模試の成績表が返ってきた日、子どもより先に親が動揺する。18年間で2000名以上を指導してきた経験から断言するが、模試返却日に親がやるべきことは、偏差値の数字を見て一喜一憂することではない。
偏差値は集団の中の相対的な位置を示す指標であり、子ども自身の学力の成長曲線を映す鏡ではない。母集団が変われば、同じ実力でも偏差値は上下する。5月に偏差値が3ポイント下がったとしても、それは学力が落ちたのではなく、新規参入者が増えて母集団のレベルが変わっただけというケースは珍しくない。
この記事では、模試の結果が悪かったときに親が冷静に成績を分析する3ステップと、子どもの自己効力感を壊さない声かけの設計原則を整理する。
偏差値の代わりに見るべき「3つの数字」
模試が返ってきたら、偏差値の数字を閉じて、まず以下の3つを確認する。これは私がコンサルで毎年5〜7月に使う処方箋でもある。
数字1:正答率50%以上の問題の得点率
模試の成績表には、各問題の正答率が記載されている。ここで最初に見るべきは、正答率50%以上の問題をどれだけ取れているかだ。合否を分けるのは難問の正解数ではなく、みんなが解ける問題を確実に取れるかどうかである。
正答率50%以上の問題の得点率が80%を超えていれば、基礎は固まっている。70%未満なら、穴がある。穴の位置を特定することが、次の一手を決める出発点になる。
数字2:科目別偏差値のバランスと志望校配点との照合
4科目の偏差値合計ではなく、科目ごとのバランスを見る。そしてそれを志望校の配点構造と照合する。
偏差値表ではなく過去問との相性で見ると、風景がまったく変わることがある。たとえば算数の偏差値が55で国語が62の子がいたとして、志望校の算数配点が150点・国語が100点なら、国語の優位は打ち消される。逆に、算数100点・国語150点の配点構造なら、この子の国語力は大きな武器になる。
科目別偏差値と志望校の配点構造を並べて見たことがない家庭は、模試返却日にこの作業を1回やるだけで、学習の優先順位が変わる。
数字3:前回比の素点推移
偏差値は集団の中の位置。素点は子ども自身の成長曲線。この2つを混同しないことが、模試活用の第一歩だ。
前回の模試と今回の模試で、各科目の素点がどう動いたかを確認する。偏差値が3ポイント下がっていても、素点が5点上がっていれば、学力は伸びている。母集団の変化で相対順位が下がっただけだ。逆に、偏差値は変わらなくても素点が10点下がっていれば、実力面で何かが起きている。
この3つの数字を、模試が返ってくるたびに記録しておくと、3回分の推移で子どもの実力の方向性が見えてくる。1回の模試で判断するのは早計であり、最低3回分のデータが揃ってから方針を考えるのが原則だ。
失点を3分類して「穴の正体」を特定する
3つの数字で全体像を把握したら、次は失点の中身を分解する。私が18年間使い続けている失点の分類法は、以下の3つだ。
| 分類 | 定義 | 具体例 | 対策の方向性 |
|---|---|---|---|
| 計算ミス | 解法はわかっていたが、計算や転記で間違えた | 繰り上がり忘れ、符号ミス、問題の読み飛ばし | 計算練習の質を上げる(量ではない) |
| 立式不能 | 問題を読んでも式が立てられなかった | 割合の「もとにする量」がわからない、速さの関係式が出てこない | 概念理解に戻る(苦手単元の特定が必要) |
| 途中停止 | 途中まで解けたが時間切れ・行き詰まりで止まった | 場合の数で樹形図の途中まで書いて時間切れ | 類題演習で解法パターンの引き出しを増やす |
この3つの中で、最も重要なのは「立式不能」だ。計算ミスは注意力の問題、途中停止は演習量の問題だが、立式不能は概念理解の穴を示している。ここに学習時間を集中投下するのが、最も効率の良い成績改善策になる。
