「教育費2,000万円」は本当なのか

FP相談で必ずといっていいほど受ける質問があります。「教育費って2,000万円かかるって本当ですか?」という問いです。相談に来られる若い夫婦の多くが、SNSや雑誌で見たその数字を頭に刻み込んでいます。

私自身、1,500件以上のFP相談でこの質問を受け続けてきました。正直にいうと、「2,000万円」という数字はひとつの事実ではあるものの、それはすべて私立に通わせた場合の最大値です。文科省「子供の学習費調査」の原典を当たると、公立中心のコースなら幼稚園から高校までの15年間は596万円というデータが出てきます。大学を加えても800万〜1,100万円台というのが、多くの家庭の実態に近い数字です。

「2,000万か」と思った瞬間に積立を諦める家庭を、FP相談で何度も見てきました。だからこそ、コース別・子ども人数別に「自分の家庭の数字」を持つことが最初のステップです。

学校種別の年間学習費(文科省データ)

土台となる数字を確認しましょう。令和5年度「子供の学習費調査」(文部科学省・2026年1月公表)によれば、各学校段階の年間学習費総額は以下のとおりです。

この「学習費」には学校が徴収する費用だけでなく、学習塾・習い事費用などの学校外活動費もすべて含まれています

学校段階(在籍年数)公立(年間)私立(年間)
幼稚園(3年間)18.5万円34.7万円
小学校(6年間)33.6万円182.8万円
中学校(3年間)54.2万円156.0万円
高等学校・全日制(3年間)59.8万円103.0万円

これに大学の学費を加えます。2025年度時点の平均値は、国立大学が入学料28.2万円+授業料53.6万円×4年間=合計242万円私立大学文系が入学料約25万円+授業料約100万円×4年間=合計425万円です(国立大は値上げが始まっており今後変動の可能性あり)。

幼稚園から大学卒業まで「4コース」別総額試算

上記データをもとに、家庭が選びやすい4つのコースで総額を計算しました。

コース幼稚園小学校中学校高校大学合計
A:全公立+国立大55万202万163万179万242万841万円
B:全公立+私立文系55万202万163万179万425万1,024万円
C:幼私・小中高公+私立文系104万202万163万179万425万1,073万円
D:幼私・小公・中高私+私立文系104万202万468万309万425万1,508万円

全私立ルートで大学まで含めると2,400万円近くになりますが、それは上表のさらに上の特殊ケースです。FP相談で最もよく見るのはBコース〜Cコースで、「1,000万〜1,100万円」が多くの家庭のリアルな数字です。

子ども1人・2人・3人で総額はどう変わる

最も多くの家庭が選ぶCコース(幼稚園のみ私立、小中高公立、大学私立文系)を基準に、子どもの人数別で試算しました。2024年10月改正後の児童手当も考慮しています。

子ども1人子ども2人子ども3人(※)
教育費総額(Cコース)1,073万円2,146万円3,219万円
児童手当(受取見込み)△234万円△468万円△1,116万円
差引:積立が必要な目安839万円1,678万円2,103万円
月額換算(0歳開始・年利3%)月2.9万円月5.9万円月7.4万円

(※)第3子は2024年10月改正後、0歳〜高校修了まで月3万円の児童手当が支給(きょうだいの年齢差により金額変動あり)。2025年度開始の多子世帯大学等授業料無償化が適用されると、さらに大学授業料が実質ゼロになる年度もあります。

3人の場合、積立が必要な額は「2,103万円」と大きな数字ですが、0歳スタートで月7.4万円と聞けばイメージが変わります。共働き世帯で手取りが月40万円なら、手取りの18%。決して不可能ではない水準です。

積立開始が遅れると月額はどう変わるか

早く始めるほど月々の負担が小さくなるのが積立の基本です。Cコース1人分(839万円)を年利3%で積み立てた場合の月額を積立開始年齢別に示します。

積立開始時期月額目安児童手当全額充当後の上乗せ額
0歳(出生直後)2.9万円+0.9万円(児童手当月2万円平均充当後)
3歳(幼稚園入園)3.4万円+1.4万円
6歳(小学校入学)4.1万円+2.1万円
10歳(小学4年)5.6万円+4.6万円

小学校の6年間は教育費の支出が相対的に軽い「積立の黄金期」です。長男が中学に入った途端に半年で23万円の出費(入学準備・部活・夏期講習)が来たとき、小学生のうちに仕組みを固めておいてよかったと心から思いました。

