い」に限定すること。「どこで切れそう?」と問いかけて、子どもの答えを聞くだけでいい。正誤の評価は後回しにして、「図を分割しようとしている行動」を評価する。
タイプ2(補助線型)の対策
補助線の4パターン(平行線・垂線・対角線延長・等積変形)を1パターンずつ、週替わりで集中練習する。夏休み4週間で4パターンを1周できる設計だ。
練習の方法は「補助線だけ書いて止める」方式を推奨する。問題を見たら補助線だけを引き、計算は一旦置く。「どのパターンの補助線を引いたか」を声に出して説明させる。これが転用力を育てる。
過去問との相性で見ると、補助線のパターンは学校によってかなり偏りがある。志望校の過去問5年分で「どのパターンが多いか」を親が確認しておくと、練習の優先順位が変わる。
タイプ3(面積比・相似型)の対策
「辺の比と面積の比は同じか?」という問いを毎日1問、子どもに声に出して答えさせるところから始める。正方形の1辺が2倍になると面積は4倍(2の2乗)になる。この感覚が体に入るまでは、公式への移行を急がない。
相似比から面積比への変換は「比を2乗する」という1ルールを完全に理解してから応用問題に進む。多くの子がこのルールを暗記しているが、意味を理解していないために少し変化した問題で詰まる。
家庭学習の設計は、30分を3ブロックに分ける。①復習(前回やった比の問題を1問解き直す・10分)→②演習(新しい問題を1問解く・10分)→③説明タイム(解いた内容を親に説明する・10分)。このサイクルを1回転させることが学習密度を上げる。
志望校の出題マップと図形対策の照合
志望校選定の段階で勝負は決まっている、というのが18年間の結論だ。図形問題の対策も、志望校の出題構造と照合してから設計しないと意味がない。
親がやるべきことは、志望校の過去問5年分を「解かずに読む」作業だ。図形問題の大問を確認し、以下を記録する。
- 平面図形と立体図形の比率
- 補助線を要する問題の比率
- 面積比・相似比の問題の比率
- 論述式か答えだけか
この出題マップを作ると、子どもの苦手タイプと志望校の出題傾向のミスマッチが可視化される。ミスマッチが大きい場合は、対策の優先順位を志望校の頻出パターンに合わせて変更する。夏の段階で確認しておくべき作業だ。
親が動く範囲を最初に決める、という原則はここでも変わらない。出題マップの作成・塾講師への相談・教材の選定は親の仕事。子どもの仕事は補助線を引く練習と説明タイムの2つに絞る。役割を分けると、家庭学習が機能しやすくなる。
FAQ
中学受験の算数で図形が占める配点はどのくらいですか?
学校によって異なりますが、難関校・中堅校を問わず算数全体の配点の30〜40%を図形問題が占めることが多いです。2026年入試でも広尾学園中や開成中など多くの学校で図形問題が合否を左右するポイントになりました。志望校の過去問5年分を「読む」だけで、その学校の図形の比重は30分で把握できます。
図形問題の3タイプはどうやって見極めればいいですか?
模試3回分の図形失点を「白紙・着手なし(タイプ1)」「途中まで書いて行き詰まる(タイプ2)」「式は立てているが答えが違う(タイプ3)」の3つに分類します。答案用紙に何も書いていなければタイプ1(空間把握型)、補助線を引いた跡があって止まっているならタイプ2(補助線型)、計算過程はあるが答えが違うならタイプ3(面積比・相似型)と判断します。
夏休み中に図形の苦手を完全に克服できますか?
「完全克服」を目標にすると高確率で中途半端になります。現実的な目標は「志望校の図形問題で部分点を安定して取れること」です。40日間で1タイプに集中すれば、得点率が倍近くになるケースは珍しくありません。夏休みの終わりに志望校の過去問の図形問題だけを解いて、得点の変化を確認することをお勧めします。
図形問題に適した問題集・教材はどれがいいですか?
タイプによって推奨が変わります。タイプ1(空間把握型)は展開図・立体の切断を扱う教材を1冊。タイプ2(補助線型)は補助線の引き方をパターン別に解説している問題集を1冊。タイプ3(面積比・相似型)は比の概念理解から始める基礎問題集を1冊。いずれも1冊を繰り返し使うことを優先してください。3タイプ合計でも使う教材は2冊以内が上限です。複数冊の並走は学習密度を下げます。
塾で図形を教わっているのに家でも練習が必要ですか?
塾の授業は「知識のインプット」の場です。知識を「志望校で点を取る力」に変えるためには、家庭での反復と説明タイムが必要です。特に「補助線を引く判断」と「比の感覚」は、繰り返しの練習と言語化なしには定着しません。塾に任せるだけでは、授業中にわかったつもりでも模試で再現できない状態が続きます。
参考文献
- 2026年広尾学園中 算数難易度・傾向・対策 — 中学受験コベツバ, 2026年2月
- 2026年度 開成中学校 算数 入試問題完全解説 — 中学受験算数個別指導 理数館, 2026年2月
- 今すぐできる平面図形対策!絶対おさえたい6つのパターン — Z会受験情報ナビ
- 【中学受験】平面図形の補助線 | 引き方はこの4パターンだけ! — じゅくこーブログ






