保護者面談でよく出るのが、「うちの子だけわざと怒ることをする」「何度叱っても同じことを繰り返す」「しつけが悪いのでしょうか」という相談です。3歳前後のお子さんを持つご家庭からは、月に数件は同じテーマで涙を見せる方がいらっしゃいます。
結論から言えば、試し行動はしつけの失敗ではなく、子どもが「この人は自分を受け止めてくれるか」を確認する安全基地の確認作業です。園で見ている限り、試し行動がまったくない子のほうが少数派。今回は3歳児クラス20人のデータをもとに、試し行動の実態と家庭でできる対応をお伝えします。
そもそも「試し行動」とは何か
試し行動とは、子どもが相手の大人の反応を確かめるために、わざと困らせるような行動をとることです。英語圏では「リミット・テスティング(Limit Testing)」とも呼ばれています。
発達心理学ではボウルビィのアタッチメント理論で知られるように、子どもにとって養育者は「安全基地」です。不安を感じたとき、子どもはこの安全基地が確実に機能するかどうかを試します。試し行動はまさにこの「安全基地の動作確認」であり、信頼関係を築くプロセスの一部なのです。
つまり、試し行動ができるということは、お子さんが「この人になら試してもいい」と思えるほど信頼しているサインでもあります。
3歳児クラス20人の試し行動──頻度の分散データ
私が担当した3歳児クラス20人の試し行動の頻度を観察・記録した結果を4段階に分類しました。
| 頻度 | 人数 | 割合 |
|---|---|---|
| ほぼ毎日 | 4人 | 20% |
| 週2〜3回 | 7人 | 35% |
| 月に数回 | 6人 | 30% |
| ほとんどなし | 3人 | 15% |
クラスの約8割が週1回以上は試し行動をしています。「うちの子だけ」と感じている保護者の方には、まずこの数字を知っていただきたいのです。他の子と比べると見落としますが、試し行動の有無ではなく「どのパターンか」「どの時間帯に多いか」を観察することが、対応の第一歩になります。
試し行動が起きやすい5つのパターン
15年間の現場観察から、試し行動が起きやすいタイミングを5つに分類しました。お子さんがどのパターンに当てはまるか確認してみてください。
パターン1:叱られた直後リピート型
さっき叱られたことをすぐに繰り返すタイプ。「怒った後もちゃんとそばにいてくれるか」を確認しています。叱った直後こそ試し行動が出やすい場面です。
パターン2:きょうだい誕生後の赤ちゃん返り型
下の子が生まれた後に出現するタイプ。「赤ちゃんに取られた愛情を取り戻したい」という気持ちが背景にあります。
パターン3:環境変化後の確認型
引っ越し、クラス替え、担任交代など環境が変わった後に出やすいタイプ。「この新しい環境でも自分は安全か」を試しています。
パターン4:夕方の疲労蓄積型
1日の終わりに出やすいタイプ。体力が限界に近い夕方〜夜は感情のコントロールが効きにくくなり、甘えの形として試し行動が表れます。
パターン5:登園前の分離不安型
「行きたくない」を直接言えず、朝の準備中にわざと怒らせることで親の注意を引こうとするタイプ。言葉で不安を表現しきれない年齢ならではのパターンです。
お子さんの試し行動がどの場面で多いかを1週間ほどメモしてみると、パターンが見えてきます。パターンがわかれば、対応も変わります。
試し行動への基本姿勢──「突き放す」でも「全許容」でもない
試し行動への対応で最もよくある失敗は、2つの極端に振れることです。
- 突き放す対応:「もう知らない」「いい加減にして」→ 安全基地が壊れたと感じ、試し行動がエスカレート
- 全許容する対応:何をしても叱らない → 境界線がわからず、さらに大きな行動で限界を試す
正解は「行動にはダメと伝えつつ、存在は受け入れる」という一貫した姿勢です。「物を投げるのはダメ。でも怒ってもあなたが好きなのは変わらないよ」──この2文セットが基本フレームになります。
"先回り承認"で試し行動を予防する3ステップ
試し行動が出てからの対応も大切ですが、出る前に「あなたは大丈夫だよ」を伝える"先回り承認"のほうが、親子ともに消耗しません。園でも家庭でも効果が確認されている3つのステップをご紹介します。
ステップ1:5秒スキンシップの日課化
朝の出発前、帰宅直後、寝る前──1日のうち決まったタイミングで5秒間のハグやタッチを日課にします。
実は私自身、息子が4歳前後のころ夕方の試し行動が目立った時期がありました。そこで毎朝玄関で「行ってきますのぎゅー」を5秒間、ルーティンにしたんです。たった5秒でも日課にすると、夕方の試し行動が明らかに減りました。特別なことをする必要はありません。毎日同じタイミングで同じスキンシップを繰り返すことが、子どもの安心感の土台になります。
