不登校の児童生徒数が35万3,970人と過去最多を更新した2024年度調査(文部科学省「児童生徒の問題行動・不登校等生徒指導上の諸課題に関する調査」)。12年連続の増加という数字を見るたびに、教育記者としてある疑問が浮かびます。「制度を知っているだけで選択肢が増える家庭が、まだたくさんあるのではないか」と。

今回取り上げるのは、不登校の子どもが自宅でICT等を活用した学習を行った場合に、指導要録上「出席扱い」にできる制度です。文科省の発表を読み解くと、2024年度にこの制度でICT出席扱いとなった児童生徒は約1万3,000人。35万人に対してわずか3.7%です。制度の存在自体を知らない保護者が多いこと、そして学校や教育委員会の運用にばらつきがあることが、この低い利用率の背景にあります。

「出席扱い」制度の法的根拠──令和元年文科省通知を読む

この制度の根拠は、文部科学省が令和元年(2019年)10月25日に発出した通知「不登校児童生徒への支援の在り方について」の別記2です。学習指導要領の本文にはこの制度の直接的な記載はありませんが、通知という形で全国の教育委員会・学校長に対し、ICTを活用した自宅学習を出席扱いとする判断の枠組みが示されました。

さらに2026年4月、文科省は保護者向けリーフレットを公開し、出席扱いの要件や相談先を平易な言葉で整理しています。これは制度の「伝わっていない」問題に対する行政側の危機感の表れといえるでしょう。

ICT出席扱いの「7つの要件」を構造的に整理する

文科省通知が示す7つの要件は、大きく3つの柱に分類できます。

【柱1】学校との連携体制(要件1・5)

  • 要件1: 保護者と学校との間に十分な連携・協力関係が保たれていること
  • 要件5: 校長が対面指導や学習活動の状況を十分に把握していること

この2つは「学校が状況を把握できる関係性」を求めています。具体的には、担任との定期的な電話・メール連絡、月1〜2回の面談(対面またはオンライン)が想定されています。

【柱2】学習の計画性と質(要件2・4・6)

  • 要件2: ICT(情報通信技術)等を活用した学習活動であること
  • 要件4: 学習の理解の程度を踏まえた計画的なプログラムであること
  • 要件6: 学習活動の成果を評価に反映できること

ここが最も誤解の多いポイントです。「タブレットで動画を見ていれば良い」わけではなく、学習履歴が記録され、理解度が可視化される教材が求められます。無学年式のオンライン教材(すららなど)が認定実績を積んでいるのは、この学習ログの可視化機能を持っているからです。

【柱3】対面指導との併用(要件3・7)

  • 要件3: 訪問等による対面の指導が適切に行われること
  • 要件7: 学校外の公的機関や民間施設での相談・指導を受けられない場合の措置であること

要件7は見落とされがちですが重要です。この制度は「フリースクールや教育支援センターに通えない場合」の受け皿として位置づけられています。つまり、まず学校外の支援機関の利用を検討し、それが難しい場合にICT自宅学習という順序が想定されているのです。

なぜ利用率は3.7%にとどまるのか──構造的な3つの壁

私が文科省や教育委員会への取材を通じて見えてきた壁は3つあります。

壁1: 校長裁量という「ばらつき」

出席扱いの判断は最終的に校長の裁量です。文科省は全国一律の基準を示しておらず、「学校や教育委員会において一定の基準を作成しておくことが望ましい」と述べるにとどまっています。結果として、積極的に認定する学校と、前例がないことを理由に消極的な学校に分かれます。

壁2: 保護者への情報到達の遅れ

出版社時代に「煽り見出しの方がPVが伸びる」現実と戦った経験がありますが、教育制度の正確な情報は地味で拡散しにくい構造を持っています。SNSで「不登校」と検索すると体験談や感情的な投稿が上位に来る一方、文科省通知の原典に基づく制度解説はほとんど流通していません。

壁3: 申請の「最初の一歩」のハードル

不登校の子どもを持つ保護者は、学校との関係がすでに緊張していることが少なくありません。そこに「制度を使いたい」と切り出すこと自体が心理的な負担になります。

家庭で準備すべき5つのステップ

朝6時に起きて文科省のリリースを確認するのが日課の私ですが、制度を知ることと使いこなすことは別の話です。以下の5ステップで、申請のための準備を整理します。

ステップ1: 文科省の保護者向けリーフレットを入手する

2026年4月公開の保護者向けリーフレットは、文科省の公式サイトからPDFでダウンロードできます。これを手元に持った状態で学校に相談することで、「制度として認められている」という前提を共有できます。

