「うちの子が小学校に入ったら、仕事どうしようか」。武蔵小杉の保育園の朝、一緒に送迎をしている先輩パパからそう相談されたのは2年前の春のことだった。その先輩の娘さんは当時小1になったばかり。第一声は「学童、ちゃんと入れたのになんでこんなにしんどいんだろう」だった。
保育園時代は8時に預けて18時半に迎えに行けばよかった。ところが小学校に入った途端、朝は7時40分には登校班に並ばせなければならない(保育園より30分以上早い)、宿題は毎日30〜40分かかって親の丸付けが必要、学童は18時半には閉まるのに退勤は19時……という3つの問題が同時に来た、と言っていた。「妻が転職を考えている」という言葉が刺さって、自分の息子が2〜3年後に同じ壁を迎える前に整理しておこうと思った。
時短復職のリアルは「制度を使えばなんとかなる」ではなく「制度を組み合わせて生活を設計する」だということを、6ヶ月育休を取った当事者として身をもって知っている。この記事では共働き家庭の小1の壁を3層で整理し、2025年改正法で使える制度と職場への伝え方、そして年中から動く先手設計の3ステップを書いておきたい。
小1の壁は3層構造で来る
「小1の壁」という言葉は知っていても、具体的に何が変わるのかをイメージしている人は少ない。先輩パパの体験と保育園ネットワークで集めた話を整理すると、3層構造になっていた。学童の確保だけで全部解決すると思い込んでいると、入学後に想定外の壁に次々とぶつかることになる。
第1層:学童の「預かり時間の壁」
公立の放課後児童クラブ(学童保育)の終了時刻は、全国の約84%が18時以降まで利用可能だ(厚生労働省調査)。だが「利用可能」と「余裕を持って迎えに行ける」は別の話だ。18時半閉所の学童に間に合わせるために19時終業の仕事を切り上げ、電車に飛び乗り、駅から学童まで小走り……というのが都市部で働く親のリアルだ。
また、学童に入れるとは限らない。首都圏(東京・埼玉・千葉)では待機児童が特に深刻で、年度当初に入所できずに困る家庭も出ている。民間学童は預かり時間が長く(20時台まで対応の施設もある)、英語・プログラミングなどの習い事がセットになっている場合もあるが、月額3〜7万円が相場で、家計に直結する判断が必要になる。
第2層:宿題の「親サポート負荷の壁」
公文教育研究会の2024年調査によると、小学1〜3年生の1日の学習時間は平均34.8分。この時間が保護者の「関与時間」に直結する。小学1年生は計算・ひらがな・漢字の書き取りで親の丸付けが毎日必要になる。帰宅して夕食→宿題→風呂→寝かしつけの流れを組み立てるだけで、残業ゼロの日でも21時就寝ラインが見えてくる。
保育園時代に「保育士さんが昼寝・夕方の時間を管理してくれていた」という感覚がいかに大きかったかを、小1になって初めて実感する親が多い。宿題が終わらないのは子どもの問題ではなく、親が宿題タイムを組み込んだスケジュールを設計できていない問題であることがほとんどだ。
第3層:朝の「登校準備の壁」
保育園は7時から預けられる施設も多かったが、小学校の登校班は7時40分〜8時スタートが一般的だ。しかも「ランドセル・水筒・上履き・時間割どおりの教科書・連絡帳のサイン・給食費の封筒」といったチェックリストが毎朝必要になる。これは保育園の「連絡帳の体温欄だけ朝に追記」とは次元が違う複雑さだ。
先輩パパの娘さんが「朝の準備が保育園と全然違う」と言っていたのは、この複雑化した朝のオペレーションのことだった。6時半に起こして、朝食を食べさせて、歯を磨かせて、ランドセルのチェックをして、登校班の集合場所まで送る。それが終わってから自分の出社準備をするような時間的余裕は、通常の共働き家庭には存在しない。
「学童さえ入れば解決」は半分だけ正しい
小1の壁の話をすると「学童に入れれば大丈夫でしょ」という反応が返ってくることがある。先輩パパも最初はそう思っていたと言っていた。実際には、学童は「第1層:預かり時間の壁」を部分的に解決するだけだ。第2層の宿題問題と第3層の朝の準備問題は、学童とは無関係に存在し続ける。
公立学童(放課後児童クラブ)の費用相場は月額4,000〜6,000円が最も多く(全体の約28%)、低コストで利用できる半面、終了時刻は18〜18時半の施設が多い。民間学童は月3〜7万円と高額だが、20時台まで預かり可能・送迎付き・宿題サポートが手厚いなど選択肢が広い。どちらが正解かではなく「自分の職場の退勤時刻と学童の終了時刻が合うかどうか」で選ぶのが正しい判断軸だ。
