FP相談でよく聞かれるのが「うちは教育費、足りますかね?」という質問です。でも「今どこにいくら入っていますか?」と返すと、ほとんどの方が答えられません。

ソニー生命の「子どもの教育資金に関する調査2026」では、教育費に不安を感じる親の約78%が「物価の上昇」を理由に挙げています。ただ、FP相談を1,500件以上受けてきた実感では、不安の本質は金額の大きさではなく「全体像が見えていない」ことにあると感じています。

結論から言うと家計の見直しが先――ではなく、今回は「見える化」が先です。学資保険・新NISA・預金・児童手当など複数の器に分散した教育資金を、子どもごと×口座ごとに一覧化する「教育資金マップ」の作り方と、年1回の夫婦棚卸し術をご紹介します。

教育資金の不安が消えない3つの構造的理由

1. 資金の器が分散しすぎている

多くの子育て世帯では、教育資金が複数の金融商品に分散しています。学資保険、銀行預金、新NISA、iDeCo、児童手当の貯蓄口座――。ソニー生命の同調査でも、教育資金の準備方法として「銀行預金」53.3%、「学資保険」38.5%、「資産運用」25.3%と、複数の手段を併用している実態が見えます。

それぞれの残高を把握している方はいても、全部を合算して「あと何年でいくら必要か」まで計算している方は少数です。

2. 夫婦で情報が共有されていない

うちの長女のとき実際に困ったのがこれです。夫が契約している学資保険の払込額を私が把握しておらず、私のNISA積立の状況も夫に共有できていませんでした。「お互いがんばっている」のに全体像が見えない。これは我が家だけの話ではなく、FP相談でも3割以上の共働き世帯で同様のケースが見られます。

3. 「いくら貯まったか」ではなく「いくら足りないか」がわからない

教育資金の進捗は「残高」だけでは測れません。長男は大学まであと7年、次女はまだ12年ある。子どもの年齢によって「使う時期」が違うので、同じ100万円でも意味が変わります。必要なのは、子どもごとの目標額との差額=不足額を見える化する仕組みです。

「教育資金マップ」とは?──5項目で全体を見える化

私が自宅のExcel家計簿で使っている「教育資金マップ」は、子どもごと×資金の器ごとに5つの項目を一覧化したシートです。特別なアプリは不要で、紙でもスプレッドシートでも作れます。

5つの記録項目

  1. 子どもの名前と現在の年齢(目標時期の計算に使う)
  2. 資金の器(学資保険 / 新NISA / 預金 / こどもNISA / 児童手当口座 など)
  3. 現在の残高(直近の通帳・アプリの数字をそのまま)
  4. 月額積立額(自動振替の金額。ボーナス分は12で割って月額換算)
  5. 引き出し条件と目標時期(「18歳到達で売却予定」「学資保険は17歳満期」など)

マップの記入例(笠原家の場合)

子ども資金の器現在残高月額積立引き出し条件・目標時期
長男(小5・11歳)学資保険A社168万円2万円17歳満期・200万円
長男新NISA(夫)82万円1.5万円大学入学前に段階的売却
長女(小2・8歳)預金(教育資金口座)95万円1万円中学入学準備・制限なし
長女新NISA(妻)48万円1万円高校〜大学で使用予定
次女(年中・5歳)児童手当専用口座72万円1万円大学入学準備・制限なし
次女新NISA(妻)24万円0.5万円2027年〜こどもNISAに移行検討

このように並べると、長男は目標に近いが長女の中学入学準備費が手薄次女は時間がある分NISAの比率を上げられる、といった判断が一目でできます。

マップを作ると見つかる「3つのあるある」

あるある1:同じ目的の積立が重複している

夫が会社の財形で「子ども用」として月1万円積み立てていたのに、妻も別の口座で月1万円積み立てていた。合計2万円ならいいのですが、「足りないと思って追加した」結果、教育資金が過剰で老後資金がゼロというケースをFP相談で何度も見てきました。

あるある2:引き出し時期と進学時期がずれている

学資保険の満期が18歳だが、AO入試の入学金は高3の秋に必要。あるいは、新NISAで教育資金を貯めているが暴落時に引き出す勇気がないまま入学金の支払期限が来る。「貯まっているけど使えない」状態は、マップで引き出し条件を並べて初めて見えます。

あるある3:夫婦で「足りている」の基準が違う

夫は「学資保険があるから大丈夫」と思い、妻は「NISAも足さないと不安」と感じている。マップを一緒に見ることで、数字ベースの会話ができるようになります。感覚ではなく、残高と目標の差額で話し合うだけで、夫婦のすれ違いは大幅に減ります。

年1回の「教育資金棚卸しデー」の進め方

私は毎年4月の第1土曜日を「教育資金棚卸しデー」にしています。朝5時に起きてデータを更新し、子どもたちが起きる前に夫と30分だけ確認する。たった年1回、30分の作業ですが、これだけで漠然とした不安が具体的な月額数字に変わります。

