FP相談でよく聞かれるのが「教育費、足りますかね?」という質問です。そこで「今、どこにいくら入っていますか?」と聞き返すと、ほとんどの方が黙ってしまいます。
ソニー生命「子どもの教育資金に関する調査2025」によると、教育資金に不安を感じる親は81.6%。そのうち32.5%が「必要額がわからない」と答えています。でも、結論から言うと家計の見直しが先──というより、まず「今どこにいくらあるか」の棚卸しが先です。
不安の正体は「足りないかもしれない」ではなく、「全体像が見えていない」こと。今回は、わが家でも実践している「教育資金マップ」の作り方を紹介します。
なぜ夫婦で教育資金の全体像を把握すべきなのか
J-FLECの調査によると、共働き世帯で「お互いの貯蓄状況を把握していない」割合は約3世帯に1世帯にのぼります。教育資金は学資保険・こどもNISA・児童手当の別口座・親のNISA枠・祖父母からの贈与──と、複数の「器」に分散しているのが普通です。
問題は、この分散が「意図的な分散投資」ではなく「なんとなくバラバラ」になっているケース。うちの長女のとき実際に起きたのが、夫が学資保険の払込額を把握しておらず、私がNISAで別途積み立てていることも知らなかった──という状態でした。
万が一のとき(入院・離職・死亡)に、もう片方の親が教育資金の全容を把握できなければ、せっかく貯めたお金が「見えない資産」になってしまいます。
「教育資金マップ」とは?──1枚の表で全体像を見える化
教育資金マップとは、子どもごと×資金の器ごとに「現在残高」「月額積立額」「目標時期」「引き出し条件」を一覧化した表です。
作り方3ステップ
ステップ1:器を洗い出す
まず、教育資金として使う予定のお金がどこに入っているかを全部書き出します。
| 資金の器 | 名義 | 現在残高 | 月額積立 | 引き出し条件 |
|---|---|---|---|---|
| 学資保険(A社) | 夫 | 180万円 | 1.5万円 | 満期18歳 |
| こどもNISA口座 | 子 | ―(2027年〜) | 月3万予定 | 12歳まで引出不可 |
| 児童手当専用口座 | 妻 | 85万円 | 1万円 | いつでも可 |
| 親の新NISA(教育枠) | 妻 | 120万円 | 2万円 | いつでも可 |
| 定期預金 | 夫 | 50万円 | なし | 満期まで1年 |
| 祖父母からの贈与(予定) | ─ | ─ | ─ | 暦年110万円枠 |
ポイントは「名義」と「引き出し条件」を必ず書くこと。こどもNISAは12歳まで引き出せない、学資保険は満期前に解約すると元本割れ──こうした制約を見える化しておくと、「いつ使えるお金か」が一目でわかります。
ステップ2:子どもの進路タイムラインと突き合わせる
次に、子どもの年齢ごとに「大きな出費が発生する時期」を並べます。
- 小学校入学(6歳):ランドセル・制服・学用品(10〜15万円)
- 中学受験(12歳):塾代ピーク年間80〜120万円
- 高校入学(15歳):入学金・制服・教材(20〜30万円)
- 大学入学(18歳):入学金+前期授業料(国公立約82万円、私立文系約120万円)
このタイムラインと「器の引き出し可能時期」を重ねると、「中学受験の時期にこどもNISAは引き出せない」「大学入学金は学資保険の満期と同時期」といったマッチ・ミスマッチが見えてきます。
ステップ3:過不足を月額に換算する
全器の合計と目標額の差を出し、不足分を「残り月数」で割ります。
たとえば長男(小5)の大学入学まであと7年。目標額350万円に対して現在の積立合計が210万円なら、不足140万円÷84カ月=月あたり約1.7万円。この数字が出れば「児童手当1万円+親NISA増額7,000円で届く」と具体的な行動に落とせます。
年1回の「教育資金棚卸しデー」を夫婦の習慣にする
マップは作って終わりではありません。わが家では毎年4月の第1土曜日を「教育資金棚卸しデー」にしています。朝5時に起きてExcel家計簿を開き、3児の分を更新するのが私の年中行事です。