上司にどう切り出したかなんですけど、復職面談や1on1の段階で「小1入学のタイミングで再度働き方を見直したい」と一言添えておくと、その後の交渉がずっとスムーズになる。制度を使うことへの許可を求めるのではなく、「来年の4月にこういう状況になります」と先に情報提供してしまうのがコツだ。上司側の心理的コストをゼロにすることで、結果的に自分の選択肢が広がる。
2025年改正法で使える3つの制度と職場への伝え方
2025年4月・10月に育児・介護休業法が改正され、共働き家庭の小1以降の壁に使える制度が拡充された。制度改正は待っていても誰も教えてくれないので、この3点は入学前に必ず人事に確認してほしい。
① 子の看護等休暇:小学校3年生修了前まで拡大(2025年4月施行)
改正前は「小学校就学前(保育園・幼稚園段階)まで」だった子の看護等休暇が、「小学校第3学年修了前」まで拡大された。小1・小2・小3の子どもが急な発熱で学童から呼び出された場合、この休暇が使えるようになった。年間5日(子ども2人以上なら10日)を半日・時間単位で取得可能で、有給休暇とは別枠で確保できる制度だ。
実際に育休取った身として言うと、制度を「知っているかどうか」だけで年間の実質手取りが数万円変わることがある。この休暇は法律上の権利なので「使っていいですか?」と許可を求める必要はない。「今月の子の看護等休暇の消化状況を共有します」と事実報告の形で上司に伝えるのが正しい使い方だ。
② 時差出勤・フレックスタイム制(2025年10月施行)
2025年10月施行の改正では、3歳以降〜小学校就学前の子を持つ従業員向けに、企業が時差出勤・フレックス・短時間勤務等の「5つの柔軟措置から2つ以上」を選択・提供することが義務化された。小1入学の前の段階(年長の時期)でこの制度を使って朝の登校時間に合わせた出社時刻の調整を確立しておくことが、入学後の朝の壁への最大の備えになる。
③ テレワーク(努力義務の拡大)
3歳未満の子を持つ従業員へのテレワーク導入努力義務が小学校就学前(3歳〜就学前)にも拡大された。テレワーク日を週2日確保しておくと、学童のお迎え時間が電車通勤より30〜60分短縮できる。入学後も「週2テレワーク×学童お迎え」の動線を維持できるかどうかを、入学前の段階で職場と合意しておくことが重要だ。
職場への伝え方は「相談」ではなく「報告+提案」フォーマットが有効だ。「来年4月に息子が小学校に入学します。現在利用中のフレックスを継続しながら、登校班の集合時間(7時40分)に合わせて8時出社→17時退勤のシフトを維持したいと考えています」という形で、意思・根拠・期限の3点セットで切り出すと上司は動きやすい。
年中・年長から動く先手設計3ステップ
小1の壁は年長の4月に慌てて動いても手遅れになることがある。慣らし保育を朝ルーティンの試運転に使わず、育休復職初週に朝のタイムラインが3回崩壊した苦い記憶がある。準備は「入学直前」ではなく「年中から」始めるべきだ。
Step 1(年中の夏〜秋):学童の情報収集と選択肢の並行把握
公立学童の本申込は一般的に年長の10〜11月が多い。情報収集を年中の夏から始める理由は2つある。1つは人気施設には待機が出るため、倍率・定員を早めに把握しておく必要があること。もう1つは、民間学童の見学・相談には時間がかかるため、秋の申込に間に合わせるには夏から動く必要があるからだ。
確認すべき3点は「①終了時刻(自分の退勤時間に間に合うか)」「②宿題サポートの有無(施設見学で確認)」「③送迎サービスの有無(習い事との組み合わせ可能かどうか)」だ。民間学童は費用(月3〜7万円)を家計の月単位キャッシュフローで組み込めるか、年収ベースではなく月ベースで確認しておく。あわせてファミリーサポート事業への先行登録も年中の秋に済ませておきたい。マッチングに1〜3週間かかるため、「使いたいと思ったときに急に登録できるもの」ではなく「検討段階で登録だけ済ませておくもの」と設計する。
Step 2(年長の春〜夏):朝ルーティンの先行テスト
年長の保育園登園期間を「小学校の朝の時間割のリハーサル」として意図的に使う。具体的には「保育園の登園出発時刻をあえて7時40分に合わせる」「ランドセル型のリュックに前夜チェックリストを貼って試す」の2点だ。これだけで小学校入学後の朝の崩壊ポイントが事前に把握できる。
