「塾の宿題が増えてきたのに、ピアノもスイミングも続けている。そろそろ全部やめさせるべきでしょうか」。毎年10月ごろ、小5・小6の保護者からこの相談がまとまって届きます。私は四大進学塾で18年、1500家庭以上を見てきましたが、この問いに「全部やめる」「全部続ける」と即答するのは、どちらも危ういと考えています。

この記事では、習い事を「残す・減らす・止める」の3分類で仕分けし、週の時間から引き算して決める手順をまとめます。感情ではなく、時間と志望校の条件で判断するための記事です。

先に結論:二択ではなく、週の時間から引き算する

  • 習い事は「やめる/続ける」ではなく、残す・減らす・止めるの3分類で考える
  • 判断の軸は、①志望校との関係、②家庭の関与可能時間、③本人の意欲の継続性の3つ
  • 決める時期の目安は、小5なら冬の学年末まで、小6なら夏明けに迷いが出た今が最後の見直し時
  • やめた後の空き時間は、塾の復習ではなく「睡眠と余白」に先に配る

みんなどうしている?調査で見る習い事の整理状況

リセマムが中学受験を経験した保護者に行った調査(有効回答327名、うち中学受験をしたのは306名)では、受験にあたって習い事を「一部辞めた」が45%、「すべて辞めた」が37%、「すべて続けた」が18%でした。同調査で、塾や家庭教師以外の習い事をしていた割合は、スポーツ66.0%、音楽39.9%、英会話33.0%、書道20.3%、公文式19.9%です。

注意点として、これは一媒体が行った限られた人数の調査で、全国を代表する数字ではありません。それでも、8割強の家庭が何らかの整理をしている一方で、約2割は全部続けているという事実は、「全部やめるのが当然」ではないことを示しています。

判断の前提:なぜ小5の秋〜小6で時間が足りなくなるのか

理由は単純で、塾の拘束時間と宿題量が増えるからです。多くの塾で小5後半から小6にかけて、通塾日数が増え、授業後の宿題と復習の量も上がります。さらに小6の秋以降は過去問演習が加わります。週の時間は有限なので、新しい負荷が入れば、どこかを引くしかありません。

ここで多くの家庭が「勉強時間を削れないから習い事を削る」と考えます。しかし順番は逆です。親が動く範囲を最初に決める。送迎や付き添いに割ける時間が、習い事を残せるかどうかを実質的に決めるからです。

ステップ1:現在の習い事を「週あたりの総時間」で書き出す

習い事の「1回60分」だけを見ると、負担を過小評価します。移動、着替え、練習(ピアノなら家での練習)まで含めた時間で書き出してください。

項目書き出す内容記入例(スイミング)
拘束時間本人が動く合計時間(移動込み)週2回×1時間40分=3時間20分
家庭の負担送迎・付き添い・準備の時間週2回×往復40分=1時間20分
自宅での追加作業練習・課題・発表会準備なし
時期の制約大会・発表会・昇級試験12月に級テスト

この表を習い事ごとに作ると、「なんとなく忙しい」が数字になります。私自身、朝5時に起きて過去問の分析をする生活を続けていますが、時間は書き出して初めて削れる場所が見える、というのが実感です。

ステップ2:3つの軸で「残す・減らす・止める」に仕分ける

私が家庭相談で使う判断軸は、①志望校との関係、②家庭の関与可能時間、③本人の意欲の継続性の3つです。

軸①:志望校との関係

志望校の入試は、算数・国語・理科・社会が中心の学校が大半ですが、学校によっては作文・自己申告・実技・面接など、評価の方法が異なります。習い事の経験が出題や評価に結びつくのかは、募集要項と過去問で確認できます。偏差値表ではなく過去問との相性で見ると、習い事を残す価値がはっきりする家庭もあれば、全く関係がないと分かる家庭もあります。志望校が決まっていない段階で習い事の整理を始めると、判断の根拠が持てません。志望校選定の段階で勝負は決まっている、と私が繰り返し言うのはこのためです。

軸②:家庭の関与可能時間

送迎が必要な習い事は、親の時間も消費します。小6になると塾の送迎、お弁当、丸付けなど親の作業も増えます。親が動ける範囲を超えた習い事は、続けるほど親の余裕を削り、結果として子への声かけが荒くなります。送迎が不要な習い事は残しやすく、送迎が必須の習い事は優先度を下げて考えます。