棚卸しで確認する5つの項目
- 各口座の現在残高(通帳・アプリで実額を確認)
- 前年からの増減(計画通りか、想定外の出費がなかったか)
- 進路の変更(中学受験する/しないの方針転換など)
- 制度変更の反映(こどもNISA開始、授業料改定、児童手当の改正など)
- 万が一の備え(学資保険の払込免除特約の確認、遺族年金のシミュレーション更新)
この5項目を夫婦で30分確認するだけで、「なんとなく不安」が「あと月○円積めば大丈夫」に変わります。FP相談で1,500件以上のご家庭を見てきた経験からも、年1回でも棚卸しをしている家庭は、していない家庭に比べて教育資金の達成率が明らかに高いと感じています。
「見える化」で防げる3つの失敗
失敗1:同じ目的の積立が重複している
夫が学資保険、妻が定期預金、祖父母が子ども名義口座──と、同じ子の大学費用に3系統が走っていたケース。合計すると目標額を大幅に超えており、余剰分を老後資金に回せたはずでした。
失敗2:引き出し時期のミスマッチに気づかない
こどもNISAに全額集中させた結果、中学受験の塾代が必要な小4〜小6の時期に引き出せない──という相談は今後増えると予想しています。マップで「いつ使えるか」を可視化していれば防げます。
失敗3:万が一のとき配偶者が口座を見つけられない
教育資金マップを共有フォルダやクラウドに保存しておけば、もしもの時にも配偶者が全容を把握できます。口座番号・証券会社名・保険証券番号を記載しておくことをおすすめします。
よくある質問(FAQ)
Q1. 教育資金マップはExcelで作るべきですか?紙でもいいですか?
紙でもかまいません。大切なのは「1枚にまとまっていること」と「夫婦で同じものを見られること」です。ただし、残高の更新がしやすいExcelやGoogleスプレッドシートが便利です。わが家ではExcel家計簿の中に専用シートを設けています。
Q2. 子どもが複数いる場合はどう管理しますか?
子どもごとにシートを分けるのがおすすめです。きょうだいで共有している口座(児童手当がまとめて入る口座など)は按分ルールを決めておきましょう。わが家は3児分をタブで分けて管理しています。
Q3. 教育資金の目標額はどう設定すればいいですか?
文部科学省「子供の学習費調査」や各大学の学費データを参考に、進路パターン別に幅を持たせて設定するのが現実的です。「国公立なら約250万円、私立文系なら約400万円」のように下限・上限を置き、その間で計画すれば柔軟に対応できます。
Q4. 棚卸しは年1回で十分ですか?
基本は年1回で十分です。ただし、進路変更(中学受験を決めた/やめた)、制度改正(こどもNISA開始など)、家計の大きな変化(転職・離職)があったときは臨時で見直しましょう。
Q5. 祖父母からの援助も教育資金マップに入れるべきですか?
確定している分は入れてください。「入学のとき100万円くれると言っていた」程度の口約束は、マップの欄外にメモとして残しておき、確定するまでは積立計画の前提に組み込まないのが安全です。贈与の方法(暦年贈与・都度贈与)によって税務上の扱いが変わるため、金額が大きい場合はFPや税理士に相談することをおすすめします。
まとめ:不安の8割は「見えていないこと」から生まれる
教育資金の不安を減らす最初の一歩は、追加で貯めることではなく「今あるものを整理すること」です。教育資金マップを作り、年1回の棚卸しを夫婦の習慣にするだけで、漠然とした不安は具体的な数字に変わります。
週末30分あれば最初のマップは完成します。まずは「どこにいくら入っているか」を書き出すことから始めてみてください。
参考文献
- ソニー生命保険「子どもの教育資金に関する調査2025」(2025年3月)
- 金融経済教育推進機構(J-FLEC)「家計の金融行動に関する世論調査 2025年」(2025年12月)
- 文部科学省「子供の学習費調査」(令和5年度)