慣らし保育を朝ルーティンの試運転に使えなかった後悔は今でも残っている。育休から時短復職した初週に朝のタイムラインが3回崩壊した根本原因は「子どもが予定通り動く前提のスケジュール」を組んでいたことだった。年長の保育園登園期間は、仕事のプレッシャーがない状態で破綻ポイントを洗い出せる最後のチャンスだ。バッファは削るものではなく最初から確保するもの——この原則は小学校入学後の朝にも同じように機能する。
Step 3(年長の秋〜冬):職場への事前通知と制度申請
小学校入学の4〜5ヶ月前(年長の10〜11月)に、職場への事前通知を行う。「来年4月に入学します」「学童の終了時刻に合わせて退勤時刻を固定したい」「子の看護等休暇の取得方法を確認しました」の3点を1on1で先出しするだけで、上司の心理的コストはゼロになる。
月次1on1での制約先出しをルーティン化している経験から言うと、この事前通知は「相談」ではなく「情報提供」として位置づけることが大事だ。上司が「来年4月のこの人は何時退勤になるのか」をあらかじめ知っていることで、案件のアサインや会議のスケジュールを事前に調整してもらいやすくなる。変動する制約(行事週・呼び出し多発シーズン)を月初の1on1で先出しする習慣は、小1以降も同じように機能する。
FAQ
小1の壁で仕事を辞めることを検討しています。離職前に試すべきことはありますか?
離職前に確認すべきことは3点ある。①現職で2025年改正の子の看護等休暇(小3修了前まで)やフレックス制度を申請済みか。②学童の終了時刻と退勤時刻が「本当に間に合わない」のかを民間学童の費用も含めてシミュレーションしたか。③転職した場合、育休給付金の条件がリセットされる・保育園退園リスクが生じるといった構造的な落とし穴を把握しているか。「今の職場の制度を使い切ったか」を問うことで後悔を減らせる。
公立学童と民間学童、どちらを選べばいいですか?
「勤務先の退勤時刻(最終のお迎え時刻)」と「月のキャッシュフロー(民間なら月3〜7万円を捻出できるか)」の2点で判断する。18時半に確実に迎えられるなら公立(月4,000〜6,000円)で十分な場合が多い。退勤が19時を超える、宿題サポートを重視するなら民間学童や送迎サービス付きの施設を選ぶ。どちらか1択ではなく「公立が外れた場合の民間学童」を年中のうちから並行把握しておくことが重要だ。
2025年の法改正で小1の壁は改善されましたか?
部分的には改善された。2025年4月施行の改正で「子の看護等休暇」が小学校3年生修了前まで拡大され、小1・小2の急な呼び出し対応に年間5日(子2人以上なら10日)が使えるようになった。2025年10月施行の改正では3歳以降〜就学前の柔軟措置(フレックス・時差出勤等)が義務化された。ただし学童の終了時刻や宿題の親サポート問題は法律では解決しないため、職場交渉と家庭設計の両面が依然として必要だ。
学童の申込は何月ごろ始めればいいですか?
公立学童(放課後児童クラブ)の本申込は多くの自治体で年長(小学校入学前年)の10〜11月が締め切りとなっている。民間学童は通年受付の施設が多いが人気施設は定員がある。情報収集は年中の夏から始め、年長の10月には申込を終わらせるスケジュールが現実的だ。ファミリーサポート事業への先行登録も、マッチングに時間がかかるため年中の秋に済ませておくとよい。
宿題の親サポートが大変で毎日帰宅後30分の関与が続いています。
「毎日帰宅後に親が必ず丸付けをしなければならない」という前提を外すことから始める。学童に宿題サポートがある施設ならそちらに任せる。なければ週に2〜3回に絞り、それ以外は子ども自身の習慣化に任せる期間をつくる。宿題の量が過剰と感じる場合は学校の先生に相談するのも正解だ。「週3回15分のサポート設計」に切り替えるだけで親の負荷は大幅に下がる。
参考文献
- 放課後児童クラブの現状について — 厚生労働省, 2024年
- 2025年4月・10月施行 育児・介護休業法改正のポイント解説 — BUSINESS LAWYERS, 2025年
- KUMON家庭学習調査2024 — 公文教育研究会, 2025年2月
- 民間学童保育おすすめランキング!公立学童との違いも【2026最新】 — コエテコ byGMO, 2026年
- 小1の壁とは?共働き家庭が直面する原因と今すぐできる6つの対策 — ウィズダムアカデミー, 2024年






