「探究学習って何をやっているの?」──高校生の保護者からこの質問を受ける機会が増えています。2022年度に高校で必修化された「総合的な探究の時間」は、従来の「総合的な学習の時間」から名称も内容も大きく変わりました。しかし、必修化から4年が経った今も、学校によって取り組みの質に大きな差があるのが現実です。
文科省の発表を読み解くと、2025年12月に中央教育審議会の教育課程部会が「探究」の概念を再定義する資料を公開しています。そこでは探究を「実社会・実生活との関わりの中で見いだす自己の興味・関心や問題意識に基づき課題を設定し、教科等の学びを必要に応じて活用し、試行錯誤しながら、課題解決を通じた新たな価値の創造を繰り返していく学習のプロセス」と整理しました。つまり、単にテーマを調べてまとめるだけの活動は、本来の「探究」ではないということです。
教員の92%が「課題を感じている」構造的理由
NPO法人カタリバが2024年に公表した全国教員調査(探究学習担当教員340名対象)では、探究学習の推進に関して「課題を感じている」と回答した教員が約92%に上りました。校内組織の設置は8割に達しているにもかかわらず、この数字が示すのは、制度は整いつつあっても運用が追いついていないという構造です。
学習指導要領の本文には、探究学習の目標として「自己の在り方生き方を考えながら、よりよく課題を発見し解決していくための資質・能力を育成する」と明記されています。しかし現場では、以下の3つの構造的な壁が立ちはだかっています。
壁①:「探究の時間」が他の活動に流用されている
文科省の教育課程部会資料(2025年10月)は、「総合の本来の趣旨とは距離のある様々な活動に総合の時数が充てられ、まとまった時間を割いて探究に取り組めていない事例がある」と指摘しています。行事準備や進路指導に時間が充てられ、探究が形骸化している学校は珍しくありません。
壁②:教員の伴走体制が整っていない
探究学習は教科書に沿って教える授業とは根本的に異なります。生徒が自ら課題を設定し、試行錯誤するプロセスを「伴走」する力が求められますが、多くの教員はこうした指導経験を積む機会がなかったのが実情です。校務分掌や地域資源の活用が進まず、一部の熱心な担当教員に大きな負担が集中している学校も少なくありません。
壁③:「探究の質」の評価基準が学校ごとにバラバラ
何をもって「質の高い探究」とするのか、学校間で共通の物差しがありません。文科省が2025年12月に探究の概念を再定義したのは、まさにこの曖昧さを解消するためでした。しかし、この定義が全国の教室に浸透するには時間がかかります。
探究学習の「格差」が大学入試の合否を分ける時代
「探究なんて受験に関係ないでしょ?」と思っている保護者は少なくありません。しかし、大学側の意図はこういう構造です。2025年度の文科省データでは、大学入学者の53.6%が総合型選抜または学校推薦型選抜で合格しており、年内入試が過半数を占める時代に入っています。
さらに注目すべきデータがあります。総合型選抜で合格した大学1年生を対象にした調査では、探究活動を入試に活用したと回答した割合が43.4%に達しています。志望理由書や活動報告書に探究学習の成果を記載できるかどうかが、合否を左右する要素のひとつになっているのです。
私が出版社時代に「煽り見出しの方がPVが伸びる」現実と3年間向き合った経験から言えるのは、「探究が入試に有利」という煽り方は本質を見誤らせるということです。探究学習の本当の価値は、課題を発見し、情報を集め、整理・分析し、自分の言葉でまとめるという4ステップの思考プロセスそのものにあります。このプロセスは入試だけでなく、社会に出てからも必要な力の基盤です。
実際、カタリバが2025年4月に発表した調査(探究学習に取り組む高校生2,459名対象)では、探究学習に取り組んだ高校生は「キャリアレジリエンス」(キャリア上の困難を乗り越える力)が社会人と同等かそれ以上であることが示されています。探究学習は入試対策の道具ではなく、生涯にわたる学びの土台をつくる活動です。
家庭でできる5つの探究サポート
学校の探究学習の質にばらつきがある以上、家庭での補完が重要です。とはいえ、特別な教材や費用は必要ありません。以下の5つは、日常生活の中で探究の力を育てる具体的な方法です。
サポート①:「答えを教えない会話」を意識する
子どもが疑問を口にしたとき、すぐに答えを教えるのではなく「どうしてそう思ったの?」「どうやったら調べられそう?」と問い返す習慣をつけましょう。探究の4ステップの最初は「課題設定」です。自分で問いを立てる経験は、食卓の会話から始められます。
サポート②:ニュースを「構造」で読む練習をする
朝の情報番組や新聞記事を見たときに、「このニュースの背景にある仕組みは何だろう?」と一緒に考えてみてください。私自身、朝6時に起きて午前中に文科省や教育委員会のリリースを確認する習慣がありますが、こうした「背景を読む」姿勢は家庭の中でも共有できます。賛否を述べるのではなく、構造を見る視点を育てることが探究力の基礎になります。
