8月に入ってから「国語の過去問を解かせたら記述が3問中3問全部白紙だった」という相談が複数届いている。志望校の配点表を確認すると、記述だけで全体の30〜40%を占める学校が珍しくない。選択肢と漢字・語句でどれだけ稼いでも、記述が白紙なら合格最低点には構造的に届かない。
2026年入試の傾向を見ると、難関校を中心に20〜60字の記述問題が3〜4題設定され、配点が高くなっている。にもかかわらず、家庭での対策が「本をたくさん読む」か「漢字練習」で止まっている家庭が多い。
読書量と記述力は別の能力だ。記述には「設問読解→根拠特定→論理的記述」という固有の技術がある。その技術を持っているかどうかで、同じ偏差値の子でも記述得点に2倍以上の差が生まれる。
この記事では、記述問題が書けない子の3タイプを診断し、タイプ別の対策と夏の6週間トレーニングを具体的に提示する。
まず志望校の国語出題マップを確認する
記述対策に入る前に必ずやることがある。志望校の過去問5年分を親が「解かずに読む」ことだ。確認すべきは2点。①記述問題が何問あって何字指定か、②どのタイプの記述が多いか(心情説明型・理由説明型・内容要約型)。
偏差値表ではなく過去問との相性で見ると、同じ記述が苦手でも「30字以内が2問しかない学校」と「60字以内が4問ある学校」では対策の重みがまったく違う。志望校選定の段階で勝負は決まっているという原則は、国語の記述対策にも直結している。
記述配点が全体の15%以下の学校であれば、選択肢と知識問題の精度を上げるほうが合格への近道になることも多い。「記述を6週間頑張る価値があるか」を確認してから動くこと。
「記述が書けない子」は3タイプに分類できる
18年間で2,000名以上の指導経験から、記述問題が書けない子のパターンを3つに分類した。まず模試の記述問題を3回分引っ張り出して、以下の分類表に当てはめてほしい。
タイプA:設問読み間違い型
設問を最後まで読まずに「なんとなく書いてしまう」タイプ。設問に「〜から50字以内で説明しなさい」と書いてあるのに、原因ではなく結果を書く。「理由を2つ挙げて」と指示があるのに1つしか書かない。答案用紙を見ると「書いてはいるが論点がずれている」状態になる。
見極め方:模試の答案で設問と答えを照合したとき、「聞かれていることと書いてあることが一致していない」問題が2問以上ある場合はタイプA。
タイプB:根拠探索不能型
何を書けばいいかはわかっているが、本文のどこに根拠があるか見つけられないタイプ。着手して途中まで書くが、本文と無関係な「自分の感想」や「推測」が混入する。採点では「根拠不明」として部分点が入らない。
見極め方:答案に書いてある内容が本文中に書かれているかを確認する。「本文のどこにそれが書いてあった?」と聞かれて答えられない場合はタイプB。
タイプC:白紙型
手が止まって一行も書けないタイプ。「完璧に書かなければならない」というプレッシャーから、1字も書けずに時間が来る。潜在的には答えの輪郭がぼんやり見えているにもかかわらず、「完璧でないなら書かない方がまし」という思考が働いている。記述配点の高い学校では致命的な失点になる。
見極め方:「この問題、どう答えようとしたか口で言ってみて」と聞いたとき、ある程度言えるなら白紙型。口でも言えなければタイプBに近い。
| タイプ | 症状 | 失点の構造 | 最優先対策 |
|---|---|---|---|
| A:設問読み間違い | 書いているが論点ズレ | 設問条件を無視 | 設問の指示語分解 |
| B:根拠探索不能 | 途中まで書いて感想になる | 本文根拠なし | マーカー読み |
| C:白紙型 | 手が止まる | 部分点ゼロ | 骨組みメモ先行 |
タイプ別 夏の記述トレーニング3ステップ(1日15分)