軸③:本人の意欲の継続性

本人が「それがあるから塾も頑張れる」と言うものは、息抜きとして機能しています。逆に「惰性で行っている」「友達がいるから行くだけ」というものは、止めても本人の納得を得やすいことが多いです。本人の言葉で聞くのが基本で、親が一方的に決めると、受験の動機づけに影が落ちます。

仕分けの早見表

分類該当する習い事の特徴進め方
残す本人が最も大事にしている/送迎が不要/週1回程度で負荷が軽い/心身のリフレッシュになっている曜日・時間を固定し、塾のスケジュールと衝突しない形で維持
減らす好きだが週複数回/級テストなど目標があり急にやめにくい/送迎の負担が大きい頻度を週1回に落とす、振替制度を使う、級テスト後に区切る
止める惰性で通っている/親子とも負担が大きい/志望校の評価と無関係/模試・特訓と日程が重なる区切りの良い月末に退会。再開できるか教室に確認しておく

ステップ3:やめた後の空き時間の配り方を先に決める

よくある失敗は、習い事をやめた時間をそのまま問題集に充ててしまうことです。結果として、息抜きがなくなった上に睡眠も削れ、成績が伸びない、というパターンを何度も見ました。

配分の順番は次のとおりです。

  1. 睡眠と食事の余白:就寝時刻を先に固定する(睡眠設計は別記事で詳しく書いています)
  2. 復習の質を上げる時間:間違い直しなど、塾で出た課題の消化に充てる
  3. 家族との時間:食後の10分の会話など、気持ちの安全基地を保つ時間

「空いた時間=勉強」と短絡させない。ここを押さえるだけで、秋の失速が減ります。

ステップ4:子どもへの伝え方——"やめさせる"ではなく"選ぶ"

伝える場面では、次の3点を守ってください。

  • 先に事実を共有する:「今、週に塾が○時間、習い事が○時間ある」と、書き出した表を見せる
  • 子ども自身に選ばせる:「全部続ける」「1つだけ残す」など、選択肢を3つ並べて本人に選んでもらう
  • 期限と再開条件を決める:「受験が終わったらまた始められる」ことを明示する

以前、小6の夏にスイミングを週2回から週1回に減らして続けた子がいました。本人が「プールだけは残したい」と自分で選んだ線引きです。その子は秋以降も生活のリズムが崩れず、冬に入ってからも疲れの出方が穏やかでした。もちろん全員に通じる話ではありませんが、本人が選んだという事実が、受験期の納得感を支えます。

やってはいけない3つのパターン

  1. 志望校が決まる前に一律でやめる:判断根拠がなく、後から「あれは必要だったのでは」と親が引きずる
  2. 親の不安だけで全部止める:子の息抜きが消え、秋に意欲が急落する
  3. 兄姉や周囲との比較で決める:きょうだいでも精神的な成熟度や自走力は違うため、他の家庭の正解は自分の家庭の正解になりません

よくある質問

Q1. ピアノなど音楽系は、やめると腕が落ちませんか?

練習量が減れば一時的に落ちることはあります。ただ、受験期に頻度を落として細く続け、受験後に戻す家庭は多くあります。完全に止めるのが不安なら「減らす」を選び、月1〜2回のレッスンを維持する方法もあります。

Q2. 公文式や英会話も整理すべきですか?

志望校の入試科目に英語がない場合、英会話は優先度を下げやすい項目です。ただし、帰国生入試や英語入試を併願する場合は別です。公文式は塾の宿題と内容が重なる場合に負担が二重になります。募集要項と塾の宿題量を確認して、残すかどうかを決めてください。

Q3. 本人が「どれもやめたくない」と言い張るときは?

週の時間を書き出した表を一緒に見て、物理的に全部は入らないことを共有してください。そのうえで「1つ減らすなら何か」と問い直すと、本人が優先順位をつけられることが多いです。

Q4. 一度やめたら、再開できないのでは?

教室によって違います。退会前に、受験後の再入会の手続きや、休会制度の有無を必ず確認してください。休会制度があれば、「止める」ではなく休会を選べる場合があります。

まとめ

習い事は、受験期に自動的に切り捨てるものでも、無条件に守るものでもありません。週の時間を書き出し、志望校との関係・家庭の関与可能時間・本人の意欲の3軸で、残す・減らす・止めるに仕分けてください。空いた時間は睡眠と余白に先に配る。これが、秋以降に崩れにくい家庭の共通点です。

参考文献