「もう何日もまともに寝ていない」「抱っこしても泣き止まなくて、自分まで泣きたくなる」──保護者面談でよく出るのが、この夜泣きの悩みです。

15年間、0歳児クラスから5歳児クラスまで担当してきた保育士として断言できるのは、夜泣きは親の育て方のせいではないということ。夜泣きには月齢ごとに訪れる「波」があり、脳や体の発達と深く結びついた自然な現象です。

この記事では、園での午睡観察や保護者面談200件の経験から見えてきた夜泣きの月齢別パターンと、親御さん自身の睡眠を守るための具体的な工夫をお伝えします。

そもそも「夜泣き」とは何か──夜間覚醒との違い

まず整理しておきたいのは、赤ちゃんが夜中に起きること自体は異常ではないという点です。

  • 夜間覚醒:おむつ交換や授乳で落ち着く、原因がはっきりした目覚め
  • 夜泣き:空腹・おむつ・体調不良など明確な理由がないのに泣き続け、あやしてもなかなか泣き止まない状態

園で見ている限り、午睡中に一度も起きない子のほうがむしろ少数派です。多くの赤ちゃんは夜間に何度か浅い覚醒を繰り返しており、そのほとんどは自力で再入眠しています。「起きること」ではなく「起きたあと泣き続けて再入眠できない」のが夜泣きの本質です。

保育士15年が見てきた夜泣きの「4つの波」

保護者面談で夜泣きの相談を受けるたびに記録を取り続けてきた結果、夜泣きが集中しやすい時期には4つの波があることが見えてきました。

第1の波:生後4ヶ月前後──「睡眠サイクルの組み替え期」

新生児期の赤ちゃんは浅い眠り(レム睡眠)の割合が約50%と高く、ほぼ均一な睡眠リズムで過ごしています。ところが生後4ヶ月前後になると、大人に近い「浅い→深い→浅い」のサイクルが形成され始めます。

この睡眠構造の大きな切り替わりが、いわゆる「4ヶ月の壁」です。それまでよく寝ていた子が急に何度も起きるようになり、「何か悪いことをしたのでは」と不安になる保護者の方が非常に多い時期です。

第2の波:生後8〜10ヶ月──「分離不安と運動発達の爆発期」

この時期は人見知りや後追いが本格化し、「ママ(パパ)がいない」という不安を初めて強く感じるようになります。同時に、はいはいやつかまり立ちなど運動面の発達が急速に進み、日中に受ける刺激量が一気に増えます。

脳が処理しきれないほどの情報を夜間に整理しようとするため、覚醒回数が増えるのです。入園直後のお子さんの夜泣きが増えるのも、この「新しい環境からの刺激過多」と同じメカニズムです。

以前、入園3週目の1歳児が毎日お迎え時に号泣するケースがありました。当初は環境不適応を疑いましたが、日中の様子を確認すると楽しそうに遊んでおり、実際は「安心できる場所だとわかったからこそ感情を解放していた」のです。夜泣きも同様に、安心できる環境で日中の刺激を処理している側面があります。

第3の波:1歳前後──「歩行開始と生活リズムの転換期」

歩き始めの時期は、赤ちゃんにとって世界が一変するタイミングです。行動範囲が広がり、自分で探索できるようになる喜びと同時に、転倒や思い通りにいかない経験も急増します。

また、午睡が2回から1回に移行する時期と重なることが多く、生活リズム全体が不安定になりやすいのもこの頃です。

第4の波:1歳半〜2歳──「言葉にできないフラストレーション期」

自我の芽生えが始まり、「こうしたい」という気持ちが膨らむ一方で、それを言葉で伝える力がまだ追いつかない時期です。日中のフラストレーションが夜間に表出し、泣き方も激しくなることがあります。

この時期の夜泣きは、イヤイヤ期の入り口と重なるため、保護者の疲労がピークに達しやすいのが特徴です。

「うちの子だけひどい」は本当?──園で見た夜泣きの分散

0歳児クラス12人を1年間観察した記録では、夜泣きの頻度は以下のように分散していました。

  • ほぼ毎晩1回以上:3人(25%)
  • 週に2〜3回:5人(42%)
  • 月に数回程度:3人(25%)
  • ほとんどなし:1人(8%)

つまり、クラスの約7割が週に複数回は夜泣きを経験している計算です。SNSでは「生後6ヶ月で夜通し寝る」といった投稿が目立ちますが、それはあくまで一部のケース。他の子と比べると見落としますが、お子さん一人ひとりの睡眠パターンには大きな個人差があり、それぞれが正常の範囲内です。

