時短勤務で復職したら、仕事が減っていた──。

いや、正確に言うと「減らされていた」んです。上司は悪気なく、むしろ善意で。「橘くん、時短だから無理しなくていいよ」「このプロジェクト、夕方のMTGが多いから今回は見送ろうか」。一つひとつは配慮なんです。でも、その配慮が3ヶ月積み重なると、手元に残る仕事はルーティンだけ。

実際に育休取った身として言うと、男性の時短復職で一番怖いのは「お前は戦力外だ」と言われることじゃなく、「大丈夫? 無理しないでね」という優しさでキャリアが静かに止まることです。

女性の場合は「マミートラック」と呼ばれる現象ですが、時短で復職する男性にも同じ構造があります。むしろ男性時短への社内の前例が少ない分、上司も「どう扱えばいいかわからない」まま配慮の名のもとに機会を減らしてしまう。

この記事では、半年の育休から時短復職した筆者が、自分から1on1でキャリア機会を取りに行った方法と、「制約があるからこそ信頼される」見せ方の3ステップを紹介します。

「配慮」がキャリアを止める構造を理解する

まず前提として、上司の配慮には悪意がないケースがほとんどです。育児・介護休業法では、時短勤務を理由とした不利益な取扱い(降格・減給・不当な配置転換など)は明確に禁止されています(育児・介護休業法第23条の2)。

でも「重要プロジェクトに声をかけない」は、法律上の不利益取扱いには当たりにくい。上司の頭の中では「配慮」であって「排除」ではないからです。

時短復職初日、上司から「思ったより仕事できるね」と言われたことがあります。本気で褒めてくれたんですが、裏を返せば「男性で時短 = あまり仕事できないだろう」という期待値が最初から低いということ。同僚に聞いてみたら、やっぱり男性時短への期待値は極端に低かったんです。

この「期待値の低さ」は二面性があります。

  • 評価では得:普通にやるだけで「思ったよりできる」と評価が上振れする
  • 機会では損:期待されていない分、挑戦的な仕事が回ってこない

評価が上振れしても、キャリア機会が来なければ長期的には停滞します。短期の評価は自然に得られるが、中長期の機会は自分から取りに行かないと回ってこない──これが「配慮」の構造的な問題です。

ステップ1:1on1で「やりたい案件」を毎月1つ挙げるルールを自分に課す

キャリア機会を取り戻すために僕がやったことは、実はシンプルです。月1回の1on1で「次の四半期で関わりたい案件」を必ず1つ挙げる、というルールを自分に課しました。

ポイントは「全部やりたい」ではなく、「この部分なら時短でも成果を出せます」と切り分けて提案すること。

たとえば大型プロジェクトが走り出しそうなとき、僕はこう言いました。

「このプロジェクト、企画フェーズだけでも入れませんか? 企画会議は午前中が多いので時短の制約にかかりませんし、要件整理は僕の法人営業の経験が活きる領域です」

上司にどう切り出したかなんですけど、大事なのは「やりたいです」という意思表示と「この部分なら制約内でできます」という具体的な提案をセットにすること。上司は「この部分なら任せられる」と判断しやすくなります。

結果として、復職半年で重要プロジェクトの企画フェーズにアサインされました。上司からも「言ってくれないとわからなかった。配慮のつもりで声をかけなかったけど、それが逆だったんだな」と。

1on1で使える3つのフレーズ

  • 「次の四半期で関わりたい案件が1つあります」──意思表示を先に出す
  • 「企画フェーズだけでも入れませんか」──全部ではなく一部を切り出す
  • 「この部分なら時短の制約にかからず成果を出せます」──制約と貢献をセットで見せる

ステップ2:制約を「曖昧にしない」ことで信頼を積む

「やりたい」だけでは、上司は不安です。「やりたいのはわかったけど、急な案件が17時以降に入ったらどうするの?」と。

だからこそ、制約は先に、明確に、具体的に出す。これが信頼の土台になります。

僕が復職面談で実際にやったのは、「17時以降のMTGには参加できません」と明言することでした。曖昧にすると「この会議だけ……」が積み重なって、いつの間にか時短が形骸化するリスクがある。先に線を引いたことで、上司からは「16時までに相談があれば遠慮なく声かけて」と協力的な反応を得られました。

制約を明示すると、上司はその範囲で調整してくれる。逆に制約があいまいだと、上司は「どこまで頼んでいいかわからない」から頼まない=機会が消える。

2025年10月施行の改正育児・介護休業法では、3歳以上小学校就学前の子を養育する労働者に対して、企業は5つの柔軟措置のうち2つ以上を導入することが義務づけられました。

  • 始業時刻等の変更(フレックスタイム制・時差出勤)
  • テレワーク等(月10日以上)
  • 保育施設の設置運営等
  • 養育両立支援休暇(年10日以上)
  • 短時間勤務制度

さらに、子が3歳になる前の適切な時期に、会社は柔軟措置について個別に周知し、制度利用の意向を確認する義務があります。つまり法律上、会社は「あなたはどの制度を使いたいですか?」と聞かなければならない。

でも現実には、この個別意向確認が形式的に終わっているケースも多い。人事から書面が来てハンコを押して終わり、では意味がない。自分から人事に「うちの会社はこの5つのうちどれを導入したんですか?」と確認しに行くのが最速です。僕も実際に人事に聞きに行って、自社がフレックスと養育両立支援休暇を導入済みだと知りました。

