「さっき怒ったのに、また同じことをする」のはなぜ?
保護者面談でよく出るのが、「さっき叱ったばかりなのに、こっちの顔を見ながらまた同じことをするんです」という相談です。コップの水をわざとこぼす。テレビのリモコンを何度も隠す。お友達のおもちゃを取って、親の反応をじっと見ている──。
2〜4歳のお子さんにこうした行動が見られたら、それは単なる「わがまま」や「しつけ不足」ではなく、試し行動の可能性があります。
試し行動とは、子どもが「こんなことをしても、ママ(パパ)は自分を好きでいてくれる?」と確認するために、あえて大人を困らせる行動を取ることです。愛着理論で言う「安全基地の確認作業」であり、園で見ている限り、ほとんどの子が2〜4歳のどこかで経験する、ごく自然な発達プロセスです。
試し行動が起きやすい5つのパターン
15年の保育現場で観察してきた中で、試し行動が出やすいタイミングには共通点があります。以下の5パターンに分類すると、「なぜ今この行動が出ているのか」が見えてきます。
パターン1:叱られた直後の「リピート型」
「ダメ」と言われた行動を、親の顔を見ながら繰り返します。2〜3歳に最も多いパターンです。叱られた=嫌われた?という不安から、「怒っても好き?」を確認しています。
パターン2:きょうだい誕生後の「赤ちゃん返り型」
下の子が生まれた後、急に乱暴になったり、できていたことを「できない」と言い始めたりします。注目が減った不安から、ネガティブな方法で親の視線を取り戻そうとしています。
パターン3:環境変化後の「確認型」
引っ越し、転園、親の仕事復帰など生活リズムが変わった直後に出現します。「新しい環境でも自分は守られている?」という安全基地の再確認です。
パターン4:夕方〜就寝前の「疲労蓄積型」
日中は問題なく過ごしているのに、夕方になると急にぐずる・わざと物を投げるパターン。疲労で感情制御が低下し、甘えたい気持ちが「困らせる行動」として表出します。
パターン5:登園・登園前の「分離不安型」
朝の準備中にわざと時間のかかることをする、靴を隠す、「行きたくない」の代わりに物を壊すなど。言葉で分離不安を表現できない年齢で多く見られます。
試し行動の「分散」──クラスの大半が経験している
園で見ている限り、2〜4歳クラスで試し行動が一度も出ない子のほうが少数派です。私が担当した3歳児クラス20人の場合、ある月の記録では:
- ほぼ毎日何らかの試し行動が見られる:4人
- 週に2〜3回出る:7人
- 月に数回程度:6人
- ほとんど見られない:3人
つまりクラスの約8割が、週に1回以上は試し行動をしている計算です。他の子と比べると見落としますが、頻度も強度も個人差が大きく、「うちの子だけ」ということはまずありません。
やってはいけないNG対応3つ
試し行動に対して逆効果になる対応があります。保護者面談で繰り返しお伝えしている「やらないほうがいいこと」を3つ整理します。
NG1:「そんな子は知らない!」と突き放す
試し行動の目的は「嫌われていないか確認すること」です。突き放す言葉は、子どもの不安を最大化し、行動をエスカレートさせます。
NG2:毎回長時間叱って「反省」を求める
2〜4歳は長い説教の内容を処理できません。叱りが長いほど「自分は悪い子」という自己否定だけが残り、試し行動の頻度が上がる悪循環に入ります。
NG3:完全に無視する
「無視すればやめる」というアドバイスもありますが、試し行動の場合は逆効果です。「やっぱり見てもらえない」と確認してしまい、さらに激しい行動に発展することがあります。
「先回り承認」で試し行動を予防する3ステップ
試し行動が起きてから対処するより、起きる前に愛情を先に渡しておくほうが効果的です。私はこれを「先回り承認」と呼んでいます。
ステップ1:1日2回の「5秒スキンシップ」を日課にする
朝の出発前と、帰宅直後(または夕食前)の2回、5秒間のハグを日課にします。ポイントは毎日同じタイミング・同じ長さで行うこと。
実は、うちの息子が4歳前後のとき、夕方の試し行動(わざとコップを落とす、弟を叩く)が目立った時期がありました。朝7時に出勤する生活で、スキンシップの時間が足りていなかったんですね。そこで玄関での「行ってきますのぎゅー」を5秒ルーティンとして始めたところ、2週間ほどで夕方の試し行動が明らかに減りました。たった5秒でも、日課にすることが子どもの安心につながります。
ステップ2:「存在承認」の声かけを1日3回散りばめる
