スーパーのお菓子コーナーで「買って!」と泣き叫ぶ我が子。周囲の視線が突き刺さり、思わず「もういい加減にして」と言いたくなる──。保護者面談でよく出るのが、まさにこの「外出先のイヤイヤどうすればいいですか」という相談です。
園で見ている限り、2歳前後のイヤイヤは「困った行動」ではなく「自己主張の芽生え」です。発達心理学では「第一次反抗期」と呼ばれますが、これは反抗しているのではなく、「自分はこうしたい」という意思が育っている証拠。つまり、イヤイヤが出ること自体は順調な発達のサインなのです。
この記事では、保育士15年の現場経験から、イヤイヤ期の2歳児が外出先や日常で見せる「困った場面」を5つに分類し、それぞれに効果的な声かけパターンをお伝えします。
そもそもイヤイヤ期とは?──発達の視点から理解する
イヤイヤ期は一般的に1歳半〜2歳頃から始まり、2歳前後にピークを迎え、3〜4歳頃に落ち着いてくるとされています。ただし、始まる時期も終わる時期も個人差が大きく、「うちの子だけ激しい」と感じる必要はありません。
この時期の子どもの脳では、前頭前野(感情をコントロールする部分)がまだ発達途上にあります。「こうしたい」という欲求は明確に芽生えているのに、それを言葉で伝える力も、我慢する力もまだ追いついていない。園で見ていると、この「気持ちの量と表現手段のギャップ」がかんしゃくの正体だと感じます。
保育園の2歳児クラス20人を観察していると、イヤイヤの激しさにもかなりの幅があります。毎日何度もかんしゃくを起こす子もいれば、比較的穏やかに過ぎる子もいる。他の子と比べると見落としますが、大切なのは「その子なりの自己主張がちゃんと出ているか」です。
場面1:スーパーのお菓子コーナーで「買って!」と泣き叫ぶ
なぜ起きる?
スーパーは2歳児にとって刺激の宝庫です。カラフルなパッケージ、キャラクターのお菓子、手の届く棚──。「欲しい」という欲求が爆発するのは自然なことです。そこで「ダメ」と言われると、まだ我慢の回路が未熟なため、泣いて訴えるしかありません。
効果的な声かけ
【事前予告+選択肢】「今日はお菓子は買わないよ。でもバナナとりんご、どっちがいい?」
ポイントはお店に入る前に伝えること。2歳児は「今ここ」で判断するので、お菓子を目の前にしてから「買わないよ」と言っても効きません。入店前に約束し、代わりの選択肢を渡すことで「自分で決めた」という満足感を残せます。
もし泣いてしまったら、無理にその場で言い聞かせようとせず、一度お菓子コーナーから離れてください。場所を変えるだけで気持ちが切り替わることがあります。周囲の目が気になるかもしれませんが、2歳児の泣きは「しつけの失敗」ではなく「発達の通過点」です。
場面2:朝の着替えで「イヤ!自分で!」と動かない
なぜ起きる?
「自分でやりたい」は自立心の芽生えそのもの。でも手先の発達がまだ追いついていないので、ボタンが留められない、靴下が上手く履けない。そのもどかしさが「イヤ!」になります。
効果的な声かけ
【部分参加+実況中継】「じゃあボタンの最後の1つ、○○ちゃんがパチンってしてみて。……できた!自分でできたね」
全部を任せると時間がかかりすぎて親子ともにイライラします。最初の8割を親がさりげなく手伝い、最後の「完成」を子どもに任せる。園でもこの方法を使っていて、「自分でできた!」という達成感だけが記憶に残るので、翌日も意欲的に取り組んでくれます。
場面3:食事中に「これイヤ」と食べ物を投げる
なぜ起きる?
2歳児が食べ物を投げる理由はさまざまです。味や食感が苦手、お腹がいっぱい、遊びたい、スプーンがうまく使えなくて怒った──。「行儀が悪い」のではなく、まだ「いらない」を言葉で伝えきれないのです。
効果的な声かけ
【感情の翻訳+代替行動】「いらなかったんだね。いらないときは、お皿のここに置いてね」
まず子どもの気持ちを言語化して受け止め、次に「投げる」の代わりになる行動を具体的に見せます。園の給食でも、投げた瞬間に叱るのではなく、「そっか、これはイヤだったか」と気持ちを拾ってから、お皿の端に置く動作を一緒にやります。2〜3週間続けると、少しずつ投げる回数が減っていきます。
場面4:公園から「帰らない!」と動かない
なぜ起きる?
2歳児はまだ「時間の見通し」が持てません。楽しい今が永遠に続くと思っているので、「帰るよ」と言われると世界の終わりのように感じます。
効果的な声かけ
【予告カウントダウン+次の楽しみ】「あと滑り台3回したら帰ろうね。……2回目!あと1回!……おしまい。おうち帰ったらおやつにしよう」
「あと5分」という時間の概念はまだ理解できないので、「あと3回」のように回数で見通しを伝えるのが効果的です。加えて、帰った後の楽しみを予告しておくと、「帰る=楽しいことが終わる」ではなく「帰る=次の楽しいことが始まる」に変わります。
私も息子が小さかった頃、夕方の公園で同じことをやっていました。朝7時に出勤して夕方お迎えに行く生活だったので、公園で過ごす15分間は親子にとって大事な時間。それでも「あと3回」のカウントダウンと「おうち帰ったらシール貼ろう」の合わせ技で、わりとスムーズに切り上げられていました。
場面5:寝る前の「まだ遊ぶ!」で就寝が大幅に遅れる
なぜ起きる?
