7月下旬から8月にかけて、コンサルに持ち込まれる相談の中でダントツに多いのが「塾の先生に聞けばいいのはわかっているんですが……」という前置きで始まる算数の質問だ。内容はほぼ一単元に集中している。場合の数・確率だ。

「樹形図は書けるんですが、子どもがどこで詰まっているのかわからない」「公式を先に教えたら混乱してしまった」「問題の種類が多すぎて、親が教えられる範囲と塾に任せる範囲の線引きがわかりません」。

18年間で2,000名以上の生徒を指導してきた経験から言えば、場合の数でつまずく子には構造的な3パターンがある。そしてその3パターンに対応した関わり方を知っていれば、夏休みの間に必要十分な底上げができる。逆に、これを知らずに親が教えようとすると、親子ともに消耗して終わる。

本稿では「場合の数・確率」に特化して、親が家庭で実践できる指導の順序と、絶対に踏み越えてはいけない限界線を整理する。

場合の数でつまずく子の3パターン

まず前提を確認しておく。場合の数は「数え方の設計」の問題だ。計算力や暗記力ではなく、「どの順序で、何を固定して数えるか」という思考の枠組みが問われる。この枠組みが腹落ちしていないまま公式を覚えても、設定が少し変わると手が止まる。

つまずき方は次の3パターンに集約される。

パターン① 書き出す前に「頭の中で数えよう」とする

「3枚のカードから2枚を選ぶ方法は何通りか」という問題で、子どもが頭の中だけで「3通りでしょ」と一瞬で答える。これは正解だが、問題が複雑になるにつれて必ずミスが出る。書き出す習慣が育っていないまま「なんとなく数える」スタイルが定着しているケースだ。模試で点が取れているうちはわからないが、小6秋以降に急に崩れる。

パターン② 樹形図は書けるが「何を固定するか」の設計ができない

「A・B・C・D・Eの5人が1列に並ぶとき、AとBが隣り合う並び方は何通りか」という問題で、最初の人から順番に枝を伸ばしていき、膨大な量になって途中で投げ出す。「まず何を決めてから数えるか」という設計の視点がなく、機械的に書き始めているから起きる。樹形図の書き方を知っているだけでは、こうした問題には対応できない。

パターン③ 「○通り」の意味が腹落ちしていない

答えは出るが、「6通り」が何を指しているのか実感がない。問題文の設定が少し変わると「どうやって数えるんだっけ」となる。公式だけが先行していて「これは具体的にどういう場合を数えているのか」という感覚が欠けているタイプだ。入試本番でパニックになりやすい。

親が教えるときの正しい順序:樹形図→表→公式

この3ステップの順序は変えてはいけない。特に「公式から入る」は最悪のアプローチだ。nPr・nCrという記号を先に見た瞬間、子どもは問題の意味を考える前に「公式に当てはめよう」と思考停止する。

ステップ1 樹形図で「全部書き出す」体験を積む

最初のゴールは「どんな問題でも、樹形図を使えば全部書き出せる」という自信を持たせることだ。この段階では効率を求めなくていい。

親の役割は一つだけ。「条件のうち、まず何を固定するかを一緒に決めること」だ。たとえば「1・2・3の3枚のカードを並べる」問題なら、「最初のカードを1に固定したとき、次に何が来るか一緒に書いてみよう」と声をかける。答えを教えるのではなく、書き出す手順を一緒にたどるだけでいい。

子どもがこのステップでつまずいているなら、問題をもう一回り小さくする。5枚から選ぶ問題より先に、3枚で樹形図を「最後まで書き切れる」体験を作ることが先決だ。完成した樹形図を見て「全部で6通りだね」と確認できると、子どもの中で「通り数=数えた分だけある」という感覚が育つ。

ステップ2 「表」で整理できる問題を識別させる

2つの事象が独立している場合(サイコロを2つ投げるなど)は、縦横の表で整理すると樹形図より速く正確に数えられる。この「表が使える問題の見分け方」を習得させるのが第2ステップだ。

サイコロ2個の目の和・差・積を求める問題は、中学受験でほぼ毎年どこかの学校で出題される。表を書いて○をつけるだけで解けるこの形式は、一度慣れてしまえば確実な得点源になる。

親がやることは「表を使ってみようか」と提案することだけ。表の中身を埋める作業は子どもに任せる。書き終わったら「○はいくつある?」と聞いて、答えを確認させる。

ステップ3 公式は「樹形図の省略形」として導入する

nPr(順列の公式)やnCr(組み合わせの公式)を導入するのは、「樹形図で同じパターンの繰り返しが出てきたとき、計算で短縮できる」という文脈に限る。

「10枚から3枚を選んで並べる方法は何通りか」という問題で、樹形図を書こうとすると枝の数が膨大になる。ここで「実は10×9×8で計算できるんだ」と示す。「なぜそうなるか」を樹形図の構造から説明してから数式を見せると、公式を忘れたときでも「樹形図に戻れば解ける」という安心感が生まれる。