1日15分を3つのブロックに分ける。これが基本構造だ。3ステップを踏むことと、踏めたかどうかの確認が目的であり、最初の段階では得点は気にしない。
ステップ1:設問の指示語分解(5分)
設問を読んで、①「誰が・何を」②「どのように」③「何字以内で」の3要素に分解してから答えを書き始める習慣をつける。特にタイプAには最初の5分をここに集中させる。
練習法:設問に赤ペンで「キーワード」に丸をつけ、「この設問が求めていることを一言で言うと?」を子ども自身に声に出させる。最初は親が一緒に確認する時間を5分取る。
ステップ2:根拠のマーカー読み(5分)
本文を読みながら「この設問に関係しそうな一文」に赤マーカーを引く。マーカーは引きすぎないこと(最大3か所)。タイプBには「本文のどの行に根拠があるか」を探すことに特化した5分を毎日設ける。
練習法:答えを書く前に必ず「本文の○行目に〜と書いてある」と声に出させる。根拠を言語化できたら初めて答案を書き始める。
ステップ3:骨組みメモから書く(5分)
いきなり本文を書かず、「主語+理由1+理由2(または具体例)+まとめ」の骨組みを箇条書きにしてから清書する。タイプCには「完璧な文でなくていい、まず骨組みを3行書く」という指示から入るのが効果的だ。記述の得点目標は満点ではなく、4〜5割の部分点安定に設定する。
練習法:答案の前に必ず骨組みメモ欄を作る(白紙のメモ帳か問題用紙の余白)。骨組みができたら親が「これで書いてみよう」と声をかける。
夏の6週間ロードマップ
夏休みを約40日として、記述トレーニングを3つのフェーズに分ける。
| フェーズ | 期間 | 目標 | 練習材料 |
|---|---|---|---|
| Phase 1:型の習得 | 第1〜2週 | 3ステップを体で覚える | 塾のテキスト(既習) |
| Phase 2:転用練習 | 第3〜4週 | 初見の問題で型を使う | 他の問題集(1冊だけ追加) |
| Phase 3:志望校照合 | 第5〜6週 | 志望校の出題形式で得点確認 | 志望校過去問(1〜2年分) |
Phase 1の注意:初週は得点を気にしない。「3ステップが踏めたか」だけを評価基準にする。ステップが踏めたら花丸、踏めなければ「どこで止まった?」を確認するだけ。
Phase 2の注意:問題集を追加する場合は1冊だけ。記述問題が多い問題集を選び、3〜4問を毎日15分で解く。解き直しは「立式不能(書き始められない)」の問題だけに絞ること。
Phase 3の注意:志望校の過去問は8月の最終週に初めて解かせること。解く前に「記述を0点でも動揺しない、まず型を使えたかどうかを確認する」と親子で確認してから取り組む。
実例:記述3問白紙から3ヶ月で得点率45%に改善
指導していた6年生のケースを紹介する。選択肢問題と漢字ではほぼ満点近くを取れていたが、志望校の過去問を解かせると国語の記述3問が全部白紙だった。記述の配点は全体の35%。選択肢だけでは合格最低点に20点以上届かない状態だった。
分類してみるとタイプCの白紙型だった。「書けない」のではなく、「完璧でないなら書きたくない」という意識が強く、骨組みメモを見せると「こんな段階でいいんですか?」と聞いてくるほどだった。
対策は「1日15分・骨組みメモ先行・部分点4〜5割を目標」に絞った。最初の2週間は塾テキストの既習問題を使い、3ステップが体に入るまで同じ問題を繰り返した。3週目から初見の問題を1日3問。説明タイムを毎日5分設けて「この根拠はどこから取った?」を聞き続けた。
3か月後の過去問では記述の得点率が約45%まで回復した。偏差値自体は変わらなかったが、志望校で点を取れる力が構造的に伸びた。偏差値は集団の中の位置であり、志望校の入試得点力は別物だということを、このケースほど実感したことはない。
親の役割と関与の範囲を最初に決める
