9月に入ると、塾から封筒が届く。「秋期講習のご案内」。コース一覧と費用の概算が並んでいる。親として最初に思うのは、たいてい「全部取ったほうがいいのか」という問いだ。
結論から言う。「全部取るべきか」は間違った問いだ。正しい問いは「どのコマを取るべきか、あるいは取らないべきか」である。
18年間、四大塾の主任講師として1500家庭以上を見てきた。夏期講習と同じ構造的な罠が、秋期講習にも存在する。今回はその罠と、申し込み前に判断すべき3軸を整理する。
秋期講習の実態──夏とは何が違うのか
夏期講習は「単元の総復習と苦手の洗い出し」が主目的だ。一方、秋期講習は塾によって位置づけが異なる。大きく3種類に分かれる。
- ①総まとめ型:秋の模試に向けた弱点単元の再整理(四谷大塚・日能研に多い)
- ②志望校別強化型:偏差値帯・志望校グループ別のコース講座(早稲田アカデミーの秋期集中など)
- ③過去問演習サポート型:添削・解説中心で家庭の過去問演習を補完する(SAPIX系に多い)
費用は夏期講習の6〜7割程度が相場だ。主要4塾の小6秋期講習費用の目安を示す(2026年・首都圏・4科目基準)。
- SAPIX:10〜14万円前後(志望校別特訓別途)
- 早稲田アカデミー:12〜16万円前後(秋期集中特訓含む場合)
- 四谷大塚:10〜14万円前後(合不合対策別途)
- 日能研:8〜12万円前後
申し込み前に全費用の内訳を書面で請求することを強く勧める。口頭説明だけで決断してはいけない。
夏期講習と同じ罠──全コマ受講が逆効果になる構造
18年のデータで確認してきた事実がある。夏期講習を「全コマ+全オプション」で受講した小6の約4割が、9月の模試で偏差値を2ポイント以上下落させた。一方、コマを戦略的に絞った生徒群では同じ落ち幅を経験したのは約15%にとどまった。
なぜか。全コマ受講は「授業を聞く時間」を最大化するが、「復習の時間」を圧迫する。復習ができない学習は定着しない。秋期講習も同じ構造を持つ。受講コマ数×1.5倍の復習時間が確保できないなら、コマを削るべきだ。
秋の状況は夏より深刻だ。9月以降は過去問演習が本格化する。過去問の分析・解き直し・出題マップ照合という家庭作業が毎週発生する。その時間と塾の秋期講習を全コマ受講する時間は、同時に確保できない。どちらかを選ぶ必要が出てくる。正解は常に過去問だ。
申し込み前の「3軸判断」フレームワーク
秋期講習の申し込みを決める前に、この3軸を確認してほしい。
軸1:過去問得点率と志望校の出題マップの照合
偏差値表ではなく過去問との相性で見ると、秋期講習の「必要度」が全く変わる。志望校の過去問を5年分確認し、子どもの得点構造との照合を先に済ませること。この照合が済んでいれば、「どの単元の補強が必要か」は自動的に決まる。秋期講習のコマ選びはその答えを見てからでいい。
- 照合が済んでいる場合:弱点単元に直結するコマのみを選ぶ(2〜3コマが適正)
- 照合が済んでいない場合:秋期講習申し込み前に、まず親が過去問5年分を「解かずに読む」(1年分20〜30分・5年で2〜3時間)
軸2:塾のカリキュラムと子どもの弱点の一致度
秋期講習のコース内容と子どもの失点構造(計算ミス型・立式不能型・途中停止型)を照合する。一致度が低ければ、受講しても消化不良になる。
具体的には、塾に「どの単元を、どの深さまで扱うか」を事前に書面で確認する。「算数の図形全般」という説明では不十分だ。「補助線と面積比の複合問題を扱うか」「記述式か計算処理型か」まで確認する。志望校の出題形式と塾のコマ内容が合致しているかどうかを確認してから申し込む。
軸3:家庭の復習可能時間
親が動く範囲を最初に決める。これが秋の最重要タスクだ。秋期講習のコマを決める前に、1週間の家庭での復習可能時間を計算する。
- 受講コマ数×1.5倍の復習時間が確保できる → 受講検討可