以前コンサルで見た偏差値58の小5男子のケースでは、算数の偏差値が急落していた。親は問題集を追加しようとしていたが、模試3回分の失点を3分類してみると、立式不能が割合と速さに集中していることがわかった。塾の宿題を2割削減し、浮いた時間で割合の概念理解に集中投下したところ、3か月後に偏差値が58から62に回復した。学習時間は増やしていない。穴を特定し、そこに密度を集中させただけだ。
模試返却日の声かけ──やってはいけない3パターンとやるべき1つの原則
成績分析は親の仕事だが、声かけは子どもとの関係に直結する。感情論には乗らないのが私の流儀だが、子どもの心理的安全性は成績に直結するデータがあるので、ここは冷静に設計する必要がある。
やってはいけない声かけ3パターン
- パターン1:「このままじゃ落ちるよ」型──危機感を煽る声かけは、短期的には机に向かわせる効果があるが、繰り返すと学習が「恐怖の回避行動」に変わる。恐怖で動いている子は、模試のたびに萎縮し、本番で実力を出せない。
- パターン2:「〇〇ちゃんは偏差値いくつだった?」型──他の子との比較は、子どもの自己効力感を最も確実に破壊する。模試の偏差値は本人の成長曲線で見るべきであり、他人との比較は構造的に意味がない。
- パターン3:「もっと頑張りなさい」型──何を頑張るのかが不明確な声かけは、子どもにとってノイズでしかない。「頑張る」の中身を具体化するのは親の仕事だ。
やるべき声かけの原則:プロセスを確認し、次の行動を一緒に決める
親が動く範囲を最初に決める──これは受験全体に通じる原則だが、模試返却日にも当てはまる。親の役割は、成績表の分析と学習環境の設計であり、子どもの感情の管理ではない。
模試返却日に子どもにかける言葉は、以下のような「事実確認+次の行動提案」のフォーマットが機能する。
- 「算数の素点、前回より5点上がってるね。理科は正答率50%以上の問題で3つ落としてるから、ここだけ週末に見直そう」
- 「偏差値は気にしなくていい。正答率70%以上の問題を全部取れていたのは前回より増えてる。この調子で基礎を固めよう」
- 「国語の記述、白紙が2問から1問に減ってる。書こうとした痕跡があるのは進歩だよ」
ポイントは、偏差値ではなく素点と行動の変化に言及することだ。子ども自身がコントロールできる要素にフォーカスすることで、次の行動が生まれる。
模試結果の記録フォーマット──3回分で方針が見える
模試が返ってくるたびに、以下の項目を記録しておくと、3回分のデータで学習方針が自動的に見えてくる。
| 記録項目 | 第1回 | 第2回 | 第3回 |
|---|---|---|---|
| 算数 素点 | |||
| 算数 正答率50%以上の得点率 | |||
| 算数 失点内訳(計算ミス/立式不能/途中停止) | |||
| 国語 素点 | |||
| 国語 正答率50%以上の得点率 | |||
| 理科 素点 | |||
| 社会 素点 | |||
| 4科合計 偏差値 |
このフォーマットで3回分を並べると、「偏差値は横ばいだが算数の素点は毎回5点ずつ上がっている」「正答率50%以上の得点率が70%から80%に改善している」といった、偏差値だけでは見えない成長の軌跡が可視化される。
朝5時に起きて過去問分析をするのが私の日課だが、コンサル先の保護者にはそこまで求めない。この記録表を模試のたびに10分で埋めるだけで、塾の面談で講師に的確な質問ができるようになる。「偏差値が下がったんですが」ではなく、「正答率50%以上の問題で立式不能が割合に集中しているのですが、どの教材で補強すればいいですか」と聞ける。講師の対応精度がまったく変わる。
模試は「判定」ではなく「学習改善の道具」として使う
模試の合格判定──A判定、B判定、C判定。この判定に振り回される家庭は多い。しかし、模試の判定は統計的な確率であり、その子の合否を決めるものではない。
