3人の子どもを育てていると、医療費のことは正直もう慣れたと思っていた。けれど昨年、夫の転勤で隣の市に引っ越した途端、病院の窓口で「500円の自己負担が発生します」と言われて目が点になった。前の市では無料だったのに。

子ども医療費助成制度は、多くの親が「うちの自治体は18歳まで無料」と思い込んでいる。ところが、対象年齢も所得制限も窓口負担額も自治体ごとにバラバラで、引っ越しや県外受診の際に「こんなはずじゃなかった」と慌てるケースが後を絶たない。FP相談の現場でも、住宅購入や転勤を機に「医療費助成って引っ越し先でも同じですか?」と聞かれる頻度が年々増えている。

2026年5月現在の最新情報をもとに、自治体間で差がつく5つのポイントと、損をしないための確認手順を整理する。

そもそも子ども医療費助成制度は「国の制度」ではない

意外と知られていないが、子ども医療費助成には全国統一の法律がない。あくまで各自治体が独自の条例に基づいて運営しており、財源も自治体の一般財源が中心だ。だから隣の市に引っ越しただけで、対象年齢が変わったり窓口負担が発生したりする。

こども家庭庁が2024年度に実施した「こどもに係る医療費の助成についての調査」によると、全国の市区町村のうち通院で18歳年度末まで助成しているのは約50%超。つまり残りの半数弱は、まだ15歳(中学卒業)や小学校卒業までにとどまっている。

「18歳まで無料の自治体に住んでいるから安心」と思っていても、転居先がそうとは限らない。ここが最大の落とし穴になる。

自治体間で差がつく5つのポイント

1. 対象年齢:15歳? 18歳? それとも22歳?

2026年5月時点で、首都圏の主要自治体43のうち41が18歳年度末(高校卒業相当)まで助成を拡大済みだ。東京23区は全区が18歳まで完全無料。

一方で横浜市は2026年6月、川崎市は2026年9月からようやく18歳まで拡大する。それまでの間、横浜市在住の高校生は通院時に自己負担が発生する計算になる。

北海道の一部自治体には22歳(大学卒業相当)まで助成するところもある。逆に、地方都市では今も「小学校卒業まで」で打ち切られる自治体が残っている。転居先の対象年齢は真っ先に確認すべきだ。

2. 所得制限:あるのかないのか

東京23区を含む多くの自治体が所得制限を撤廃する流れにあるが、すべてではない。大阪市は2024年4月に所得制限を撤廃したものの、一部の府内自治体にはまだ残っている。世帯年収が一定以上だと、子どもの年齢によっては助成対象外になるケースがある。

共働き世帯は特に注意が必要で、所得判定は「扶養義務者のうち所得が高いほう」で行う自治体が多い。「うちは夫の扶養だから大丈夫」と油断していると、妻の年収が判定基準を超えていたというパターンもFP相談で何度か見てきた。

3. 自己負担額:無料・200円・500円の格差

窓口負担がゼロの自治体がある一方、通院1回あたり200円や500円の自己負担を設定している自治体も多い。たかが数百円と思うかもしれないが、3人きょうだいで月に2〜3回ずつ小児科に通うと、月額で3,000〜4,500円になる。年間にすれば3万6,000円〜5万4,000円。これは無視できない金額だ。

川崎市は2026年9月に18歳まで拡大すると同時に、小学4年生以上に設定していた通院1回500円の一部負担金を廃止する予定。自治体の制度は数年単位で改定されるため、「昔調べたから大丈夫」は通用しない。

4. 現物給付と償還払いの違い

ここが最も見落とされやすいポイントだと思う。「現物給付」は、病院の窓口で医療証を見せれば自己負担ゼロ(または定額)で済む方式。「償還払い」は、窓口で一旦3割分を払い、後から自治体に申請して返金を受ける方式だ。

問題は、自分の自治体が現物給付でも、県外の病院を受診すると償還払いになるケースが大半だということ。帰省先で子どもが急に熱を出して受診したら、窓口で数千円を払い、後日領収書を持って地元の役所で申請する必要がある。申請期限は多くの自治体で「診療月の翌月から1年以内」。これを過ぎると返金されない。