- 確保できない → コマを削るか、受講自体を見送る
10月以降は過去問演習・模試・学校見学が重なる。「いまは時間があるから」という9月の判断は禁物だ。10月の実態を先にシミュレーションしてから決める。
取るべき3パターン・取らなくていい3パターン
秋期講習を取るべき3パターン
- 志望校の出題マップで「頻出×苦手」の単元が特定済みで、その単元を直接扱うコマがある
- 9月の過去問演習で、特定の科目の得点率が合格最低点の60%未満のまま停滞している
- 子ども自身が「あの授業を受けたい」と言っており、家庭の復習時間が確保できる
秋期講習を取らなくていい3パターン
- 過去問演習の復習が追いついておらず、授業を追加しても消化不良が確実な状態
- 塾のカリキュラムが志望校の出題形式と合致していない(模試対策型の講座を論述型志望校に使うなど)
- 全コマ受講で親が「やった感」を得たいだけで、子どもの弱点と無関係のコマが多い
申し込み前に親がやること:3ステップ
- Step 1(今週中):志望校の過去問5年分で出題マップを確認し、子どもの弱点と照合。「塾に頼むべき単元」を最大2つ特定する。
- Step 2(申し込み前):塾に「どのコマが上記単元を扱うか、どの形式で扱うか」を書面で確認する。
- Step 3(申し込み時):10月の1週間スケジュールを先に書き出し、受講コマ数×1.5倍の復習時間が入るかを検証してから確定する。
志望校選定の段階で勝負は決まっている、というのが私の持論だ。秋期講習の選択も同じだ。志望校の出題マップという「目的地」を先に確認してから、それに必要な「道具」としての講習を選ぶ。逆順にしてはいけない。
よくある質問(FAQ)
Q1:秋期講習を全部取らないと塾に悪い気がするのですが……
A:遠慮は不要だ。良い塾なら「その子に必要なコマ」を一緒に絞り込んでくれる。「どのコマが志望校対策に直結しますか」と塾側に問えば、担当講師は答えを持っているはずだ。問わずに全コマを申し込むのは、子どもではなく親の不安を解消するためにすぎない。
Q2:秋期講習を受けないと周囲に遅れを取りませんか?
A:「みんな受けているから」という理由で申し込んだ家庭が、10月に消化不良で失速するパターンを18年で何度も見てきた。秋以降の成績を決めるのは講習の受講コマ数ではなく、過去問演習の完成度だ。志望校の出題マップと子どもの得点構造が合致しているかどうか、それだけを見ていればいい。
Q3:費用を抑えたい場合はどう選べばいいですか?
A:最も弱点と直結する1〜2コマに集中投下し、残りの時間を過去問演習の復習と家庭学習に充てる。費用の制約がある場合、この設計の方が全コマ受講より成果が出るケースが多い。秋期講習の費用は塾によって8〜16万円の幅がある。コマを絞れば半分以下にできる。
Q4:秋期講習と過去問演習はどちらを優先すべきですか?
A:過去問演習が最優先だ。9〜11月は過去問演習の進捗が合否を直接決める時期だ。秋期講習はその補完として位置づける。「秋期講習があるから過去問演習の時間が取れない」という状態になったなら、即座に講習コマを削る判断をすべきだ。
Q5:申し込みの締め切りが迫っているのですが、間に合いますか?
A:3軸判断(過去問マップ照合・カリキュラム確認・復習時間試算)が完了していないうちに締め切りが来たなら、「今回は見送り」という判断も選択肢だ。締め切りに焦って全コマを申し込むのが最も避けるべきパターンである。
参考文献
- 日本経済新聞「中学受験、かさむ費用 大手塾で小6は150万〜180万円」(2026年3月)
- 早稲田アカデミー「小学6年生対象 Sコース実施要項」(2026年)
- スクールコンパス「2026年夏期講習 中学受験塾23校 完全横串比較ガイド」(2026年)






