18年間、四大進学塾で主任講師として2000名以上の算数指導を担当してきたなかで、「速さ問題だけ点が取れない」という相談は毎年繰り返されてきた。保護者の多くは旅人算の問題集を買い足し、解法パターンをさらに増やそうとする。しかしこれが逆効果になるケースが非常に多い。

速さ問題でつまずく子を1500家庭以上のデータで分析すると、原因は一様でなく3タイプに分類できることがわかっている。タイプを特定せずに問題集を積み上げても穴は埋まらない。今回は、そのタイプ診断から家庭学習設計まで、一連の処方箋を整理する。

なぜ「速さ」は算数の中でもとりわけ難しいのか

速さの問題が難しい本質的な理由は、公式(速さ×時間=距離)を知っているかどうかではない。3つの量(速さ・時間・距離)が同時に変動する場面を頭の中で動かせるかどうかが壁になっている。

さらに中学受験では、旅人算(2人が異なる速さで動く場面)・通過算(列車の長さを考慮した速さ計算)・流水算(川の流れを加味した速さ計算)と、基本の速さ問題に条件が積み重なっていく。基礎概念が不安定なまま応用に進むと、公式をあてはめるだけの「作業」になり、条件が変わった瞬間に思考が止まる。

朝の過去問分析をルーティンにしているが、速さ問題は志望校によって出題形式の差が大きく、「何を先に固めるか」の設計が合否を大きく左右する。そのためには、まず子どものつまずきのタイプを特定することが最初の一手だ。

タイプ診断:模試3回分の失点を3タイプで分類する

模試3回分の速さ関連問題の失点を次の3分類で整理する。作業自体は5〜10分で完了するが、これが対策の精度を決定する。

  • タイプA:速さ基礎・単位換算不安定型
    単純な距離=速さ×時間の文章題や単位換算(km/h→m/分など)で失点が集中している。計算はできるが「単位が合っているか」を確認せずに進む。
  • タイプB:線分図・状況図非定着型
    基礎計算はできるが、図を描かずに暗算で処理しようとして行き詰まる。途中停止・白紙が多く、書かれた式に脈絡がない。
  • タイプC:旅人算・通過算・流水算転用力不足型
    出会い・追いかけなど基本パターンはできるが、往復・複合条件の問題になると解法が選べない。「どのパターンか」が判断できずに止まる。

3タイプのうち、最初に特定すべきはタイプAだ。タイプAが残ったままタイプCの問題を解かせても一切積み上がらない。速さの基礎概念と単位換算が安定してから、線分図、旅人算と順番に取り組む。

タイプA:速さ基礎・単位換算不安定型への処方箋

原因

速さの概念が「言葉」で理解されていない。速さとは「1分間に何m進めるか」という単位あたり量の概念であり、これが腑に落ちていないまま公式で処理しようとしている。

家庭学習設計

まず「分速・時速・秒速の変換」と「距離・時間・速さの関係を言葉で説明する」練習に1週間集中する。問題演習より先に、口頭での説明ができるかどうかを確認する。

親の役割は「じゃあ分速60mって、1分間で60m進むってことだよね?」と聞き返す聞き役に徹することだ。1日10分で十分。公式の確認ではなく、意味の言語化に時間を使う。

単位換算の練習は1日5問・制限時間3分で完答できる状態を目標にする。ここが安定してからタイプBの線分図訓練に入る。

タイプB:線分図・状況図非定着型への処方箋

原因

速さ問題の「見える化」ができていない。旅人算や通過算は、2つ以上の動体が同時に動く場面を整理しないと解けないが、図を描く習慣が身についていないためワーキングメモリがオーバーロードして詰まる。

家庭学習設計

家庭学習の速さ問題では、まず「図を描く」ことを義務化する。解けるかどうかより先に、出発地点・到着地点・2者の位置関係を図に描いてから計算に入るルールを作る。

具体的な練習:1日1問、時間を測らずに状況図を完成させることに集中する。解けなくてよい。「図が描けた=正解」という評価基準でよい。ダイヤグラム(縦軸時間・横軸距離の二次元図)は難易度が高いため、まず一次元の線分図から始める。

親が「ここに2人がいて、こっちに動いてるでしょ」と教えるのではなく、子ども自身に「どっちが先に動いたか」「どこで会うか」を考えながら描かせることが重要だ。描いたら声に出して説明させる説明タイムを10分組み込む。

タイプC:旅人算・通過算転用力不足型への処方箋

原因

解法パターンを「型」として覚えているが、条件が変わったときに何の「型」を使えばよいかが判断できない。出会い算・追いかけ算・往復の基本は解けるが、問題文の条件が複合されると思考が止まる。