記述トレーニングで親がやるべきことは3つだ。親が動く範囲を最初に決めることが、子どもの自走力を守る。
- 志望校の出題マップを作る(Phase 1開始前):過去問5年分を読んで記述問題の数・字数・出題タイプを一覧表にまとめる。30分あればできる。
- 毎日の3ステップ確認(3分):「設問に赤丸を引いたか」「マーカーを引いたか」「骨組みメモを書いたか」の3項目をチェックする。内容の正誤には踏み込まない。
- 説明タイムで聞く(5分):子どもが書き終えたら「どうしてその根拠を選んだの?」と一言聞く。正解か不正解かを言わず、思考プロセスを引き出すことに集中する。
添削・解説・模範解答の読み上げは親の役割ではない。採点は塾に任せ、家庭ではプロセスの確認に徹してほしい。
記述対策で「夏に同時にできること」の現実的な上限
夏休み40日で記述が完全に仕上がるという期待は持たないほうがいい。現実的なゴール設定は「記述の得点率を0%から40%に上げる」か「すでに20%ある子が50%まで安定させる」程度だ。
また、記述対策は算数の苦手単元対策と時間を取り合う関係にある。1日の家庭学習時間が3時間なら、記述に充てられるのは15〜20分が現実的な上限だ。算数の復習時間を削って記述に集中する必要は、よほど記述配点が高い志望校でなければない。
夏に記述だけを集中的に練習する価値があるかどうかは、志望校の過去問との照合で判断する。記述配点が30%を超える学校を志望しているなら、今すぐ始める価値は十分にある。
よくある質問(FAQ)
Q1. 記述が苦手な子は志望校を変えたほうがいいですか?
A. 志望校の出題形式を確認せずに判断するのは早い。記述配点が15%以下の学校なら、選択肢と知識問題の精度を上げる方が合格に近い。過去問を読んで記述が合否を左右する学校かどうかを確認してから判断すること。記述配点が30%を超えるなら夏の6週間トレーニングを試みる価値はある。それでも改善が限定的なら、志望校の見直しを10月以降の選択肢に入れる。
Q2. 記述の練習は何冊問題集を使えばいいですか?
A. 夏は1冊だけでいい。塾テキストの記述問題を使い、同時走行の教材を増やさない。問題集を2冊以上並行させると、どちらも中途半端に終わる。記述は量より密度。1冊を丁寧に3ステップで解く方が、5冊を流し読みするより転用力が上がる。
Q3. 親が記述の採点をしていいですか?
A. 採点より先に「3ステップが踏めたか」の確認をすること。採点は正誤の判定に偏りがちで、子どもがプロセスではなく結果に目を向けてしまう。夏の段階では採点は塾に任せ、家庭では「設問を読んだか・根拠を探したか・骨組みを作ったか」の3項目確認に徹してほしい。
Q4. 本をたくさん読ませたら記述が上手くなりますか?
A. 読書量と記述力は別の能力だ。読書は語彙と背景知識を増やすが、「設問に対して根拠を本文から抽出して論理的に記述する」技術は練習しなければ育たない。読書を習慣にすることと記述の技術トレーニングは、並行して行うものであり代替関係にない。
Q5. 記述で満点を取れるようにならないといけませんか?
A. 夏の段階では満点を目指さなくていい。記述の得点目標は4〜5割の部分点安定だ。採点者が「根拠がある」「論点がずれていない」と判断する答案を書けるようになれば、部分点が入る。満点を求めると完璧主義から白紙を生む。まず「なにかしら書く→根拠がある→論点がずれていない」の順番で積み上げることが現実的な戦略だ。
参考文献・情報源
- 講談社コクリコ「2026年中学入試ふりかえり 国語物語文出題作品と傾向を紹介」(2026年)
- SS-1「【中学受験国語】記述問題が一気に得意になる「3つの裏ワザ」」(2026年7月)
- ベネッセ教育情報サイト「国語の点数が伸びない6年生 受験までにどう対策する?」(2023年)
- 中学受験国語ドクター「記述問題の解き方」






