「第一志望は決まったけれど、併願校が組めない」。10月下旬、小6の保護者から最も多く届く相談です。偏差値表の下のほうから学校を拾って日程表を埋めたものの、本当にこれで大丈夫なのか自信が持てない、という状態だと思います。

私は四大進学塾で18年、1500家庭以上の受験を見てきました。結論から言うと、併願校は「偏差値の並べ替え」では決まりません。志望校選定の段階で勝負は決まっている、という考えは併願校にもそのまま当てはまります。この記事では、過去問との相性・入学金の納付期限・通学負担の3軸で併願を設計する手順を整理します。

併願校選びで起きやすい失敗3つ

相談を受けるたびに、失敗は次の3つに集約されます。

  1. 偏差値だけで安全校を決める:模試の偏差値が10下の学校なら受かるはず、と考える。ただし学校ごとに出題形式が違うため、偏差値の差がそのまま合格可能性の差にはなりません。
  2. 日程の穴埋めで受験校を増やす:2月1日から3日まで空欄を作りたくないという理由で、一度も過去問を見ていない学校を入れてしまう。
  3. 入学金の払い込み順を見ていない:合否発表と納付期限の順番を見ないまま組み、第一志望の結果が出る前に、行く可能性の低い学校へ入学金を払うことになる。

3つとも原因は同じで、併願校を「保険」としか見ていないことです。実際には、併願校は「進学先になりうる学校」でもあります。通う可能性がある学校として選ぶ視点が必要です。

軸1:過去問との相性で見る

偏差値表ではなく過去問との相性で見ると、同じ偏差値帯でも学校の難しさはかなり違います。たとえば算数が不得意なお子さんには、計算の正確さを問う学校より、思考の筋道を見る学校のほうが合うことがあります。逆の組み合わせもあります。

相性の測り方:過去問3年分でチェックする

まだ解き始めていなくても、次の3点は過去問を「読む」だけで確認できます。

  • 科目の配点比率(得意科目の比重が高いか)
  • 出題形式(記述・論述、計算量、制限時間の厳しさ)
  • 合格最低点と、子どもの現在の得点力の距離

私が以前担当した家庭では、偏差値60まで届いた子の親御さんが「偏差値65の難関校が安全圏」と考えていました。ところが本人の得意は理科の論述で、算数のスピードが弱点でした。論述比重の高い偏差値50の学校に切り替えて第一志望で合格し、入学後も上位を維持しています。偏差値は届く目安であり、相性は伸びる原動力です。

安全校にも「解ける感触」が要る

安全校の過去問で合格最低点に余裕を持って届かないなら、その学校は安全校ではありません。目安は、過去問の得点が合格最低点を安定して上回ることです。この判断は、模試の偏差値ではなく過去問の得点で行ってください。

軸2:入学金・納付期限で日程の「出口」を見る

首都圏では、東京都・神奈川県の私立中学の一般入試は2月1日が解禁日とされています(東京都・神奈川県の中学入試ガイダンスに記載)。日程自体は各校の2027年度の募集要項で確認が必要ですが、ここで大事なのは試験日そのものより合格発表日と入学手続き締切日の関係です。

入学金は原則戻らない

2006年11月27日の最高裁判決は、大学の学納金について、入学金は入学しうる地位の対価であり返還を求められないとし、授業料等は入学日前に辞退した場合は原則返還義務があるとしました。文部科学省もこれを各大学に周知しています。これは大学に関する判決ですが、中学入試でも「入学金は戻らない前提で考える」という運用が一般的です。ただし中学校ごとに納付金の扱いや、延納・返還の制度が異なります。必ず各校の募集要項で確認してください。

確認する3つの日付

確認する項目見る場所判断のポイント
合格発表日・時刻募集要項第一志望の発表より前か後か
手続き締切日募集要項第一志望の結果を待てるか
延納・辞退時の扱い募集要項・説明会入学金と施設費などの納付区分

締切が第一志望の発表より前に来る学校は、入学金を先に払う可能性を織り込む必要があります。その額を「受験費用」として家計に組み込んでおけば、当日に慌てずにすみます。

軸3:通学負担を「6年間の毎日」で見る

併願校の通学時間は、見落とされがちです。合格した場合に通う学校なら、片道の所要時間は6年間続きます。見るべきは次の点です。

  • ラッシュ時の乗り換え回数と、朝の混雑具合
  • 入試当日の移動(会場までの経路、集合時間)
  • 部活や補習で帰宅が遅くなる日の帰り道

入試当日についても、2日連続で遠方の会場に通うと、体力の消耗が3日目に出ることがあります。受験日ごとに無理のない動線かを確認します。

併願パターンの組み方:3ステップ

ステップ1:第一志望を決める(10月上旬まで)

併願は第一志望から逆算します。第一志望の試験日と、合格発表の日時を最初に書き出してください。

ステップ2:候補校を3軸で採点する(10月中)

候補を5〜8校まで挙げ、「過去問相性」「手続き日程」「通学」の3つを○△×でつけます。×が1つでもあれば、原則として外します。ここで親が動く範囲を最初に決めておくと迷いません。親は日程と通学の確認、子は過去問の感触を担当する、という分担です。

ステップ3:パターンを3通り作る(11月上旬まで)

  • 挑戦型:第一志望の前後に、相性のよい挑戦校を置く
  • 堅実型:早い日程で、合格を得られる学校を押さえる
  • バランス型:その中間

どのパターンにも、「合格すれば進学したい」と家族が納得できる学校だけを入れます。子どもが本番で落ち着いて臨めるかどうかは、1校目の結果に大きく左右されます。早めの日程に、解ける感触のある学校を置く設計が有効です。

併願校の最終的な絞り込みは、過去問の演習が進む11月中旬までに終えるのが現実的です。12月に入ってからの大幅な組み替えは、勉強の計画も崩すので避けたいところです。

親が気をつけたいこと

併願の相談で感情的になりやすいのは、「落ちたらどうしよう」という不安から受験校を増やしてしまう場面です。校数を増やすほど、1校あたりの過去問演習の時間は減ります。第一志望の得点力を上げる時間を削ってまで安全校を増やすのは、逆効果になりやすいと私は見ています。

よくある質問

Q1. 併願校は何校くらいが適切ですか?

決まった数字はありません。受験日の体力、過去問演習に使える時間、入学金などの費用を踏まえ、家庭ごとに決めます。校数より、一校ずつ過去問で相性を確認できていることを優先してください。

Q2. 偏差値が低い学校は安全校になりますか?

なりません。出題形式との相性が悪ければ、偏差値が低くても得点が伸びないことがあります。過去問の得点が合格最低点を安定して上回るかで判断してください。

Q3. 入学金は返ってきますか?

2006年の最高裁判決では、大学の入学金は返還不要と整理されています。中学校については各校の募集要項で扱いが異なるため、出願前に必ず確認してください。

Q4. 1月入試は受けたほうがいいですか?

練習のために受ける家庭もありますが、本命校の演習時間を削るなら必須ではありません。1月校の考え方は別記事で整理しています。

参考文献