「行動を褒める」のではなく、「いてくれて嬉しい」を伝える声かけです。具体例:
- 「〇〇ちゃんと一緒にごはん食べられて嬉しいな」
- 「今日も元気な顔が見られて安心した」
- 「隣にいてくれるだけで楽しいよ」
何かを「できた」から褒めるのではなく、存在そのものを肯定する言葉です。これが愛着理論で言う「安全基地の強化」にあたります。
ステップ3:「叱った後の30秒フォロー」を習慣化する
試し行動に限らず、叱る場面は日常で避けられません。大事なのは叱った後の30秒です。
- 行動を短く注意する(10秒以内):「投げるのはダメだよ」
- 30秒待つ(子どもの感情が落ち着く時間)
- フォローの一言:「怒ったけど、好きなのは変わらないよ」
この3番目の一言があるかないかで、叱りの後に試し行動が出るかどうかが大きく変わります。保護者面談でよく出るのが「叱った後にフォローを入れたら、翌日から同じ行動が減った」という報告です。
試し行動が「長引く」ときのチェックポイント
ほとんどの試し行動は、先回り承認を2〜3週間続けることで頻度が下がります。ただし、以下の場合は園の担任や地域の子育て支援センターへの相談をおすすめします。
- 3週間以上、先回り承認を続けても頻度・強度が変わらない
- 自傷行為(頭を壁にぶつける、自分を叩く)を伴う
- 園でも家庭でも、特定の大人だけに集中して出る
- 睡眠・食事・排泄など基本的な生活リズムも同時に崩れている
これらは試し行動の範囲を超えて、環境要因や発達面の支援が必要な可能性があります。一人で抱え込まず、まずは園の担任に「最近こういう行動が増えているんですが、園ではどうですか?」と聞いてみてください。
FAQ
Q1. 試し行動とイヤイヤ期の違いは?
イヤイヤ期は「自分でやりたい」「思い通りにしたい」という自己主張が中心です。試し行動は親の反応を確認するために、あえて「ダメなこと」をする点が異なります。見分けるポイントは「行動中に親の顔を見ているかどうか」。チラチラと反応を確認していたら、試し行動の可能性が高いです。
Q2. 試し行動のピークは何歳ですか?
園で見ている限り、2歳後半〜4歳にかけてが最も多く見られます。言葉で気持ちを十分に表現できるようになる4歳後半〜5歳にかけて、自然に減少する子が大半です。ただし、環境変化(入学、引っ越し、きょうだい誕生)のタイミングで一時的に再出現することもあります。
Q3. 共働きで一緒にいる時間が短いと試し行動は増えますか?
時間の「長さ」より「質」のほうが影響します。1日10時間一緒にいてもスマホを見ているだけなら子どもは満たされません。逆に、朝と夜の5秒ハグと存在承認の声かけを意識するだけで、短い時間でも安全基地は強化できます。
Q4. パパにだけ試し行動をする場合はどう考えますか?
「パパにだけ」出る場合、パパとの関係性で安全基地がまだ確立途上にあるサインです。パパとの1対1の時間(5分でもOK)を意識的に作り、パパからの存在承認の声かけを増やすことで改善するケースが多いです。
Q5. 試し行動に毎回付き合っていたら甘やかしになりませんか?
先回り承認は「問題行動を許す」こととは違います。行動への注意は短く伝えつつ、存在そのものは否定しない。この二層構造が重要です。「ダメなことはダメ。でも好きなのは変わらない」──この一貫したメッセージが、試し行動を最も早く終わらせます。
まとめ:試し行動は「愛されたい」のサイン
試し行動は、子どもからの「不器用なラブレター」です。困らせたいのではなく、確認したいだけ。園で何百人もの子どもを見てきましたが、先回り承認を取り入れたご家庭では、早ければ1〜2週間で行動の頻度が目に見えて減っています。
完璧にやる必要はありません。まずは明日の朝、玄関で5秒間のハグから始めてみてください。
参考文献
- ジョン・ボウルビィ『母子関係の理論 I 愛着行動』(岩崎学術出版社、新版2003年)──愛着理論の原典。子どもが安全基地を求める行動メカニズムを体系化。
- 遠藤利彦 編『愛着の発達と臨床──子どもの心の安全基地を求めて』(ミネルヴァ書房、2005年)──日本の文脈で愛着と子育てを解説する研究書。
- 厚生労働省「保育所保育指針解説」(2018年)──保育現場での子どもの情緒的安定と愛着形成に関する指針。
- All About「試し行動で大人をわざと困らせる子供の心理と対処法」(参照2026-06-07)──試し行動の具体例と家庭向け対処法の整理。