サポート③:学校の探究学習の「進度と内容」を定期的に確認する
保護者面談や三者面談で、「探究の時間ではどんなテーマに取り組んでいますか?」と具体的に聞いてみてください。学校がシラバスや年間計画を公開していれば、それを確認するだけでも子どもの学びの現在地がわかります。GIGAスクールの活用格差で見てきた通り、「制度は全国一律だが運用で格差が生まれる」パターンは探究学習でも同様です。自校の状況を把握することが最初の一歩です。
サポート④:「振り返り」を言語化する機会をつくる
探究学習で最も欠けがちなのが振り返りの工程です。「今日の探究の授業でどんなことがわかった?」「難しかったところはどこ?」と週に1回でも聞くだけで、思考が整理されます。学習指導要領が求めている「まとめ・表現」のステップは、誰かに話すことで深まります。
サポート⑤:「探究のタネ」になる体験の機会を広げる
博物館・科学館への訪問、地域のボランティア活動、家族旅行先での観察など、日常の中で「なぜ?」が生まれる体験を増やすことが、探究のテーマ設定につながります。大きな投資は不要です。地域の図書館で開催される講演会に親子で参加するだけでも、新しい問いが生まれます。
次期学習指導要領で探究はどう変わるのか
2026年度中に中教審の答申が予定されている次期学習指導要領では、探究学習のさらなる強化が見込まれています。教育課程企画特別部会の資料(2025年5月)では「質の高い探究的な学びの実現」が明確に論点として掲げられており、情報活用能力との一体的な充実が検討されています。
また、小学校への「情報の領域」新設、中学校への「情報・技術科」新設など、探究的な学びの基盤となる情報教育の体系化が進む見通しです。現在の高校生が経験している探究学習は、今後さらに小中高を通じた系統的な学びへと発展していく過渡期にあると言えます。
保護者にとって大切なのは、「探究は学校任せにしない」という意識を持つことです。学校の取り組みの質にばらつきがある現状は、逆に言えば家庭の関わり方次第で子どもの探究力を大きく伸ばせる余地があるということでもあります。
よくある質問(FAQ)
Q1. 探究学習は大学受験に本当に関係あるの?
A. 大学入学者の53.6%が年内入試(総合型選抜・学校推薦型選抜)で合格する時代です。総合型選抜では志望理由書や活動報告書に探究活動の成果を記載する機会があり、調査では43.4%の合格者が探究活動を入試に活用しています。一般選抜でも調査書に探究の取り組みが記載されるため、無関係とは言えません。
Q2. うちの子の学校の探究学習が「形だけ」に見えます。親にできることは?
A. まず保護者面談で探究の年間計画やテーマ設定の方法を確認してください。学校の取り組みが不十分に感じる場合でも、家庭で「答えを教えない会話」や「ニュースを構造で読む」習慣を取り入れることで探究力を補完できます。また、校外の探究プログラム(地域のNPOや大学のオープン講座など)を活用する方法もあります。
Q3. 探究学習のテーマはどうやって決めればいいの?
A. 文科省の概念整理(2025年12月)では、探究の起点は「自己の興味・関心や問題意識」とされています。日常生活で「なぜ?」と感じたことがテーマのタネになります。保護者は「それ、面白いね。もう少し調べてみたら?」と興味を広げる声かけを意識するとよいでしょう。
Q4. 探究学習と「調べ学習」は何が違うの?
A. 調べ学習は「既存の情報を収集・整理する」活動が中心ですが、探究学習は「自ら課題を設定し、試行錯誤しながら新たな価値を創造するプロセス」です。課題設定→情報収集→整理・分析→まとめ・表現の4ステップを繰り返す点が大きな違いです。
Q5. 次期学習指導要領で探究学習はどう変わる予定?
A. 2026年度中に答申が予定されている次期学習指導要領では、探究的な学びの質の向上と情報活用能力との一体的な充実が検討されています。小学校の「情報の領域」新設なども含め、小中高を通じた系統的な探究教育への発展が見込まれます。
参考文献
- 文部科学省 中央教育審議会 教育課程部会「総合的な学習・探究の時間に関する現状・課題と検討事項」(2025年10月15日)
- 文部科学省 教育課程部会 生活、総合的な学習・探究の時間WG「探究の概念整理に関する資料」(2025年12月26日)
- 認定NPO法人カタリバ「探究学習に関する全国教員調査」(2024年5月公表、教員340名対象)
- 認定NPO法人カタリバ「探究学習に取り組む高校生のキャリアレジリエンス調査」(2025年4月公表、高校生2,459名対象)
- 文部科学省「令和7年度入学者選抜実施状況」(総合型選抜・学校推薦型選抜の割合データ)
- 文部科学省 教育課程企画特別部会「質の高い探究的な学びの実現」資料(2025年5月22日)






