10月に入ると「過去問をもう1周させるべきでしょうか」という相談が増える。9月の初回演習を終え、合格最低点との差が見えてきた段階で、次のアクションを問う声だ。答えを先に言う。2周目の設計を間違えると、同じ時間をかけて9月と同じ得点率が返ってくる。1周目と同じやり方で解き直すのは「復習」ではなく「作業」だ。
元四大塾の主任講師18年、独立後のコンサルで1500家庭以上を見てきた経験からいえることがある。過去問の2周目は、1周目とは根本的に目的が違う。1周目が「診断フェーズ」なら、2周目は「修正フェーズ」だ。そして修正フェーズには、診断フェーズとは異なる3つの設計が必要になる。
9月の1周目と10月の2周目は「目的が違う」
9月の初回演習で多くの家庭がやることは正しい。古い年度から解き始め、得点率を記録し、合格最低点との差を確認する。これは出題マップの実地検証であり、失点3分類(計算ミス・立式不能・途中停止)で弱点の所在を特定するフェーズだ。ここまでは診断。
問題は10月に入ってからだ。「また同じように解く」という家庭が多いが、偏差値表ではなく過去問との相性で見ると、2周目で上がる家庭と上がらない家庭には明確な分岐点がある。上がる家庭は失点3分類の記録を手元に置いて、立式不能の単元だけに絞って解き直している。上がらない家庭は全問を同じ重みで解き直している。
10月の2周目を「修正フェーズ」として機能させるには、以下の3ステップが前提になる。
ステップ1:2周目に入る前の「3つの確認」
2周目の演習を始める前に、必ず以下を手元に揃える。
- 失点3分類の記録:9月の各回演習で、計算ミス・立式不能・途中停止をどの科目のどの単元で起こしたか記録されているか
- 出題マップ(完成版):第一志望校5年分の科目別・単元別の出題頻度と配点比重が一覧化されているか
- 10月のカレンダー:塾の通常授業、週テスト、模試の日程と家庭学習可能時間が確認されているか
この3つが揃っていない状態で2周目を始めると、立式不能の単元を避けながら「解けた問題を再度解く」という最も無駄な使い方になる。まずこの3つを揃える。揃っていなければ揃えることを1週間のタスクにする。
ステップ2:第一志望の2周目は「立式不能単元の集中修正」
2周目のやり方を具体的に示す。
まず、9月の失点3分類の記録から立式不能が集中している単元を最大2つ特定する。計算ミスと途中停止はそれぞれ別アプローチが有効だが、2周目で得点率を上げる直接の手段は立式不能の解消だ。
次に、第一志望校の過去問から当該単元の問題だけを抜き出す。全問を時間計測で解き直すのは3周目(12月以降)の役割だ。10月の2周目では「この単元の問題を骨格から理解しているか」を確認することに特化する。
具体的な演習は以下の順序でやる。
- 問題を読んで骨組みメモを書く(解くのではなく立式だけ)
- 立式できたら解く。できなければ解説を読んで立式の根拠を声に出して説明させる
- 3〜4日後に同じ問題を白紙で再解き。立式できるか確認する
この設計の前提は、1日あたりの演習時間が確保できることだ。10月の平日は塾の宿題と通常授業があるため、実質使える時間は1〜1.5時間が上限の家庭が多い。2周目の演習は週3コマ(1コマ45〜60分)が現実的なペースだ。
ステップ3:第二志望・安全校の初回演習は「10月後半から」
第二志望校・安全校の初回演習をいつ入れるかは、設計ミスが最も起きやすいポイントだ。第一志望の2周目を削って安全校を増やすのは逆効果という原則を先に確認しておく。
実際に第一志望の2周目を中断して安全校の演習に移り、11月に第一志望の得点率が上がっていない家庭を何十も見てきた。「合格のある状態で本番を迎えさせたい」という保護者の気持ちはわかる。だが、合格率を上げるのは安全校の演習量ではなく、第一志望校での得点力だ。