家庭学習設計

旅人算を「出会い→追いかけ→往復→3者以上」の4パターンに分類し、週替わりで1パターンずつ集中訓練する。各パターンで「何が一定で、何が変わるか」を言葉にしてから解き始める習慣をつける。

通過算・流水算は配点の軽い学校も多い。偏差値表ではなく過去問との相性で見ると、志望校が通過算・流水算をほとんど出題していないケースも少なくない。タイプCの中でも「志望校で問われるパターン」に限定して訓練するのが効率的だ。過去問5年分を読んで出題マップを作成した後に、訓練するパターンを絞る。

志望校の出題マップとの照合で「やる問題」を絞る

速さ問題の対策で最も時間を無駄にしているのは、全パターンを均等に練習することだ。志望校によって出題の偏りは大きく異なる。親が志望校の過去問5年分を「解かずに読む」(1年分20〜30分、5年で2時間)だけで出題マップが見えてくる。

  • 旅人算(出会い・追いかけ)が毎年1問出る学校→ タイプCの出会い・追いかけに集中投下
  • 通過算が5年で1度も出ていない学校→ 通過算は捨て問候補に設定
  • ダイヤグラム読み取りが頻出の学校→ タイプBのダイヤグラム訓練を先行

志望校選定の段階で勝負は決まっている──これは速さ問題の対策設計にも直結する。出題マップと子どもの失点タイプを照合してはじめて「何を・いつまでに・どう仕上げるか」が具体化できる。速さが苦手なままD判定が続く場合でも、志望校の出題形式が子どもの得意スタイルと合っていれば、逆転合格は現実的な話だ。

タイプ別・1日の家庭学習設計まとめ

タイプ 1日の学習内容 親の役割 期間の目安
タイプA
(基礎不安定)
単位換算5問(3分)+言語化説明10分 意味の聞き返し役 1〜2週間
タイプB
(線分図未定着)
図を描く1問(時間無制限)+説明タイム10分 図完成を確認・傾聴 2〜3週間
タイプC
(転用力不足)
週替わり1パターン・3問演習+言語化5分 過去問マップ照合 3〜4週間

親が動く範囲を最初に決める。速さの対策で親がやることは「タイプ特定」「過去問マップ作成」「説明タイムの傾聴」の3点に限定し、問題を教えようとしないことが子どもの自走力を守る。

よくある質問(FAQ)

Q. 3タイプすべてが当てはまる場合はどうすればよいですか?
まずタイプAから潰す。タイプAが残ったままではタイプBとCの訓練が無意味になる。速さの基本概念と単位換算が安定してから、線分図、旅人算と順番に取り組む。同時並行は絶対に避けること。
Q. 夏休みの40日間で速さの苦手は克服できますか?
タイプAとタイプBは40日で十分に改善できる。タイプCは志望校の出題マップを照合した上で「どのパターンを仕上げるか」を絞れば、1〜2パターンの転用力は同じ期間でつく。全パターンを均等に練習する発想を捨てることが前提条件だ。
Q. 塾で速さを習ったはずなのに家庭で再度やり直す必要がありますか?
塾の授業は解法を「教わる」場であり、「使えるようになる」場ではない。転用力は演習と説明タイムの組み合わせで身につく。塾で習った解法を家庭で言語化して使えるかどうかを確認するプロセスが抜けているケースがほとんどだ。
Q. 速さが苦手なまま受験を迎えそうです。捨て問にすべきですか?
志望校の過去問での速さ問題の配点と出題頻度を確認してから判断する。配点が低く頻出でない場合は他の単元に時間を回す決断が合理的だ。捨て問を作ること自体は戦略であり、感情論ではなく過去問との相性で見ることが重要だ。
Q. 通過算や流水算は必ずやるべきですか?
やるべきかどうかは志望校の出題マップが答えを出す。過去問5年分で通過算が一度も出ていない学校であれば、その時間を旅人算の精度向上に充てる方が合理的だ。「全単元をやる」発想は時間の分散投下になる。

参考文献

  • 文部科学省「令和5年度 全国学力・学習状況調査 報告書(算数・数学)」(2023年)
  • RISU Japan「中学受験算数の旅人算とは?基本パターンと解き方のポイントを解説」(2026年4月)
  • 京進まなチャンネル「中学受験で出題される「速さ」の苦手を克服!頻出問題と解き方のコツ」
  • 中学受験プロ講師ブログ「受験算数必須!どこに注目?~速さと比・旅人算~」