ステップ3:「成果の見せ方」を時短仕様に設計する

制約を明示し、機会を取りに行ったら、最後に必要なのは「限られた時間の中で成果を出したことを、上司に正しく認知してもらう」仕組みです。

朝6時に起きて子どもの朝食を作り、8時半までに保育園に送って出社、17時に退勤してお迎え──この生活を回しながら成果を出すには、仕事の密度を上げるしかない

僕がやっているのは3つです。

1. 朝の作業予定をSlackで共有する

出社したら「今日やること」を3行で書く。17時退勤なので、1日のゴールを朝に宣言しておくと、上司も「今日はここまで進む」とわかるし、自分も集中しやすい。

2. 退勤前に「今日の進捗」を1行で書く

「お疲れさまです」で帰る前に、Slackに「○○の企画書ドラフト完成、明日レビュー依頼します」と1行。謝りながら帰るのではなく、成果を置いて帰る

以前は「すみません、お先に失礼します」と毎日謝りながら退勤していました。でも3ヶ月続けるうちに、「自分は迷惑をかけている存在」という刷り込みが強くなっていた。妻に「息子が大きくなったとき、パパが毎日謝りながら帰ってきてたって知ったらどう思うかな」と言われて、翌日から「お疲れさまです」に切り替えました。制度を使うことに謝る必要はない。言葉を変えると意識があとからついてくるんです。

3. 四半期ごとに「制約の中で出した成果」を棚卸しする

人事評価の前に、自分から成果を整理して1on1で共有します。「フルタイムの人と同じ量はできていませんが、企画フェーズの要件整理は○日で完了し、クライアント提案に採用されました」と質で語る

時短勤務者は「量」では勝負できません。だからこそ、「この人がやったから成果が出た」と言える仕事を1つ持っていることが重要です。

男性育休取得率30.1%時代──「配慮の壁」は今後もっと顕在化する

厚生労働省の「令和5年度雇用均等基本調査」によると、男性の育休取得率は30.1%で、前年の17.13%から大幅に上昇しました。政府目標は2025年50%、2030年85%です。

2025年4月には出生後休業支援給付金もスタートし、育休中の給付率が実質手取り100%に近づく制度ができました。育休を取る男性が増えれば、時短で復職する男性も増える。

つまり、「配慮という名のキャリア機会の消滅」に直面する男性は、今後確実に増えます

制度は整ってきた。でも制度があるだけでは、キャリアは守れません。制度を使いながら、機会は自分から取りに行く──この両輪が回って初めて、時短復職は「キャリアの中断」ではなく「働き方の選択」になります。

まとめ:制約を隠すのではなく「見せる」ことでキャリアは動く

時短復職パパがキャリア機会を守るための3ステップをおさらいします。

  1. 1on1で毎月「やりたい案件」を1つ挙げる:待っていても機会は来ない。「この部分なら時短でも成果を出せます」と切り分けて提案する
  2. 制約を先に、明確に、具体的に出す:17時退勤・出張不可などの線引きを曖昧にしない。制約が明確だと上司はその範囲で仕事を任せやすくなる
  3. 成果の見せ方を時短仕様に設計する:朝のタスク宣言・退勤前の進捗報告・四半期の成果棚卸しで「質」の貢献を可視化する

時短復職のリアルは、制約の中でどうキャリアを前に進めるかの毎日です。上司の配慮に感謝しつつも、自分のキャリアは自分で設計する。制約を隠すのではなく見せる。そうすることで、配慮は「機会の剥奪」ではなく「働き方の調整」に変わっていきます。

よくある質問(FAQ)

Q1. 時短勤務を理由に昇進・昇格の対象から外されるのは違法ですか?

A. 育児・介護休業法では、時短勤務の申出や利用を「理由として」不利益な取扱い(降格、減給、昇進・昇格の選考対象からの一律排除など)を行うことは禁止されています。ただし、勤務時間に応じた合理的な評価の範囲内での差は認められる場合があります。「時短だから昇進は無理」と一律に言われた場合は、社内の人事相談窓口や都道府県労働局の雇用環境・均等部門に相談できます。

Q2. 1on1で「やりたい案件」を挙げたら「時短なのに欲張りだ」と思われませんか?

A. 「全部やりたい」と言えば負担に聞こえますが、「企画フェーズだけでも」「この部分なら時短の制約にかかりません」と具体的に切り分ければ、上司にとっては判断しやすい提案になります。実際には、多くの上司は「言ってくれないとわからなかった」と感じています。制約の明示と機会の獲得はセットで行うのがコツです。

Q3. 2025年10月施行の柔軟措置は、自社でどれが導入されたか確認するにはどうすればいいですか?

A. まず自分の会社の人事部門に直接確認するのが最速です。就業規則の育児関連規定にも記載されているはずなので、最新版を取り寄せて確認しましょう。5つの措置のうちどれが導入されたかは企業ごとに異なるため、「うちは何を入れましたか?」と聞くことが出発点です。法律上は2つ以上の導入が義務ですが、5つすべてを入れている企業もあります。

Q4. 時短勤務中にキャリアアップのために資格取得やスキルアップに取り組む余裕はありますか?

A. 正直、時間的な余裕はほとんどありません。朝6時起床→保育園送り→出社→17時退勤→お迎え→夜の家事という生活では、まとまった学習時間を確保するのは難しい。僕の場合は通勤の往復40分(テレワーク日以外)でポッドキャストやオーディオブックを聞く程度です。大きなスキルアップよりも、今の仕事の中で「この人がやったから成果が出た」と言える実績を積むほうが現実的です。

Q5. 男性で時短勤務を選ぶ人はどのくらいいますか?

A. 厚生労働省の統計では男性の短時間勤務制度利用率は全体の数%程度にとどまっています。ただし2023年度の男性育休取得率が30.1%まで上昇しており、育休後に時短復職する男性も増加傾向にあります。2025年の法改正(出生後休業支援給付金・取得率公表義務拡大)により、今後さらに増えることが見込まれます。

参考文献・出典