器の選び方:こどもNISA・新NISA・学資保険の使い分け

積立目標額が決まったら、次は「どの器に入れるか」です。使う時期で3つに分けて考えるのが基本です。

  • 1〜3年以内に使う費用(幼稚園〜小学校低学年):ネット銀行普通預金〜定期預金。元本保証で確実に確保。
  • 5〜10年先に使う費用(中学〜高校の費用):学資保険の満期活用か親の新NISA(いつでも引き出し可)。
  • 10年以上先に使う費用(大学の費用):2027年開始のこどもNISA(年60万円・上限600万円・無期限非課税)が有力候補。ただし12歳未満は原則引き出し不可のため、中学受験予定家庭は親の新NISAと必ず併用する。

長男が生まれた12年前、私は学資保険を月2万円で契約しました。あの頃はそれが正解でした。でも新NISAが始まり、「全額解約して乗り換えた方が得では?」と本気で悩みました。解約返戻金、税効果、乗り換え後のシミュレーションを5パターン作り直した末の答えは、「すでに払い込んだ分は継続、増額分を新NISAへ振り分けるハイブリッド」でした。器は時代で変わりますが、「いつ使うお金か」を軸に選ぶという考え方は変わりません

子ども2人・3人の場合の3つの設計ポイント

きょうだいがいる場合は、単純に1人分を掛け算するだけでは済みません。実務的に大事な3点を押さえてください。

  1. 子どもごとに専用口座を持つ:1つの口座にまとめると残高の錯覚が起き、誰の教育費をいくら使ったか分からなくなります。口座を分けるだけで積立の進捗が見える化できます。
  2. 上の子の積立が終わったら下の子にスライド:上の子の教育資金が確保できた時点で、その積立額を下の子の口座に自動振替する設定に変えます。「気づいたら生活費に溶けていた」を防ぐには仕組みが必要です。
  3. 多子世帯大学無償化の年齢差を年表で確認:2025年度から始まった多子世帯の大学等授業料無償化は、きょうだい3人が同時に扶養対象であることが条件です。年齢差が5歳以上だと恩恵を受けられない期間が発生するため、必ず年表を作って確認しましょう。

まとめ:「2,000万円」を信じる前に自分の数字を持つ

教育費の不安の多くは、「全体像が見えていないこと」から生まれます。コースと人数が決まれば、月々の積立額は計算できます。そして児童手当を専用口座に自動振替するだけで、上乗せ積立は月1〜2万円台に収まる家庭が大半です。

毎年4月に「教育資金マップ」を夫婦で棚卸しする習慣を持つだけで、漠然とした不安が具体的な月額数字に変わります。「足りているか」「足りないなら月いくら上乗せすれば届くか」が分かれば、あとは仕組みを作るだけです。

よくある質問(FAQ)

Q1. 子ども2人の場合、教育費の合計は2,000万円を超えますか?
Cコース(幼稚園のみ私立・小中高公立・大学私立文系)で1人1,073万円のため、2人合計は2,146万円になります。ただし児童手当を差し引くと実質積立目標は1,678万円程度です。
Q2. 0歳から積立を始めるのが難しい場合、何歳から始めれば間に合いますか?
月3万円の積立なら6歳(小学校入学時)スタートでCコース1人分に届きます。それ以降になると月4〜6万円が必要なため、学資保険やボーナス積立との組み合わせが現実的です。
Q3. こどもNISAと学資保険はどちらがおすすめですか?
ご家庭の状況次第です。片働きで死亡保障が手薄な家庭や積立習慣が弱い家庭には学資保険の払込免除特約と強制貯蓄機能が向いています。保障が充実した共働き家庭は2027年開始のこどもNISAを主軸にする設計が運用効率の面で優位です。
Q4. 第3子の教育費は実質いくら負担すればよいですか?
第3子の児童手当は0歳〜高校修了まで月3万円(2024年10月改正)で総受取額は最大648万円。多子世帯大学無償化が適用されれば授業料が実質ゼロになる年度もあります。これらを引いた実質積立必要額は家庭の進路設計によって大きく変わります。
Q5. 学習費には塾代が含まれているのでしょうか?
はい、文科省の学習費調査の数字には塾代・習い事費用などの学校外活動費がすべて含まれています。ただし中学受験を選んだ場合、小4〜小6で年50〜150万円の塾代が加わるため、進路設計によっては表の数字に別途上乗せが必要です。

参考文献

  • 文部科学省「令和5年度子供の学習費調査」(2026年1月公表)
  • 旺文社教育情報センター「2025年度大学の学費平均額」(2025年)
  • 文部科学省「令和7年度私立大学入学者に係る初年度学生納付金調査」
  • こども家庭庁「児童手当制度について」(2024年10月改正版)