わが家も実家への帰省中に次男が中耳炎になり、県外の耳鼻科で4,200円を払った。その場では焦ったが、領収書を保管して帰宅後に申請し、3週間ほどで口座に振り込まれた。領収書を捨てていたら完全に自腹だった。

5. 入院時の食事代・差額ベッド代は助成対象外

医療費助成の対象は「保険診療の自己負担分」に限られるのが一般的だ。入院時の食事代(1食490円、2026年5月現在)や差額ベッド代は助成対象外。入院が長引くと食事代だけで月4万4,100円になる。

「子どもの医療費は無料」という認識だけで入院に備えていると、食事代と差額ベッド代の請求書を見て青ざめることになる。子ども向けの医療保険や共済に入るかどうかは別の議論だが、「助成対象外の費用がある」という事実だけは頭に入れておきたい。

引っ越し前に確認する4つの手順

転居で医療費助成の恩恵が変わるのを防ぐために、以下の手順で確認しておくと安心だ。

手順1:転居先の自治体ホームページで「子ども医療費助成」のページを開く。対象年齢・所得制限・自己負担額の3点をまずチェックする。自治体名に「子ども医療費」と検索すれば、ほぼ確実にヒットする。

手順2:現物給付か償還払いかを確認する。同一県内の受診はほとんど現物給付だが、県外受診が償還払いになる自治体は多い。受給資格者証が使えるエリアを確認しておく。

手順3:転入届を出した日に、子ども医療費の受給資格者証の交付申請をする。転入届と同時に窓口で手続きできる自治体がほとんどだが、申請しないと交付されない。忘れると医療証がない期間が生まれ、その間の通院は償還払いになる。

手順4:転出元の自治体に受給資格者証を返却する。転出届の際に窓口で返却するのが基本。郵送返却を受け付ける自治体もある。

2026年の最新動向:18歳拡大と国のペナルティ廃止

近年、子ども医療費助成をめぐる制度環境が大きく動いている。

まず、18歳までの拡大は全国的な潮流だ。2020年時点では18歳まで助成する市区町村は約20%だったが、2025年には50%を超えた。横浜市(2026年6月)、川崎市(2026年9月)、西宮市(2026年1月)なども続々と拡大を表明しており、2026年度中に首都圏はほぼ全域が18歳対応になる見込みだ。

もう一つの大きな変化が、「国庫負担金の減額調整措置」の廃止。これまで自治体が現物給付方式の医療費助成を行うと、「窓口負担が減ることで受診回数が増え、医療費が膨らむ」という理由で国民健康保険の国庫負担金が減額されていた。2023年6月の「こども未来戦略方針」閣議決定を経て、2024年度からこのペナルティが撤廃された。

ペナルティ廃止は、「うちの自治体はまだ現物給付を導入していない」という自治体にとって、制度拡充のハードルを下げる効果がある。今後さらに現物給付への移行が加速すると考えられている。

FAQ

引っ越し先でも子ども医療費助成は自動的に引き継がれますか?

引き継がれません。転入届を出す際に、転入先の自治体で改めて受給資格者証の交付申請が必要です。申請が遅れるとその間は助成が受けられないため、転入届と同日に手続きすることをおすすめします。

県外の病院で子どもを受診させた場合、医療費は戻ってきますか?

多くの自治体では、県外受診分は「償還払い」で後日申請すれば返金されます。領収書(原本)と保険証、医療証、振込先口座情報を持って、お住まいの自治体窓口で申請してください。申請期限は診療月の翌月から1年以内とする自治体が多いです。

所得制限で医療費助成の対象外になった場合、どうすればいいですか?

所得制限に該当する場合、通常の健康保険の自己負担(未就学児2割、小学生以上3割)を支払うことになります。年間の医療費が10万円を超える場合は確定申告で医療費控除を利用できますので、領収書は必ず保管しましょう。

子ども医療費助成と高額療養費制度は併用できますか?

はい、併用できます。入院などで医療費が高額になった場合、まず高額療養費制度が適用され、自己負担限度額を超えた分は健康保険から支給されます。残った自己負担分に対して、子ども医療費助成が適用される仕組みです。

参考文献