9月1日。首都圏の中学入試まで、残り5ヶ月だ。
この時期に親御さんから最も多く受ける相談が「何をすればいいか全体が見えていない」というものだ。夏期講習が終わり、塾の通常授業が再開する。過去問をそろそろ解き始めようという話も出てくる。だが「何を、いつまでに、どの順番で」が整理されていないと、9月から2月の5ヶ月間は感情で動くことになる。
18年間で1,500家庭以上を見てきた経験から言えば、この時期に成果を出した家庭に共通するのは「月ごとの重点タスクが決まっていた」という点だ。月別の課題が明確だった親は、模試が返ってきても冷静に動けた。曖昧だった家庭は、偏差値が1ポイント上下するたびに方針がぶれた。
月別に整理する。
9月:過去問演習モードへの切り替えと「3分類記録」
9月は夏の学習モードから実戦演習モードへのスイッチング月だ。四大塾のカリキュラムはこの時期から過去問演習を組み込んでくる設計になっている。ただし、過去問を「解くだけ」にすると、9月はただの時間消費に終わる。
9月の重点タスクは2つ。
まず、第一志望校の過去問を「解く前に読む」。親が志望校の過去問5年分を読み、科目別・単元別の出題マップをこの段階で最終確認する。夏にやった家庭も、9月時点で子どもの得点構造と照合し直す。算数の出題形式(スピード処理型か記述型か)と国語の記述比重は、必ず確認しておく。
次に、最初の1年分は「評価の基準作り」として使う。得点率よりも「解ける問題・解けない問題・時間切れ問題」の3分類で記録するだけでいい。この記録が10月以降の優先単元を決める根拠になる。
偏差値表ではなく過去問との相性で見ると、この時点で得点率が低くても慌てる必要はない。9月の過去問は診断ツールだ。点数の良し悪しで動く局面ではない。
親がやるべきことは、子どもに過去問の時間を確保することと、結果を感情で評価しないこと。この2点だけだ。
10月:「第3回模試」の読み方と志望校リストの固定
10月は最も重要な模試返却月だ。多くの塾が10月に3回目の模試を実施する。この結果と、9月以降の過去問の得点傾向を重ねて分析することで、志望校リストの最終形が見えてくる。
模試で確認する3点
- 正答率50%以上の問題の得点率(合否を分ける基礎得点力)
- 科目別偏差値と志望校の配点比重との照合
- 夏前・夏後・10月の3回分の素点推移(実力の成長曲線)
志望校選定の段階で勝負は決まっている、という観点から言えば、模試の数字はあくまで参考値だ。重要なのは志望校の過去問得点率との差分がどこにあるかを特定すること。偏差値で一喜一憂するより、過去問の出題形式との相性分析を先に終わらせる。
志望校リストはこの月に固定する。第一志望・第二志望・安全校のリストは10月中に決める。11月以降に「やっぱり変えたい」が出てきても、対策できる時間が物理的に減っていく。10月中旬を目処に塾講師と面談し、受験校のリストを確定させる。
11月:志望校変更のデッドラインと過去問完成度チェック
11月は受験スケジュール上の「最終決断月」だ。
志望校を変更する場合のデッドラインは11月中旬になる。12月に入ってから変更しても、対策できる過去問の年数が2〜3年分に絞られてしまう。
変更を検討すべき3パターン
- 偏差値差が7ポイント以上、かつ過去問の出題形式との相性が低い
- 11月時点の過去問得点率が合格最低点の70%未満が続いている
- 子ども本人の意志が明確に折れている
変更しなくてよい3パターン
- 偏差値差が5ポイント以内で出題形式との相性が中以上
- 出題相性が高く、偏差値差が7ポイント以上でも過去問得点率が上がり続けている
- 子どもの意志が強固に継続している
18年見てきた限り、11月中旬に「まだ迷っている」家庭の多くは、出題形式との相性分析を後回しにしていた。数字1本で判断しようとするから迷う。相性分析が完了していれば、答えはほぼ自動的に決まる。
過去問の完成度チェック。第一志望は5〜10年分のうち後半の2〜3年分を温存している場合、11月に1年分追加して得点率の変化を確認する。安全校の過去問もこの月から着手する(遅くとも11月末まで)。
12月:仕上げと「親が動く範囲」の設計
12月は新しいことを仕込む月ではない。確実に取れる問題をもれなく取れる状態に仕上げる月だ。
12月の学習設計の原則