推奨スケジュールは以下の通りだ。
| 時期 | 演習対象 | コマ数目安(週) |
|---|---|---|
| 10月前半(1〜2週) | 第一志望2周目(立式不能単元中心) | 週3コマ |
| 10月後半(3〜4週) | 第一志望2周目 + 第二志望初回を開始 | 第一志望2コマ・第二志望1コマ |
| 11月前半 | 第一志望2周目(全科目通し演習)+ 安全校初回を開始 | 第一志望2コマ・安全校1コマ |
| 11月中旬(デッドライン) | 第一志望得点率70%基準で変更判断 | — |
第二志望・安全校は「出題マップの確認と相性判定」が目的だ。1周目は合格最低点との距離ではなく、出題形式が子どもの得意パターンと合っているかを確認することを最優先にする。
11月中旬デッドラインと「3軸判断」
志望校変更のデッドラインは11月中旬だ。この段階で第一志望の過去問得点率が合格最低点の70%未満が続いている場合、3軸で変更可否を判断する。
- 偏差値差と残り期間:偏差値差5ポイント以内なら変更根拠なし。7ポイント以上なら要検討
- 出題形式との相性:相性が高い場合は偏差値差7ポイント以上でも据え置きが合理的
- 子どもの意志の継続性:本人が納得しているかどうかが最重要
10月の模試偏差値だけで変更判断するのは早すぎる。10月の模試偏差値は母集団の変化(夏期講習明けの精鋭化が継続)による影響が残っており、実力の変化と混同すると方針がぶれる。
ここで一つ事例を挙げておく。偏差値58の小6男子で、志望校(偏差値62)に10月時点でもD判定が続いていた家庭がある。保護者は変更を検討していた。過去問の出題マップを確認すると、その志望校の算数は「記述型・途中式重視」の出題形式だった。本人の得意スタイルと完全に一致していた。逆に苦手だった速さの処理速度型問題は志望校ではほぼ出題されない。10月に捨て単元を2つに確定させ、記述と配点の高い頻出単元に学習時間を集中した。11月に過去問得点率が合格最低点を超え、本番で合格した。偏差値は最後まで60前後のままだったが、「過去問との相性」が合否を分けた典型例だ。
10月に「捨て単元」を確定させる理由
10月は捨て単元の最終確認タイミングだ。12月以降は新規単元の追加禁止という原則がある。なぜなら、12月以降に新しい単元に手を出すと既存の精度が下がるからだ。捨て単元の確定は「やることを増やすのではなくやらないことを決める」作業であり、10月中に終わらせる。
捨て単元を確定する3基準を示す。
- 志望校の出題マップで頻出でない:過去5年で1回以下の出題単元
- 失点に占める比重が低い:失点3分類で途中停止が主で、立式はできている
- 残り期間で習熟が見込めない:10月から本番まで3か月で0から仕上げるコストが高すぎる
捨て単元は1科目につき最大2つが限界だ。3つ以上捨てると得点の穴が大きくなりすぎる。確定したら親子でカレンダーに書き込み、それ以降その単元に時間を使わないことを明示する。
2周目でも得点率が上がらない場合の診断
10月後半に第一志望の2周目を進めても得点率が上がらない場合は、以下の3タイプで原因を特定する。
- タイプA(基礎の穴型):立式不能が2周目でも解消されていない。対処は単元絞りをさらに1つに絞り、説明タイム10分を毎日設計する
- タイプB(形式ミスマッチ型):模試得点率は維持されているが、志望校の過去問だけ低い。対処は出題マップの出題形式(記述型か選択型か、処理速度重視か論述重視か)を再確認し、形式に特化した演習に切り替える
- タイプC(時間管理型):制限時間なしなら解けるが、制限時間内に終わらない。対処は捨て問の設定(10月末までに確定)と解法の自動化(同パターンの問題を週3問繰り返す)の2段階