棚卸しで確認する5項目

  1. 各口座の現在残高(通帳・アプリのスクリーンショットで十分)
  2. 前年からの増減(計画通りに積み上がっているか)
  3. 子どもの進路変更(公立→私立の可能性、中学受験の有無)
  4. 制度変更の影響(児童手当の改正、こどもNISA開始、授業料値上げなど)
  5. 万が一の備え(夫婦どちらかに何かあったとき、口座名義と引き出し手続きは把握しているか)

5番目の「万が一の備え」は見落とされがちですが、NISA口座は本人しか売却できません。相続手続きに数カ月かかることを考えると、「誰の名義でどこにいくらあるか」を夫婦で把握しておくことは、教育資金の管理として最優先事項です。

棚卸しデーの「アウトプット」を1つだけ決める

棚卸しで数字を確認したら、来年の棚卸しまでにやることを1つだけ決めてください。「長女の中学入学準備費として月5,000円の自動振替を追加する」「学資保険の満期金の受け取り方法を確認する」など、具体的かつ小さなアクションで十分です。

10個のToDoを作ると何もやらないまま翌年を迎えます。FP相談で3年以上棚卸しを続けている家庭に共通するのは、「完璧を目指さず、1つだけ動かす」というスタンスです。

教育資金マップを「6月のミニ棚卸し」と組み合わせる

4月の棚卸しだけでは制度変更への対応が遅れることがあります。そこで私は、6月の住民税決定通知書が届いたタイミングでミニ棚卸しも入れるようにしました。

6月のチェックは3つだけです。

  • 住民税の所得割額は前年と比べて変動しているか(ふるさと納税の控除漏れチェック)
  • 就学援助の所得基準に近い場合、申請の検討が必要か
  • 教育資金の積立ペースは4月の計画通りに進んでいるか

年2回、合計で1時間程度の確認作業で、教育資金の「見えない不安」はほぼ解消できます。

よくある質問(FAQ)

Q1. 教育資金マップはExcelでなければダメですか?

紙でもGoogleスプレッドシートでも手帳でも構いません。大切なのは「一覧で見える」ことです。ただし、前年との比較がしやすい点ではスプレッドシート系が便利です。スマホのメモアプリに表を作るだけでも十分です。

Q2. 子ども1人でもマップは必要ですか?

はい。子ども1人でも「学資保険+預金+新NISA」のように器が複数あれば、マップの価値は十分にあります。特にNISA口座は夫婦どちらの名義かで引き出し手続きが変わるため、1人でも記録しておく意味があります。

Q3. 棚卸しデーを4月にする理由は?

4月は新学年の始まりで進路変更が確定しやすいタイミングです。また、前年度の源泉徴収票が手元に届いている時期なので、年収ベースの積立計画を立て直しやすいメリットもあります。ただし、4月が忙しければ5月の連休でも問題ありません。仕組みとして「年1回やる」ことが重要です。

Q4. 教育資金マップに児童手当は含めるべきですか?

ぜひ含めてください。児童手当を別口座に分けて貯蓄している場合はその残高を、生活費口座に入れたままの場合は「教育資金としてカウントしていない」と明記することが大切です。マップに書くことで「児童手当を教育資金に回す仕組みを作ろう」という次のアクションにつながります。

Q5. 夫婦で棚卸しをする時間が取れません。どうすればいいですか?

まずは片方だけでマップを作り、完成版をLINEやメールで共有するだけでも効果があります。我が家では私が朝にデータを更新し、夫には朝食時に「ここだけ見て」と要点3つを伝える方式にしています。30分の「会議」が難しければ、5分の「報告」から始めても十分です。

まとめ

教育資金の不安を解消するために必要なのは、収入を増やすことでも節約を極めることでもなく、まず「全体像を見える化」することです。子どもごと×口座ごとに残高・積立額・引き出し条件を並べる「教育資金マップ」を一度作れば、漠然とした不安が具体的な数字に変わります。

年1回の棚卸しデーを夫婦の習慣にするだけで、重複積立や引き出し時期のミスマッチに気づけるようになります。完璧なマップは必要ありません。まずは今ある口座の残高を並べることから始めてみてください。

参考文献

  • ソニー生命保険「子どもの教育資金に関する調査2026」(2026年3月発表)
    https://www.sonylife.co.jp/company/news/2025/nr_260324.html
  • 金融広報中央委員会(J-FLEC)「家計の金融行動に関する世論調査」
    https://www.shiruporuto.jp/public/document/container/yoron/
  • 文部科学省「令和5年度子供の学習費調査」
    https://www.mext.go.jp/b_menu/toukei/chousa03/gakushuuhi/1268091.htm