親の睡眠を守る「3つの環境づくり」

夜泣きそのものをゼロにすることは難しくても、親御さんの睡眠の質を少しでも守ることはできます。保護者面談で繰り返しお伝えしてきた3つの工夫をご紹介します。

ステップ1:寝室の「光・音・温度」を整える

赤ちゃんの睡眠環境として、こども家庭庁の「未就学児の睡眠指針」でも生活リズムの確立が推奨されています。具体的には以下を意識してみてください。

  • :就寝1時間前からリビングの照明を暖色系に落とす。スマホやテレビの強い光はメラトニン分泌を抑制します
  • :無音より、換気扇やホワイトノイズなど一定の背景音があるほうが再入眠しやすい子が多い印象です
  • 温度:室温20〜22℃、湿度50〜60%が目安。赤ちゃんは体温調節が未熟なため、着せすぎに注意してください

ステップ2:就寝前の「ルーティン」を固定する

園でも午睡前には必ず同じ流れ(絵本→お布団→トントン)を繰り返します。家庭でもお風呂→着替え→絵本→消灯など、毎晩同じ順番を15〜20分で行うことが効果的です。

私自身、息子が4歳前後の頃に毎朝玄関で「行ってきますのぎゅー」を5秒間ルーティン化していました。たった5秒のスキンシップでも日課にすると、子どもの安心感が目に見えて変わります。就寝前のルーティンも同じ原理で、「次に何が起きるかわかる」安心感が入眠を助けます。

ステップ3:夜間対応を「交代制」にする仕組みをつくる

「夜泣き対応は母親がやるもの」という思い込みが、特定の保護者だけを追い詰めてしまうケースを何度も見てきました。以下のような分担の工夫が有効です。

  • 曜日交代制:月水金はパートナーA、火木土はパートナーBが担当
  • 時間帯分割:0時まではA、0時以降はBが対応
  • 週末キャッチアップ:平日にワンオペ対応している場合、週末は担当を交代して連続3時間以上の睡眠を確保

ひとり親家庭や単身赴任中の場合は、自治体のファミリーサポートや一時預かりを「親の睡眠確保」の目的で活用することも選択肢です。園の保護者面談でもこの情報をお伝えすると、「使っていいんですね」と驚かれる方が少なくありません。

こんなときは小児科へ──受診の目安3つ

夜泣きの多くは発達に伴う一過性のものですが、以下に該当する場合は小児科への相談をおすすめします。

  1. 生後6ヶ月以降、毎晩1時間以上泣き続ける状態が2週間以上続く
  2. 日中の機嫌も悪く、哺乳量や体重の伸びが鈍化している
  3. いびきや呼吸の乱れなど、睡眠時の呼吸に異常が見られる

よくある質問(FAQ)

Q1. 夜泣きを放置(泣かせっぱなし)にしても大丈夫ですか?

A. 数分様子を見ること自体は問題ありません。赤ちゃんは浅い覚醒時に少し声を出してから自力で再入眠することも多いため、泣き声が聞こえたら2〜3分待ってから対応するのも一つの方法です。ただし、長時間の放置は推奨しません。お子さんの泣き方や月齢に合わせて判断してください。

Q2. 添い乳をやめれば夜泣きは減りますか?

A. 添い乳が入眠の唯一の手段になっている場合、夜間覚醒時に「おっぱいがないと再入眠できない」パターンが定着していることがあります。ただし添い乳をやめたからといって全員の夜泣きが減るわけではありません。お子さんとご家庭のペースで、代替の入眠方法(トントン、背中スイッチ)を徐々に取り入れるのがおすすめです。

Q3. 保育園に通い始めてから夜泣きが増えました。園が合っていないのでしょうか?

A. 入園直後の夜泣き増加は非常によくあるケースです。新しい環境からの刺激が多く、脳が夜間にその情報を処理しようとするために覚醒が増えます。多くの場合、入園後1〜2ヶ月で落ち着きます。日中の園での様子を担任に確認し、楽しく過ごせているようであれば心配は不要です。

Q4. 1歳を過ぎても夜泣きが続くのは発達に問題がありますか?

A. 夜泣きが1歳以降も続くこと自体は珍しくありません。特に1歳半前後は自我の芽生えや午睡回数の変化が重なり、一時的に夜泣きが再燃する子も多くいます。日中の発達(運動・言葉・社会性)が年齢相応に進んでいれば、夜泣きだけで発達の問題を疑う必要はありません。

Q5. パパが抱っこすると余計に泣くのですが、対応を変えたほうがいいですか?

A. 夜間の覚醒時に「いつもと違う人」が対応すると、かえって覚醒度が上がることがあります。最初は泣きが強くなっても、パパの対応を3〜5日続けると慣れてくるケースがほとんどです。抱っこの仕方や声のトーンを統一する(ママのやり方を共有する)と移行がスムーズになります。

参考文献

  • こども家庭庁「未就学児の睡眠指針」(sukoyaka21.cfa.go.jp
  • こども家庭庁「赤ちゃんが安全に眠れるように」SIDS予防啓発資料(cfa.go.jp
  • 厚生労働省「健康づくりのための睡眠ガイド2023」(日本小児保健協会
  • 荻窪小児科「赤ちゃんの夜泣きはいつまで?原因・対処法・寝かしつけのコツを小児科医が解説」(ogikubo-shonika.com