公式を先に覚えた子は、公式が出てこないと思考停止する。順序が重要だ。

「教えすぎ」の落とし穴と親の役割の限界線

場合の数を親が教えようとするとき、最もやりがちな失敗は「問題のタイプ別に解き方を教えようとする」ことだ。

道順の問題・カードの並べ方・色の塗り分け・じゃんけん……。バリエーションは無限にある。それぞれの解法を別々に教えようとすると、教える側も教わる側も疲弊する。大事なのは「樹形図→表→公式」という思考の枠組みだけだ。問題のタイプは副次的な話にすぎない。

もう一つの落とし穴は、志望校がどの形式の場合の数を出しているかを確認せずに指導することだ。

偏差値表ではなく過去問との相性で見ると、場合の数に関しても学校ごとに出題の傾向がはっきり分かれる。「書き出せば解ける問題」しか出ない学校もあれば、「公式を使わないと制限時間内に解けない問題」が頻出の学校もある。後者の志望校なら夏の段階で公式の精度を上げる必要があるが、前者なら樹形図と表の精度を上げるだけで十分だ。

過去問3年分の算数を親が目を通し、場合の数がどの形式で何問出ているかを確認する。それが親の最初の仕事だ。この作業を省いて闇雲に指導すると、時間の使い方が非効率になる。

親が動く範囲を最初に決める

「場合の数を家でどこまで教えればいいか」という問いへの答えはシンプルだ。親が担当するのは「樹形図の練習への付き合い」と「過去問形式の確認」の2つだけでいい。問題の解法を深く指導するのは塾に任せる。親が自分で問題を解けるかどうかは関係ない。

親が動く範囲を最初に決めておくと、子どもが「わからない」と言ったときの対応が変わる。「一緒に樹形図を書いてみよう」だけ言えばいい。正解を教える必要はない。

コンサルで受け持った小6の家庭で、10月に場合の数の模試偏差値が4ポイント落ちた事例がある。原因は「問題集を3冊追加したこと」だった。問題の種類は増えたが、樹形図を書く基礎練習が不十分なまま多様な形式を解かせたために、どの問題も中途半端になっていた。問題集を1冊に絞り、樹形図と表の精度だけに集中したところ、12月の模試で偏差値が3ポイント戻った。同時に走らせる教材は最大3冊までという原則は、場合の数でも変わらない。

夏に親がやること・やらないことの整理

やること やらないこと
志望校過去問3年分の場合の数の出題形式を確認する 問題のタイプ別に解き方を一から教えようとする
樹形図を「一緒に書く」練習に付き合う 公式(nPr・nCr)から教え始める
つまずきのパターンを3種類で特定する 問題集を複数冊追加する
「何を最初に固定するか」だけ一緒に考える 「なぜ間違えたのか」を問い詰める

場合の数は夏に集中投下すれば着実に得点力が上がる単元だ。ただし、正しい順序で、正しい範囲で、という条件を外さないことが前提になる。

よくある質問(FAQ)

Q1. 場合の数は何年生から意識して対策すべきですか?

A. 小5前半の塾カリキュラムで一度学びます。小5でしっかり樹形図の練習を積んでいれば、小6夏は「公式の精度を上げる」フェーズに集中できます。小5時点で樹形図が不安定なら、小6夏に基礎から見直す必要があります。どちらの状態かを模試の失点パターンで先に確認してください。

Q2. 樹形図を書けているのに間違える場合、何が原因ですか?

A. 最も多い原因は「固定する条件を決める前に枝を伸ばし始めること」です。樹形図の枝が乱雑になると、自分で書いた枝を数え間違えます。「まず最初の数(文字)を何に固定するか」を声に出してから書き始める習慣をつけると改善します。親が「最初は何を決める?」と一言声をかけるだけで変わります。

Q3. 順列と組み合わせの使い分けが理解できません。どう教えればよいですか?

A. 「順番が関係するかどうか」が唯一の判断基準です。並べ方(A→Bと B→Aは別物)なら順列、選び方(AとBを選ぶことは一通り)なら組み合わせ。最初に樹形図で全部書き出して「同じグループになる枝の数で割ればいい」と体感させてから公式に移行すると、定義を忘れても樹形図に戻れます。

Q4. 場合の数は塾で習っているのに模試で解けないのはなぜですか?

A. 塾での指導が「この形式の問題はこの公式」というパターン暗記に偏っているケースが多いためです。設定が少し変わると手が止まります。家庭で樹形図を書く練習を並行して行い、「なぜこの計算になるのか」を子ども自身に説明させると定着します。説明タイムを10分設けるだけで変わります。

Q5. 志望校が場合の数をほとんど出さない学校です。対策の優先度はどれくらいですか?

A. 過去問5年分を確認して場合の数が2問以下なら、夏の優先度は下げて構いません。出題の少ない単元より、志望校が頻出している単元の完成度を上げるほうが得点効率は高い。学習時間は有限です。まず過去問の出題マップを作ってから単元の優先順位を決めてください。

参考文献