模試を受ける本当の目的は、今の学習の穴を見つけて次の一手を設計することにある。判定に一喜一憂するのではなく、成績表を「穴の地図」として読み、その穴を埋める学習計画を立てる。これが模試の正しい使い方だ。
模試の結果が悪かったとき、親がやるべきことを時系列で整理すると以下のようになる。
- 当日:子どもの感情を受け止める(分析は翌日以降)
- 翌日〜3日以内:3つの数字を確認し、失点を3分類する
- 1週間以内:立式不能が集中している単元を最大2つ特定し、今後2〜4週間の学習で重点的に扱う計画を立てる
- 次の模試まで:記録フォーマットに追記し、3回分のデータで方針を確認する
志望校選定の段階で勝負は決まっていると私は常々伝えているが、それと同じくらい重要なのが、模試データの構造的な読み方を知っているかどうかだ。偏差値に振り回される親と、素点と正答率で冷静に分析できる親では、子どもの受験結果が変わる。それは親の能力の差ではなく、知っているか知らないかの差でしかない。
よくある質問(FAQ)
Q1. 模試の偏差値が前回より5ポイント下がりました。志望校を変えるべきですか?
1回の模試で志望校を変える判断をしてはいけません。偏差値は母集団の変化で容易に5ポイント程度は変動します。最低3回分の推移を見て、素点も下降傾向にある場合に初めて検討してください。特に5〜6月の偏差値下落は、新規参入者による母集団変化が主因であることが多いです。
Q2. 模試の復習は全問やるべきですか?
全問やる必要はありません。正答率50%以上の問題で間違えたものを最優先で復習してください。正答率20%以下の難問は、その時点では手を出さなくて構いません。失点3分類で「立式不能」に該当する問題だけを解き直し、子どもに解法を説明させる(説明タイム)のが最も効果的です。
Q3. 模試は毎月受けたほうがいいですか?
小4〜小5であれば年3〜6回が適正頻度です。毎月受けると復習が追いつかず、「受けっぱなし」になる構造的な問題があります。模試を1回受けたら、その復習と分析に最低2週間は充てるべきです。模試の受験回数よりも、1回あたりの復習の深さのほうが成績に直結します。
Q4. 子どもが模試の結果を見せたがりません。どうすればいいですか?
結果を見せたがらないのは、過去に成績で叱られた経験があるか、親の反応を恐れているサインです。まず「見せなくてもいいけど、一緒に分析すると次に何をすればいいかわかるよ」と伝え、成績表は評価の道具ではなく学習改善の道具であることを行動で示してください。親が偏差値ではなく素点と正答率を見る姿を見せることで、子どもの抵抗感は徐々に下がります。
Q5. 塾の模試と外部模試で偏差値が10以上違います。どちらを信じればいいですか?
どちらも正しいです。SAPIX、日能研、四谷大塚、首都圏模試センターはそれぞれ母集団が異なるため、同じ子でも偏差値が10以上違うことは普通にあります。大切なのは同じ模試の中での推移を追うことです。異なる模試間で偏差値を横並びで比較しても意味がありません。志望校の合格判定は、その学校の受験者層に近い母集団の模試で確認してください。
参考文献・情報源
- 首都圏模試センター「模試資料データベース」(https://www.syutoken-mosi.co.jp/data/index.php?siryou_s=4)──模試の正答率データや偏差値分布の確認に活用
- ベネッセ教育情報サイト「模試結果が悪かった時の保護者の声かけ」(https://benesse.jp/juken/202511/20251113-1.html)──全国の受験生保護者へのアンケート調査に基づく声かけの実態
- 日能研「R4一覧(結果偏差値)」(https://www.nichinoken.co.jp/np5/schoolinfo/r4/resultr4.html)──入試結果をもとに算出した合格可能性80%偏差値の一覧