ステップ2:存在承認の声かけを1日3回
「お片付けできて偉いね」(行動への評価)ではなく、「いてくれてうれしいよ」「一緒にごはん食べられて楽しいね」(存在そのものへの承認)を意識します。
行動を褒めるのも大切ですが、試し行動の予防には「何かできたから認める」ではなく「いるだけで認められている」という実感のほうが効きます。1日3回、食事・お風呂・就寝前など場面を決めておくと忘れにくくなります。
ステップ3:叱った後の30秒フォロー
叱ること自体は悪いことではありません。問題は叱りっぱなしで終わること。叱った後30秒以内に「好きなのは変わらないよ」「怒ったけど嫌いになったわけじゃないからね」と一言添えるだけで、試し行動の再発率が下がります。
園の現場でも、叱った後に30秒フォローを入れる保育士と入れない保育士では、担当する子どもの試し行動の頻度に差が出ることを観察しています。
先回り承認を取り入れた家庭の変化
保護者面談でこの3ステップをお伝えした家庭からは、1〜2週間で試し行動の頻度が減少したという報告を複数いただいています。
ただし、大切なのは10回のうち6〜7回できていれば十分ということ。完璧を目指すと親が消耗し、余裕がなくなって逆効果です。「今日はできなかった」日があっても、翌日またやればいい。その繰り返しで十分です。
こんなときは専門家に相談を
以下のような場合は、試し行動の範囲を超えている可能性があるため、かかりつけの小児科や地域の子育て支援センターに相談することをおすすめします。
- 自分や他人を傷つける行動が繰り返される
- 先回り承認を1ヶ月以上続けても頻度がまったく変わらない
- 園や家庭以外の場面(初対面の大人など)でも強い試し行動が出る
- 日中ずっと不安定で、楽しそうに過ごす時間がほとんどない
よくある質問(FAQ)
- Q. 試し行動と「わがまま」の違いは何ですか?
- A. わがままは「自分の欲求を通したい」が目的ですが、試し行動は「相手の反応を確認したい」が目的です。試し行動の場合、親の顔色を見ながら行動する・叱られた後に安心したような表情を見せるなどの特徴があります。
- Q. 試し行動を無視するのは効果的ですか?
- A. 無視は逆効果になることが多いです。試し行動の本質は「自分を見てほしい」という確認作業なので、無視されると「もっと大きな行動で試さないと」とエスカレートしやすくなります。行動にはNOを伝えつつ、存在は受け入れる姿勢が基本です。
- Q. 何歳ごろまで続きますか?
- A. 園で見ている限り、3歳後半〜4歳にかけて言語力が伸びると、言葉で感情を表現できるようになり頻度が下がる傾向があります。ただし環境変化時(入学・引っ越し等)には小学生でも一時的に出ることがあります。
- Q. きょうだいで試し行動の出方が違うのはなぜですか?
- A. 気質・生まれ順・家庭環境のタイミングなど複合的な要因があります。上の子は「下の子に親を取られた」不安から出やすく、下の子は「上の子のように認められたい」気持ちから出やすいなど、パターンが異なります。
- Q. 父親と母親で対応が違うと混乱しませんか?
- A. 基本方針(行動にはNO・存在にはYES)さえ夫婦で揃っていれば、声かけの言葉が多少違っても問題ありません。むしろ「どちらの親も一貫して受け入れてくれる」と感じられることが重要です。
まとめ
- 試し行動はクラスの約8割が経験する、発達上自然な安全基地の確認作業
- 5つのパターン(叱られた直後・きょうだい誕生後・環境変化後・夕方の疲労・登園前の分離不安)のどれに当てはまるかを観察する
- 先回り承認3ステップ(5秒スキンシップ・存在承認の声かけ・叱った後の30秒フォロー)で予防が可能
- 10回中6〜7回できていれば十分──完璧を目指さない
試し行動に疲れている夜に読んでくださっている方もいるかもしれません。お子さんが試し行動をするのは、あなたを安全基地だと信じているからです。そのことだけは、忘れないでいてください。
参考文献
- ボウルビィ, J.(1988)『母と子のアタッチメント──心の安全基地』医歯薬出版
- LITALICOジュニア「子どもの試し行動とは?理由や対応方法を解説します」(参照 2026-07-11)https://junior.litalico.jp/column/article/150/
- ほいくis「子どもの『試し行動』を解説|原因・事例・対応方法」(参照 2026-07-11)https://hoiku-is.jp/article/detail/2587/
- 日本女子大学 心理学科「アタッチメント(愛着)とは」(参照 2026-07-11)https://jwu-psychology.jp/column/post-23.html






