「抱っこしてないと寝ない」「授乳しながらじゃないと寝つかない」「やっと寝たと思って布団に置くと、背中スイッチが発動して振り出しに戻る」──。
保護者面談でよく出るのが、まさにこの寝かしつけの悩みです。特に生後3〜6ヶ月を過ぎたあたりから、「新生児のころは寝てくれたのに、最近は抱っこじゃないと絶対に寝ない」という相談が一気に増えます。
でも、園で見ている限り、これは「入眠の癖」と呼ばれる発達上ごく自然な現象です。赤ちゃんは「この条件がそろえば安心して眠れる」というパターンを学習しているだけ。問題なのは癖そのものではなく、その癖が保護者の睡眠や体力を削り続けている状態です。
この記事では、認可保育園で15年・0歳児クラスから5歳児クラスまで全年齢を担当してきた経験から、月齢ごとに変わる寝かしつけの特徴と、家庭で無理なく「入眠の癖」をゆるめていく3つのステップを整理します。
「入眠の癖」とは何か──抱っこ・授乳・添い寝が手放せなくなる仕組み
赤ちゃんの睡眠は大人と構造が違います。大人は入眠するとすぐに深い睡眠(ノンレム睡眠)に入りますが、赤ちゃんはまず浅い睡眠(レム睡眠)から始まるため、眠りに落ちてからしばらくはちょっとした刺激で目が覚めます。
抱っこで寝かしつけて布団に下ろすと泣く──いわゆる「背中スイッチ」は、この浅い睡眠のタイミングで環境が変わること(人肌→布団の温度差、揺れ→静止の変化)に赤ちゃんが反応しているだけです。
そして赤ちゃんは、夜間に何度か浅い睡眠と深い睡眠を行き来します。浅い睡眠に戻ったとき、入眠時と同じ条件(抱っこ、授乳、おしゃぶりなど)がないと「あれ、さっきと違う」と不安になり、泣いて起きる。これが「入眠の癖」が夜間覚醒を増やすメカニズムです。
ただし、これは赤ちゃんの安全確認行動であり、愛着形成がしっかり進んでいる証拠でもあります。「甘やかしすぎたから癖になった」のではありません。
0歳児クラス12人の寝かしつけ方法の分散──「抱っこ寝」は多数派
私が担当した0歳児クラス12人の入園時の寝かしつけ方法を整理すると、こうなります。
- 抱っこ+ゆらゆらで入眠:5人
- 授乳しながら入眠:4人
- 添い寝+トントンで入眠:2人
- 布団に置くだけで入眠:1人
つまり、12人中11人が何らかの「入眠の癖」を持った状態で入園してきます。布団に置くだけで寝る子は12人に1人。保護者面談でよく出るのが「うちの子だけ抱っこじゃないと寝ない」という不安ですが、実際はクラスの大多数が同じ状態です。
そして園生活が始まると、1〜2ヶ月でほとんどの子が「トントン」や「背中をさする」だけで眠れるようになっていきます。家庭と園で入眠条件が違っても、赤ちゃんは「ここではこう寝る」と場所ごとにパターンを学習できるのです。
月齢別に見る寝かしつけの変化──焦る必要がない理由
生後0〜3ヶ月:「何でも寝る」から「こだわりが出る」への移行期
新生児期はまだ昼夜の区別がなく、授乳のたびに眠ります。この時期の赤ちゃんは疲れれば場所を問わず寝ることが多く、「寝かしつけに困っている」という相談はあまりありません。
ただし、生後2〜3ヶ月ごろから「こうじゃないと寝ない」というこだわりが芽生え始めます。これは視覚や聴覚が発達し、周囲の環境を認識できるようになった証拠です。
生後4〜6ヶ月:入眠の癖が定着しやすい時期
生後4ヶ月ごろに訪れる「睡眠退行」を境に、寝かしつけが急に難しくなるケースが多発します。睡眠の構造が新生児型から大人型に近づく過渡期で、浅い睡眠が増えるためです。
この時期に「泣くから抱っこ→寝たら置く→泣く→また抱っこ」のサイクルが固定化しやすい。ここで入眠の癖が強まること自体は自然なことですが、保護者の体力が限界を迎えるのもこの時期です。
生後7〜12ヶ月:入眠パターンを広げやすい時期
後追いや分離不安が強まる一方で、生活リズムが安定し、朝寝・昼寝・夜の睡眠の3回リズムが整ってくる時期でもあります。リズムが安定すると「眠くなるタイミング」が予測しやすくなり、寝かしつけの方法を少しずつ変えるチャンスが生まれます。
園では、この月齢になると「抱っこ寝だった子がトントンで寝られるようになった」という変化が出てきます。
家庭で無理なく進める3つのステップ
園の午睡で私たちが実践しているのは、「いきなりゼロにしない」という原則です。「ネントレ」と聞くと「泣かせて放置する」イメージがあるかもしれませんが、園では一度もそのような方法は使いません。段階的に入眠の条件をゆるめていくだけです。
ステップ1:寝かしつけの「最後の10分」だけ変える
抱っこゆらゆらで完全に寝かせていた場合、「8割ウトウトしたところで布団に置き、トントンに切り替える」ことから始めます。完全に寝落ちしてから置くのではなく、「もう少しで寝そう」という状態で環境を移す。
最初は泣くこともありますが、そのときはもう一度抱っこして落ち着かせてから再チャレンジして構いません。「トントンで寝落ちした」経験が1回でもできると、赤ちゃんは「この方法でも寝られるんだ」と学習していきます。
ステップ2:「入眠の儀式」を声と手の感触に移す
抱っこ→トントンへの移行がうまくいったら、次はトントンの強さを徐々に弱め、声かけ(子守唄やシーッという音)の比重を上げていく段階です。
