夏休みが終わりに差し掛かるこの時期、「スマホを取り上げるべきか」「ゲームの時間を制限すべきか」という相談が毎年増えます。令和8年度全国学力・学習状況調査(2026年8月3日、国立教育政策研究所公表)の質問調査によると、中学3年生の49%が平日に1日3時間以上SNS・動画を視聴していることが明らかになりました。2024年度調査では32%だったことを考えると、わずか2年で17ポイントも上昇したことになります。

この数字を見て「やはりスマホを禁止しなければ」という反応は自然です。しかし、文科省の発表を読み解くと、問題の構造はもう一段深いところにあります。「スクリーンタイムと学力の相関」は確かに存在しますが、「スマホが成績を下げる」という一方向の因果関係ではなく、その背景にある「学びの自己調整力」の問題として分析する必要があります。今回は、令和8年度調査が新たに設けた分析軸と、学習指導要領の評価構造から、家庭でできる具体策を整理します。

数値が示す相関の実態——禁止では解決しない理由

令和8年度の調査では、中学3年生の数学を例にとると次のような結果が示されています。

SNS・動画視聴時間(平日) 数学の平均正答率
4時間以上 48.7%
30分未満 69.6%

差は20.9ポイント。これが「スクリーンタイムが長いと成績が低い」という相関の実態です。同時に、家庭学習時間も変化しています。「1時間以上勉強する中学3年生」の割合は62%で、5年前と比べて14ポイント減少しています。

ただし、文部科学省の担当者自身が「直接的な因果関係は不明」と述べていることは重要です。「スマホを見ているから勉強できない」のか、「もともと自律的に学習する習慣がないから、空き時間にスマホへ向かってしまう」のか——この問いに調査データだけで答えることはできません。

英語民間試験導入の報道が「賛成か反対か」の煽り合戦になっていたあの時期を思い出します。原典を読むと、論点は教育格差・採点の公平性・移行期間と、はるかに多層的でした。今回のスクリーンタイム問題も構造は同じです。「スマホが悪い」「禁止すれば解決する」という二項対立は、対策の核心から目を逸らさせます。

令和8年度調査が新設した「学びの主体的な調整」という分析軸

今年度の全国学力調査で特筆すべきは、「学びの主体的な調整」という視点が新たな分析軸として導入されたことです。新規設問「学習の計画の立て方や学び方が分かる」に肯定的に答えた割合は、小学6年生が78.9%であるのに対して、中学3年生では59.6%にとどまっています。中3の約4割は「自分がどう学べばよいかわからない」状態にある、ということです。

「学習の振り返りをしている」かどうかについても、小学6年生67.9%・中学3年生64.6%。そして最も注目すべき分析結果として、「これらの自己調整に関する問いに肯定的に答えていた児童生徒ほど、各教科の平均正答率・IRTスコアが高い傾向にあった」と報告されています。

つまり構造は次のように読めます。スクリーンタイムが長い生徒の多くは、そもそも「学習の計画を立て、振り返り、修正する」という自己調整サイクルが育まれていないため、空き時間が動画に流れていく——スマホは「原因」ではなく「結果の一部」として現れているのです。

「困難なことでも努力して取り組む」という意欲自体は、中学3年生の71.4%が肯定的に答えています。意欲はある。しかし実際の家庭学習時間は減っている。この乖離を埋めるのが、「何をどう学ぶかを自分で設計する力」です。

学習指導要領の本文には:評価構造を知ることが対策の出発点

学習指導要領の本文には、学力の評価3観点が明記されています。「知識・技能」「思考・判断・表現」、そして「主体的に学習に取り組む態度」です。第3の観点は評価の2つの軸から成ります。

  1. 粘り強い取組:諦めずに課題に向き合い続けること
  2. 自己の学習の調整:自分の学習状況を把握・認識しながら修正していく力

この「自己の学習の調整」こそが、令和8年度調査が「学びの主体的な調整」として測定しようとしたものです。学習計画を立て、実行し、振り返って改善するサイクル——これを評価の構造から見直すと、家庭でできることが具体的に見えてきます。