眠い→機嫌が悪い→でも寝たくない→さらに機嫌が悪くなる、という悪循環です。実は本人も眠くて辛いのですが、「眠い」を自覚する力がまだ弱いので、イヤイヤとして表出します。
効果的な声かけ
【ルーティンの力+体のサインを実況】「絵本読んだら電気バイバイだよ。……あ、○○ちゃんの目がトロ〜ンってなってきた。体がおやすみしたいって言ってるね」
就寝前のルーティン(お風呂→歯磨き→絵本→消灯)を毎日同じ順番で繰り返すと、体が自然に「次は寝る時間だ」と切り替わります。園の午睡でも、先に布団に横になった子が静かになると、周りの子もつられて眠り始めます。
「まだ遊ぶ!」には、「そうだよね、楽しかったもんね。でも体がおやすみって言ってるよ」と、子ども自身の体のサインを代弁してあげると、不思議と受け入れやすくなります。
イヤイヤ期に「やってはいけない」3つのNG対応
声かけのパターンと合わせて、避けたほうがよい対応もお伝えします。
NG1:感情的に怒鳴る
大人が大きな声を出すと、子どもは「何が悪かったか」ではなく「怖い」だけが記憶に残ります。自己主張そのものを抑え込むことになり、将来「自分の気持ちを言えない子」になるリスクがあります。
NG2:「泣くなら置いていくよ」と脅す
分離不安が強い時期に「置いていく」と言うと、子どもの安全基地が揺らぎます。以前、保育園入園直後の子どもの「お迎え時の号泣」を観察していた際に学んだのですが、子どもが安心して感情を出せる環境があってこそ、自己主張は健全に育ちます。脅しで泣き止んだように見えても、本当の問題解決にはなっていません。
NG3:毎回要求を飲んでその場をしのぐ
「泣けば買ってもらえる」という学習が成立すると、かんしゃくはエスカレートします。大切なのは、「ダメなものはダメ」のラインを穏やかに一貫して守ること。感情は受け止めつつ、行動のルールはブレない──これが園でも家庭でも基本です。
まとめ:イヤイヤ期の5場面と声かけ早見表
| 場面 | 背景にある発達 | 声かけパターン |
|---|---|---|
| スーパーで泣き叫ぶ | 欲求の爆発×我慢の未熟 | 事前予告+選択肢 |
| 着替えで動かない | 自立心×手先の未発達 | 部分参加+実況中継 |
| 食べ物を投げる | 言葉で伝えきれない | 感情の翻訳+代替行動 |
| 公園から帰らない | 時間の見通しが持てない | 予告カウントダウン+次の楽しみ |
| 寝る前にまだ遊ぶ | 眠さの自覚が弱い | ルーティン+体のサイン実況 |
どの場面にも共通するのは、まず気持ちを受け止めてから、具体的な代替行動を見せること。「ダメ!」だけでは子どもは何をすればいいかわかりません。「イヤだったんだね」+「こうしてみよう」のセットが、現場で最も効果のある声かけです。
よくある質問(FAQ)
Q1. イヤイヤ期が2歳半を過ぎてもひどくなる一方です。発達に問題がありますか?
イヤイヤ期のピークは2歳前後とされますが、3歳を過ぎてから激しくなる子もいます。言葉が増えてくると形を変えて主張が強くなることもあり、これも発達の範囲内です。ただし、3歳を過ぎても言葉でのやりとりがほとんどできない、かんしゃくが30分以上続いて切り替えられない、といった状態が日常的に続く場合は、お住まいの自治体の発達相談窓口に相談してみてください。
Q2. 人前で泣かれると「しつけができていない」と思われそうで辛いです。
保護者面談でよく出るのがこの悩みです。園で見ている限り、2歳児が人前で泣くのは発達上まったく自然なことです。「しつけの問題」ではなく「脳の発達段階の問題」なので、自分を責める必要はありません。周囲の大人の多くは「うちもそうだった」と共感しています。
Q3. きょうだいがいると、イヤイヤ期の対応が難しくなりますか?
上の子の都合に合わせて動くことが増えるため、2歳児のペースを守りにくいのは事実です。ただ、上の子が声かけのお手本になることも多く、「お兄ちゃんもお皿に置いてるよ」と見せるだけで真似してくれることがあります。きょうだいの模倣効果は園でもよく見られます。
Q4. パパとママで対応が違うとき、子どもは混乱しますか?
「ダメ」のラインが大きくズレていると混乱します。たとえばママは「お菓子は買わない」、パパは「泣いたら買ってあげる」だと、子どもは「泣けばいい」と学習します。対応の細部は違っていいのですが、「ダメなものはダメ」の基準だけは夫婦で揃えておくことが大切です。
参考文献
- 森口佑介(2019)『自分をコントロールする力 非認知スキルの心理学』講談社現代新書
- 厚生労働省「保育所保育指針解説」(2018年改定)──1歳以上3歳未満児の保育に関わるねらい及び内容
- 大久保圭介ほか(2016)「幼児の自己制御機能の発達」『発達心理学研究』第27巻第1号
- ベビーパーク「イヤイヤ期はいつからいつまで?子どもの自己主張を受け止める親の向き合い方」https://www.babypark.jp/column/how-to-accept-your-childs-self-assertion/