園では「ねんねだよ」「気持ちいいね」と同じフレーズを繰り返しながら背中をさすります。ポイントは毎日同じ言葉・同じ順番で行うこと。一貫したルーティンが赤ちゃんの見通しと安心につながります。
私自身、息子が0歳のときは抱っこ寝が定着していて、毎晩40分の寝かしつけマラソンでした。「保育士なのに自分の子は寝かせられない」と落ち込んだこともあります。でも園と同じように「8割ウトウトで布団→トントン→同じ歌」を根気よく続けたら、2週間ほどでトントンだけで寝つくようになりました。
ステップ3:「そばにいるけど触らない」時間を作る
最終的には、布団に横になった状態で、親がそばにいるだけで安心して眠れる状態を目指します。ただし、これは「できたらラッキー」くらいの気持ちで。
園でも、年齢が上がっても保育士がそばにいないと眠れない子はいます。「完全に一人で寝られること」がゴールではなく、「保護者が無理なく寝かしつけられる状態」がゴールです。添い寝で親子ともにぐっすり眠れているなら、それは立派な成功です。
背中スイッチ対策──園で実践している3つの工夫
保護者面談でよく出るのが「背中スイッチ」への具体的な対策です。園で15年やってきた中で、効果が安定している工夫を3つ共有します。
- 「深い睡眠」に入ってから下ろす:抱っこで寝てから15〜20分待ち、手足がだらんと脱力してから布団に移す。急いで下ろすと浅い睡眠で起きます
- おくるみ・スリーパーで温度差を減らす:人肌と布団の温度差が背中スイッチの大きな原因。おくるみやスリーパーを着せた状態で抱っこし、そのまま布団に下ろすと温度変化が小さくなります
- お尻→背中→頭の順で着地させる:頭から下ろすとモロー反射が出やすい。お尻を先に着け、ゆっくり背中、最後に頭を下ろし、しばらく手を胸に添えておくと成功率が上がります
ただし、背中スイッチ対策はあくまで「布団に下ろすテクニック」であり、根本的な解決はステップ1〜3の「入眠条件をゆるめていくプロセス」にあります。
厚生労働省「睡眠ガイド2023」が示す乳児の推奨睡眠時間
寝かしつけに悩むとき、「そもそもどれくらい寝ればいいのか」の目安を知っておくと判断が楽になります。厚生労働省の「健康づくりのための睡眠ガイド2023」では、1〜2歳児は11〜14時間、3〜5歳児は10〜13時間(いずれも昼寝含む)が推奨されています。4ヶ月〜1歳未満は12〜16時間が目安です。
ただし他の子と比べると見落としますが、これはあくまで目安であり、日中の機嫌が良く、体重が順調に増えていれば、多少のずれは心配ありません。
よくある質問(FAQ)
Q1. ネントレは生後何ヶ月から始められますか?
一般的に、本格的なねんねトレーニングは生後6ヶ月以降が推奨されています。ただし、生活リズムを意識する・寝室の環境を整えるといった準備は新生児期からできます。園では「トレーニング」という意識よりも、「少しずつ入眠の条件を広げていく」感覚で取り組んでいます。
Q2. 抱っこ寝を続けると自立が遅れますか?
遅れません。園で見ている限り、0歳で抱っこ寝だった子も、1歳後半〜2歳にかけて自然とトントンや添い寝で眠れるようになるケースがほとんどです。「今、抱っこでしか寝ない」ことが将来に悪影響を与えることはありません。
Q3. 添い乳で寝かしつけるのはやめたほうがいいですか?
添い乳自体が悪いわけではありません。ただし、夜間の覚醒時に毎回授乳が必要になり、保護者の睡眠が大きく削られている場合は、段階的に授乳と入眠を切り離していく(授乳後にトントンで寝かせる)方法を試す価値があります。
Q4. 園では寝るのに家では寝ないのはなぜですか?
赤ちゃんは場所ごとに入眠のパターンを使い分けます。「園ではトントンで寝るのに家では抱っこ」は珍しくありません。園のパターンを家庭に持ち込む必要はなく、家庭には家庭のペースで進めてください。園と家庭で違う方法でも、赤ちゃんは混乱しません。
Q5. パートナーの寝かしつけだと泣いて寝ないのですが?
赤ちゃんは「この人=この寝かしつけ方法」と紐づけて記憶しています。普段抱っこで寝かしつけている人以外が担当すると、「いつもと違う」と泣くのは自然な反応です。新しい担当者には最初の1週間は泣いても続けてもらうことで、赤ちゃんは「この人でも安心して眠れる」と学習していきます。
まとめ
入眠の癖は、赤ちゃんが安心して眠るために自分で見つけた方法です。それ自体を「直すべき問題」と捉える必要はありません。
ただし、保護者の体力や睡眠が限界に達しているなら、「最後の10分だけ変える」ところから始めてみてください。園では、急にやり方を変えるのではなく、今の方法を少しだけゆるめていくことで、ほとんどの子が1〜2ヶ月で入眠の幅を広げています。
10回のうち3回でもトントンで寝てくれたら、それは大きな前進です。完璧を目指さず、親子ともに「まあまあ眠れている」状態を目指していきましょう。
参考文献
- 厚生労働省「健康づくりのための睡眠ガイド2023」
- 日本小児科学会「乳児の安全な睡眠環境の確保について」(2024年改訂)
- Mindell JA, et al. "Behavioral treatment of bedtime problems and night wakings in infants and young children." Sleep. 2006;29(10):1263-1276.






