2026年1月に実施された共通テスト「情報I」の平均点は56.59点。前年の69.26点から12.67点の下落となりました。SNSでは「難化した」「対策が間に合わない」という声が広がり、保護者の不安が高まっています。
しかし、学習指導要領の本文には、情報Iが目指す力は「プログラミング的思考」や「情報を構造的に捉える力」であると明記されています。今回の平均点下落は、出題がこの本来の趣旨に近づいた結果であり、単なる「難化」とは構造が異なります。
本記事では、元教育記者として学習指導要領や文科省資料を原典から読み解いてきた立場から、平均点下落の構造的理由を整理し、保護者が家庭でできる4つの備えを提案します。
「平均点12点下落」の内訳を読み解く
まず数字の構造を確認しましょう。2026年度共通テスト「情報I」では、マーク数が前年の51から60に増加しました。第1問のマーク数は11から15に、第2問では紙面が2ページ増えています。つまり、「1問あたりの処理量が増えた」のが第一の変化です。
さらに重要なのは、出題の質的変化です。教科書の内容を暗記していれば解ける知識問題の配点は約10点にとどまり、残りの90点分は「初見のテーマについてその場で理解しながら考える」応用問題で構成されています。
これは偶然ではありません。文科省の発表を読み解くと、情報Iの出題方針は「情報を構造的に捉え、問題を発見・解決する力」を測ることにあります。初年度は受験生への配慮から比較的平易な出題でしたが、2年目からは本来の趣旨に沿った出題へ移行したと考えるのが妥当です。
4分野の出題比重シフトが意味すること
情報Iの学習内容は以下の4分野で構成されています。
| 分野 | 内容 | 2026年度の出題傾向 |
|---|---|---|
| 第1分野 | 情報社会と問題解決 | 社会的文脈での情報活用判断が増加 |
| 第2分野 | コミュニケーションと情報デザイン | データの視覚化・設計思考の応用問題 |
| 第3分野 | コンピュータとプログラミング | アルゴリズムの読解・トレース問題が本格化 |
| 第4分野 | 情報通信ネットワークとデータの活用 | 統計処理・データ分析の実践的出題 |
注目すべきは、第3分野(プログラミング)と第4分野(データ活用)の比重が増したことです。これらは「考える力」が直接試される分野であり、暗記では太刀打ちできません。平均点の下落は、この比重シフトを反映しています。
教員指導体制の構造的格差──「制度一律・運用格差」の再現
平均点の下落には、もう一つの構造的要因があります。教員の指導体制の格差です。
文科省の調査によると、公立高校の情報科担当教員4,756人のうち、796人(16.3%)が情報の正規免許を保有していません。プログラミング総合研究所の調査では、教員の86.7%が指導に不安を感じていると回答しています。
地域差も顕著です。東京都など16自治体では教員全員が正規免許を保有する一方、一部の県では免許外教科担任が5割を超えています。
私は出版社時代から小学校プログラミング教育、GIGAスクール端末、英語教育の取材を通じて、「制度は全国一律だが運用で格差が生まれる」という構造パターンを繰り返し確認してきました。情報Iでも同じ構造が再現されています。つまり、同じ「情報I」を履修しても、学校によって授業の質に大きな差があるのが現実です。
見落としがちな「数学I・Aとの連動」
保護者が意外と見落としているのが、情報Iと数学I・Aの統計分野の連動です。
情報Iの第4分野「データの活用」では、平均値・中央値・分散・標準偏差といった統計的概念を扱います。これらは数学I・Aの「データの分析」と内容が重なっており、数学での理解が不十分だと情報Iでも失点につながります。
逆に言えば、数学I・Aの統計分野をしっかり理解していれば、情報Iの第4分野は得点源にできます。教科横断的な弱点が隠れている可能性を意識することが重要です。
「配点が低いから捨てていい」は危険な判断
多くの国公立大学で、共通テスト全体に占める情報Iの配点比率は10%未満です。このため「配点が低いから対策しなくていい」と考える家庭もあります。
しかし、大学側の意図はこういう構造です。国公立大学の合否は1〜2点差で決まることが珍しくありません。配点比率が低くても、情報Iでの取りこぼしが合否を分ける可能性は十分にあります。北海道大学のように「受験は必須だが基本的に配点しない」という大学もある一方、配点比率を高く設定している学部も存在します。志望校の配点方式を早めに確認しておくことが不可欠です。
家庭でできる4つの備え
1. 教科書を「読む教材」として活用する
情報Iの教科書は、実は共通テスト対策の最も確実な教材です。知識問題の約10点分は教科書の内容から直接出題されます。教科書を手元に置き、用語の定義を正確に理解しているか親子で確認する習慣が有効です。