複数タイプが重なる場合は、タイプA→B→Cの順で対処する。基礎の穴が残ったまま形式対策や時間対策を積み上げても、根本の正答率は上がらない。
親の役割は「記録係と声かけ設計」に徹する
10月以降の親の関与は3点に限定すべきだ。
- 失点3分類の記録更新:2周目演習後に失点の内訳をカレンダーに記録する
- 出題マップとの照合確認:週末に「この単元、志望校に出てた?」と確認する1分の照合作業
- 事実確認+次の行動提案の声かけ:「得点率が先週より2点上がったね。次は〇〇の単元に集中しよう」という形式。偏差値には触れない
やってはいけない関与のNG3つは、「なんで同じ間違いをするんだ」という感情的フィードバック、子どもの代わりに解説を読んで教えること、そして10月の模試偏差値に反応して方針を変えることだ。合格は子の能力と親の自制力の関数だ。10月の親の自制力が11月以降の伸び率に直結する。
まとめ:10月の2周目設計3ステップ
- ステップ1:2周目を始める前に失点3分類・出題マップ・カレンダーの3つを揃える
- ステップ2:第一志望の2周目は立式不能単元に集中投下。第二志望は10月後半から開始し、第一志望を削らない
- ステップ3:11月中旬デッドラインから逆算し、捨て単元を10月中に確定。変更判断は偏差値差・出題相性・子の意志の3軸で行う
10月は受験学年で最も「親の設計力」が問われる月だ。9月に診断が終わり、11月に向けて修正する1か月間。この設計が2月の結果を構造的に決める。
よくある質問
Q1. 第一志望の2周目は最古年度から順に解くべきですか?
A. 2周目は年度順ではなく「立式不能単元が多く出ている年度」から入ることを勧める。9月の失点3分類の記録を見て、苦手単元が集中して出題された年度を最初に選ぶと修正効果が高くなる。全年度を通じて時間計測で解くのは3周目(12月以降)の設計だ。
Q2. 第二志望・安全校も解かないといけないのに、第一志望の2周目と両方こなせません
A. 週のコマ数を先に決め、第一志望2コマ:それ以外1コマの比率を守ることが原則だ。安全校の過去問は「合否確認」ではなく「出題形式との相性確認」を目的に絞れば、1校につき1年分で十分なケースが多い。全年数こなす必要はない。
Q3. 塾から「苦手単元用の問題集を追加しましょう」と言われました。どう判断すればいいですか?
A. 追加前に志望校の出題マップを確認してほしい。その単元が志望校で頻出かどうかを先に見る。頻出でなければ追加する合理性はない。追加する場合は同時走行教材3冊以内を守り、学習密度を維持することが条件だ。
Q4. 11月中旬デッドラインで「70%未満が続いている」場合、すぐ志望校変更すべきですか?
A. 即断ではなく3軸(偏差値差と残り期間・出題形式との相性・子の意志)で判断する。相性が高い場合、偏差値差が7ポイントあっても据え置きが合理的なケースがある。変更よりも「残り2か月で何の単元に集中するか」を先に設計することが先決だ。
Q5. 2周目を進めていますが、子どもが「また同じ問題だ」と嫌がります
A. 2周目の演習は「全問解き直し」ではなく「立式不能の問題だけを白紙から解く」に変えると子どもの抵抗感が大幅に減る。「全部またやるの」ではなく「この3問だけ立式を確認しよう」というフレーミングが、自走力を維持しながら効率を上げる。
参考文献
- 文部科学省「令和5年度 子どもの学習費調査」(文部科学省、2024年)
- 日本私立中学高等学校連合会「2026年度 首都圏中学入試動向」(日本私立中学高等学校連合会、2026年)
- 栄光ゼミナール「中学受験実態調査2026年版」(株式会社enaグループ、2026年)
- 安浪京子・野本響子『中学受験の親の仕事』(中央公論新社、2023年)