ステップ2: 子どもの現在の学習状況を「見える化」する

ICT教材を導入している場合は、学習ログ(取り組み時間・正答率・単元進捗)を1週間分まとめましょう。まだ導入していない場合は、学習履歴が自動記録される教材を選定するところから始めます。

ステップ3: 担任またはスクールカウンセラーに「出席扱い制度」を相談する

いきなり校長面談を求めるのではなく、まず担任やスクールカウンセラーに制度の存在を確認します。「文科省の通知でICT学習による出席扱い制度があると聞いたのですが、この学校での運用について教えていただけますか」という聞き方が有効です。

ステップ4: 学習計画書のたたき台を作成する

要件4の「計画的なプログラム」を満たすために、週単位の学習計画を作成します。教科・時間帯・使用教材・学習目標を一覧にしたA4一枚の計画書があると、学校との協議がスムーズに進みます。

ステップ5: 教育委員会の相談窓口を確認しておく

学校の対応が消極的な場合、教育委員会の不登校相談窓口に制度について問い合わせることができます。大学側の意図はこういう構造です──文科省が通知を出している以上、教育委員会は制度の周知義務を負っています。学校が動かない場合の「次の相談先」を事前に把握しておくことで、交渉の選択肢が広がります。

出席扱いは「ゴール」ではなく「安心材料」

最後に強調しておきたいのは、出席扱いの認定はあくまで指導要録上の記録であり、子どもの学びそのものの価値とは別の話だということです。出席日数が足りないことへの不安が、保護者と子どもの関係をさらに緊張させているケースを取材で何度も見てきました。制度を知り、選択肢として持っておくだけで、その不安は一段下がります。

大学入試改革の報道が「賛成vs反対」の煽り合戦になったとき、原典を読むと論点はもっと多層だったという経験があります。不登校の出席扱い制度も同じです。SNSの断片的な情報ではなく、文科省通知の原典に立ち返ることで、制度の構造が見えてきます。

よくある質問(FAQ)

Q1. 高校生も出席扱い制度を利用できますか?

文科省通知の出席扱い制度は、義務教育段階(小学校・中学校)が対象です。高校については各学校の校則や教育委員会の方針により対応が異なりますが、通信制高校への転入や、高等学校卒業程度認定試験(高卒認定)など別の選択肢があります。

Q2. どんなICT教材でも出席扱いの対象になりますか?

教材の指定はありませんが、要件4(計画的なプログラム)と要件6(成果の評価反映)を満たすために、学習履歴が自動記録され、理解度が数値で可視化できる教材が実質的に求められます。YouTubeの学習動画を見るだけでは要件を満たせません。

Q3. 出席扱いになると成績(評定)もつくのですか?

出席扱いと成績評価は別の判断です。ただし、2024年の文科省通知で「学習の成果を評価に反映できる」ことが要件に含まれており、学校と協議のうえ成績に反映されるケースが増えています。

Q4. 学校に相談したら「前例がない」と断られました。どうすればいいですか?

まず文科省の保護者向けリーフレットを共有し、通知の存在を伝えてください。それでも進まない場合は、教育委員会の不登校相談窓口に相談しましょう。文科省通知は全国の学校に対して出されたものであり、「前例がない」は制度を否定する理由にはなりません。

Q5. フリースクールに通いながらICT出席扱いも併用できますか?

要件7では「学校外の公的機関や民間施設での相談・指導を受けられない場合」にICT自宅学習の出席扱いが想定されています。ただし、フリースクールでの活動は別途「学校外施設での出席扱い」として認められる場合があり、両方の制度を使い分けることが可能です。学校と相談のうえ、子どもの状況に最も合った組み合わせを検討してください。

参考文献

  • 文部科学省「不登校児童生徒への支援の在り方について(通知)」令和元年10月25日
  • 文部科学省「不登校児童生徒が自宅においてICT等を活用した学習活動を行った場合の指導要録上の出欠の取扱いについて」
  • 文部科学省「令和6年度 児童生徒の問題行動・不登校等生徒指導上の諸課題に関する調査結果」(2025年10月公表)
  • 文部科学省「不登校の児童生徒の出席扱い・評価に関する保護者向けリーフレット」(2026年4月公開)