なお、令和8年度調査では読書時間や図書館利用頻度も調査対象に加わっています。「読書習慣」もまた自己調整学習と連動している可能性があり、今後の分析で明らかになると考えられます。

家庭でできる3ステップ——禁止より「設計」

スクリーンタイムの削減ではなく、「学びの自己調整力」を育てる設計という観点から、3つのステップを整理します。

ステップ1:週1回10分、学習の「計画と振り返り」を子ども自身に語らせる

「今週の目標は何だった?」「実際にできた?できなかった理由は?」という問いを週末の会話に組み込みます。ポイントは、親が評価・採点しないこと。子どもが自分の言葉で語る経験そのものが自己調整力の訓練です。中学3年生の59.6%しか「学び方がわかっている」と答えていない背景に、こうした振り返り機会の不足があります。答えに詰まっても構いません。「どこが難しかったと思う?」と次の問いを重ねるだけで十分です。

ステップ2:スクリーンタイムを「学習の後に来るもの」として位置づける

「スマホを取り上げる」のではなく、「動画の時間は宿題・復習のあとに来る」というルーティンを家庭で設計します。重要なのは、このルールを保護者が一方的に課すのではなく、子ども自身が「いつ、どれだけ使うか」を決めるプロセスに関与させることです。自分で決めたルールは守られやすく、守れなかったときの「なぜ守れなかったか」という問いが、そのまま自己調整力の練習になります。

ステップ3:「わからない問題に向き合う5分」を毎日の設計に入れる

意欲(71.4%が「困難でも努力する」と回答)と実際の学習時間(62%が1時間以上、5年前比-14ポイント)の乖離は、「何をすればいいかわからない」という状態から来ています。わからない問題を開いて5分向き合う——この小さな設計が、学習の継続性を支えます。5分で解けなくても構いません。「どこまでわかるか」を確認するだけで、次の学習目標が具体化します。

よくある質問(FAQ)

Q1. スクリーンタイムが長い子は成績が下がると考えてよいですか?
相関関係は令和8年度調査で確認されていますが、因果関係については文部科学省自身が「直接的な因果関係は不明」としています。「スマホが原因」ではなく「学習の自己調整力の低さが背景にある」と読む方が、対策に結びつきます。
Q2. 中学生になってからでは手遅れですか?
手遅れではありません。ただし、「学習の計画の立て方がわかる」の肯定率が小6(78.9%)から中3(59.6%)へ約20ポイント低下していることは、中学進学後に自己調整の機会が減りやすい環境があることを示しています。気づいたタイミングから始めれば十分効果があります。
Q3. スマホを完全に禁止すれば成績は上がりますか?
一時的に勉強時間が増える可能性はありますが、自己調整力が育っていなければ持続しません。また、禁止の強制は反発を生みやすく、かえって学習意欲を下げるケースもあります。「禁止」より「設計」という視点が長期的に有効です。
Q4. 「学びの自己調整力」は学校では教えてもらえないのですか?
学習指導要領の観点別評価「主体的に学習に取り組む態度」に含まれていますが、学校によって指導の質に差があります。令和8年度調査が「学びの主体的な調整」を新分析軸に加えたのは、この力が学力に直結することを現場に示す意図があると読めます。家庭での補完が効果的です。
Q5. 夏休みに崩れた学習習慣を9月から立て直すには?
まず「何ができていて何ができていないか」を子ども自身に整理させる会話から始めてください。いきなり長時間の勉強を強いるのではなく、「1日30分、わからない問題に向き合う時間」を最初の1週間の目標として設定し、振り返る——このサイクルが自己調整力の再起動になります。

参考文献

  • 国立教育政策研究所「令和8年度全国学力・学習状況調査 報告書・調査結果資料(2026年8月3日公表)」
  • 日本経済新聞「SNS・動画の視聴時間、長いほど成績低く 中3半数が1日3時間以上」(2026年7月28日)
  • 文部科学省「小学校学習指導要領(平成29年告示)解説 総則編」——評価の観点「主体的に学習に取り組む態度」の定義および「自己の学習の調整」の解説
  • 教育新聞「学びの主体的な調整できるほど 全国学力調査の正答率高く」(2026年8月3日)