2. 数学I・Aの統計分野を先に固める
情報Iのデータ活用問題は、数学の統計知識が土台になっています。数学I・Aの「データの分析」単元の理解が不十分な場合、情報Iの対策より先に数学の統計分野を補強する方が効率的です。
3. 学校の授業進度と質を確認する
教員の指導体制格差を踏まえると、「学校の授業だけで大丈夫か」を確認することが重要です。具体的には、以下の点を学校に尋ねてみてください。
- 情報Iの担当教員は正規免許保有者か
- プログラミング実習の時間は十分に確保されているか
- 共通テストを意識した演習機会はあるか
もし学校の授業だけでは不十分と感じた場合は、大学入試センターが公開している試作問題や過去問を家庭で解く習慣をつけることで補完できます。
4. 「情報I=プログラミング」の誤解を解く
保護者の間では「情報I=プログラミングの試験」という誤解が根強いですが、実際にはプログラミングは4分野のうちの1つにすぎません。情報社会の問題解決、情報デザイン、ネットワーク、データ活用と、幅広い「情報リテラシー」が問われます。プログラミング教室に通わせるだけでは対策にならない点を、家庭で共有しておくことが大切です。
朝の情報チェックで気づいた「保護者の認識のズレ」
私は毎朝6時に起床し、午前中は文科省や教育委員会のリリースを確認するのが日課です。情報Iの共通テスト結果が公表された翌日、SNSには「うちの子の学校は情報の授業がほとんどなかった」「プログラミング教室に通わせておけばよかった」という声があふれていました。
しかし、原典を読めば、情報Iが求めているのはコーディング技術ではなく「情報を構造的に捉える力」です。かつて英語民間試験導入の報道が「賛成vs反対」の煽り合戦になったとき、原典を読むと論点はもっと多層的だったことを思い出します。教育に関する議論は、一次情報に立ち返ることで初めて正確な判断ができるのです。
よくある質問(FAQ)
Q1. 情報Iの対策はいつから始めるべきですか?
共通テスト対策としては高3の夏休みからでも間に合うとされていますが、教科書レベルの基礎知識は高1・高2の授業で定着させておくのが理想です。特に数学I・Aの統計分野との連動を考えると、高2の段階で統計の基礎を固めておくと効率的です。
Q2. プログラミング教室に通わせれば情報Iの対策になりますか?
プログラミングは情報Iの4分野のうちの1つにすぎません。教室でのコーディング経験はアルゴリズム的思考の助けにはなりますが、情報社会の問題解決やデータ活用など他の3分野はカバーできません。教科書と過去問を中心にした対策の方が効率的です。
Q3. 来年度以降、情報Iの平均点はどうなりますか?
2025年度(初年度)の平均点69.26点は配慮された出題による高めの数値でした。2026年度の56.59点が本来の難度に近いと考えられます。今後は55〜65点程度で推移する可能性が高く、「初年度のように簡単」には戻らないと見るのが妥当です。
Q4. 文系の子どもにも情報Iの対策は必要ですか?
国公立大学を志望する場合、文系・理系を問わず情報Iは必須科目です。配点比率は大学によって異なりますが、「低いから捨てる」判断は1〜2点差の合否に影響するリスクがあります。最低限、教科書レベルの知識と過去問演習は文系受験生にも必要です。
Q5. 学校の情報Iの授業が不十分だと感じた場合、どうすればいいですか?
まず大学入試センターの試作問題・過去問を家庭でダウンロードして解いてみてください。無料で利用できます。また、文科省の「情報I」教員研修用教材もオンラインで公開されており、教科書以上の内容を自習する際の参考になります。市販の参考書を1冊追加するだけでも、学校の授業との差を埋められます。
まとめ
共通テスト「情報I」の平均点12点下落は、「難化」ではなく「出題の本質化」です。学習指導要領が本来求めている「情報を構造的に捉える力」に出題が近づいた結果であり、この傾向は今後も続くと考えられます。
教員の指導体制格差という構造的問題も踏まえると、学校任せにせず家庭でできる備えを早めに始めることが重要です。教科書の活用、数学との連動意識、学校の授業進度の確認、そして「情報I=プログラミング」という誤解の解消──この4つを意識するだけで、お子さんの情報Iへの向き合い方は大きく変わります。
参考文献
- 大学入試センター「令和8年度大学入学共通テスト実施結果」
- 文部科学省「高等学校情報科担当教員の配置状況及び指導体制の充実に向けて」(令和4年11月)
- プログラミング総合研究所「2025年共通テストに向けた情報Iに関する調査」
- 文部科学省「高等学校学習指導要領(平成30年告示)解説 情報編」
- 河合塾 Kei-Net「2026年度大学入学共通テスト特集 平均点情報」