- 苦手な難問への挑戦は原則中止
- 過去問の失点を「計算ミス・立式不能・途中停止」の3分類のうち、立式不能の問題に絞って反復
- 時間配分を本番仕様に固める(科目ごとの解き順と時間感覚の体内時計化)
親が動く範囲を最初に決めておく。これがこの時期の最重要タスクだ。12月に入ると家庭の緊張感が上がり、親が無意識に管理を強化しがちになる。この月に決めておくべきは「何をやるか」ではなく「何をやらないか」だ。
- 過去問の採点に感情を乗せない
- 新しい参考書・問題集の追加は禁止
- 12月以降の志望校リスト変更は原則なし
12月の子どもの状態を整えるのは、学習量の増加ではなく生活リズムの安定だ。朝型固定(本番の試験開始時刻から逆算した起床設定)と睡眠時間の確保を最優先にする。小6の理想睡眠時間は9〜10時間。朝型に切り替えられていない家庭は12月第1週が最後のタイミングだ。
1月:「心理的安全基地」としての1月校受験
首都圏の本番入試は2月1日から始まる。しかし埼玉・千葉の学校は1月に入試を実施する。ここで1校以上の合格を確保することが、2月本番のパフォーマンスを構造的に支える。
以前指導した家庭で、「1月校は通う気がないから受けない」と決めた子がいた。2月1日の第一志望で緊張から力を出せず、その動揺が2日以降の試験に連鎖した。一方、1月に合格を持っていた子は「最悪でもここがある」という感覚を体に持って2月の試験に臨んでいた。本番での感情の安定度が明確に違う。
1月校の選び方は3軸で判断する。
- 通学圏内(片道60分以内)に候補がある
- 出題形式が本人の得意パターンと相性が高い(または第一志望に近い)
- 合格可能性が80%以上
1月校の過去問チェックは11月末までに完了させる。12月に入ってから1月校に時間を割くのは、第一志望の仕上げと競合する。11月の段階で1月校を確定し、過去問の照合を済ませておく。
受験当日の心理状態が合否に直結するなら、合格体験を事前に積んでおくことは戦略として正しい。これは慰めではなく、18年で繰り返し確認した事実だ。
FAQ
9月から過去問を始めましたが、合格最低点に大幅に届きません。どうすればよいですか?
9月の時点で合格最低点に届かないのは標準的な状態だ。11月時点で合格最低点の70%以上を安定して取れているかどうかが次の判断軸になる。9月の数字で志望校を変えないこと。まず「解ける・解けない・時間切れ」の3分類で現状を把握し、10月末までに改善傾向が出ているかを確認する。
10月の模試でD判定が続いています。志望校を下げるべきでしょうか?
数字だけで判断しない。志望校の過去問の出題形式との相性を先に確認する。相性が高ければ、偏差値差が7ポイント以上あっても11月まで据え置きが合理的なケースがある。判断は「偏差値差」「出題形式との相性」「子どもの意志の継続性」の3軸で行う。模試の判定は参考値であり、単独の決定打にはならない。
11月中旬を過ぎてしまいましたが、志望校変更は間に合いますか?
11月末であれば変更は可能だが、対策できる過去問の年数が2〜3年分に絞られる。変更する場合は新しい志望校の出題マップを即座に作成し、現在の得意パターンと相性が高いことを確認してから動く。相性の確認なしに安全圏の学校に変更すると、出題形式のミスマッチで当日に苦戦するリスクがある。
1月校は「通う気がない学校」でも受けるべきですか?
通う可能性がゼロでなければ受けることを勧める。心理的安全基地の機能が明確にあるからだ。2月本番の緊張感は、合格体験が1件あるかどうかで体感が変わる。ただし1月校も出題形式の相性を確認してから選ぶこと。相性が悪いと不合格で本番に向かうリスクになる。
12月に急に成績が落ちた場合、何をすべきですか?
12月の成績低下の多くは睡眠不足か生活リズムの乱れが原因だ。新しい教材を追加しない。塾の授業を減らして復習に充てる判断も選択肢に入れる。この時期に「やることを増やす」方向に動いた家庭で成果が出たケースは、18年でほぼ見ていない。引き算の発想に切り替える。
参考文献
- 質問回答:過去問はいつから?「6年9月」スタートの理由 — 日能研関西, 2026年
- 2026年中学入試動向(首都圏) — Z会おうち学習ナビ, 2026年
- 受験校決定までのスケジューリング — 中学受験プロ講師ブログ






