「浪人します」——その一言を聞いた瞬間、親として頭が真っ白になった方も多いと思います。
FP相談でよく聞かれるのが「浪人の費用って、正直いくら用意しておけばいいですか?」という質問です。志望校に届かなかった現実と、来年こそという気持ちが交差する中で、家計の計算まで追いつかない——それが多くのご家庭の本音ではないでしょうか。
私自身、長男の大学受験を見据えて受験費用の出願カレンダーを一緒に作った経験があります。その時に実感したのは、「来年のための費用」が現役時と同じように年明けに集中するという構造でした。浪人の場合はさらに、予備校費用が丸1年間上乗せされます。
この記事では、浪人が決まったご家庭がすぐに確認すべき1年間の費用総額と、教育資金の「組み直し3ステップ」をCFPの視点で整理します。
浪人の費用は「4つの層」で構成される
浪人費用を「予備校代だけ」と考えていると、年末〜年明けに想定外の出費が重なって家計が回らなくなります。費用は大きく4層に分かれます。
① 予備校・塾の費用(年間60〜80万円)
大手予備校(河合塾・駿台・代々木ゼミナール・東進など)の通年コースの費用は、入学金・授業料・テキスト代を合計すると、おおむね以下の通りです(2026年度参考値)。
| 予備校 | 入学金の目安 | 年間授業料の目安 | 合計(概算) |
|---|---|---|---|
| 河合塾 | 10万円前後 | 55〜65万円 | 65〜75万円 |
| 駿台予備校 | 10万円前後 | 50〜60万円 | 60〜70万円 |
| 代々木ゼミナール | 10万円前後 | 50〜65万円 | 60〜75万円 |
| 東進ハイスクール | 3〜5万円 | 60〜80万円(講座数による) | 63〜85万円 |
※各予備校の公式サイト及び2026年度入学案内をもとにした概算です。コース・科目数・早期割引によって変動します。必ず入学説明会で「講習を含む年間総額」を確認してください。
② 夏期・冬期講習費(10〜30万円)
通年コースに含まれないケースが多く、夏期講習だけで5〜15万円、冬期講習・直前講習でさらに5〜15万円かかることがあります。「コマ買い」型の予備校では特に費用が膨らみやすいため、入学前に講習込みの総額を確認することが必須です。
③ 模試費用(年間5〜8万円)
全統模試・駿台全国模試・河合塾記述模試など、受験本番を意識した模試を年間6〜10回受けると、1回あたり5,000〜8,000円×回数で年間5〜8万円になります。
④ 再受験費用(翌年1〜3月に20〜50万円)
大学受験費用(共通テスト受験料・私立大学出願料・入学金)は現役時と同額で発生します。さらに、第一志望の合格発表前に私立大学の入学金(全国平均約24万円)を納付する「捨て金」リスクも残ります。
これらを合計すると、費用の全体像は以下のようになります。
- 自宅通いの場合:年間100〜160万円(予備校代+講習+模試+再受験費用)
- 一人暮らしの場合:年間220〜310万円(上記+生活費12万円×12カ月程度)
結論から言うと家計の見直しが先です。この金額を「何月にいくら払うか」を把握しないまま年度が始まると、秋・冬の大出費に対応できなくなります。
教育資金の「組み直し3ステップ」
Step 1:現在の教育資金残高と引き出し条件を確認する
まず「今ある教育資金がどこに、いくら、いつ引き出せる状態で入っているか」を書き出します。
- 学資保険:満期日・満期金額・解約返戻率を確認。払い込み済みの場合は継続が基本で、解約すると損失になるケースが多い
- 新NISA・こどもNISA:残高と含み損益を確認。含み損がある場合は売却タイミングに注意
- 教育資金専用口座(現金):最も流動性が高い。まずここから使う
大学入学を想定して積み立ててきた資金がある場合、それを予備校費用に充てるかどうかを検討します。ただし、「浪人費用」と「大学在学中の費用」は必ず別枠で管理してください。浪人費用に全額充てると、翌年の入学金・前期授業料を再度手当しなければならなくなります。
Step 2:1年間の費用をタイムライン化し、月次キャッシュフローを設計する
費用を月次タイムラインに落とし込みます。
| 時期 | 主な出費 | 目安金額 |
|---|---|---|
| 4月 | 予備校入学金・前期授業料 | 35〜45万円 |
| 5〜7月 | 模試代(複数回) | 1〜2万円/月 |
| 7〜8月 | 夏期講習 | 5〜15万円 |
| 10〜11月 | 後期授業料・共通テスト出願 | 20〜35万円 |
| 12〜1月 | 冬期・直前講習 | 5〜15万円 |
| 1〜3月 | 受験料・私立入学金(捨て金含む) | 20〜50万円 |
4月の初期支出(35〜45万円)を最初に確保し、その後は月2〜3万円の追加積立で秋・冬の支出に備える設計が現実的です。
Step 3:再受験費用専用口座を今すぐ開設し、自動振替を設定する
浪人期間中の教育資金管理で最もありがちなのが、「予備校費用・模試代を出し続けるうちに、年明けの再受験費用が手当できなくなる」パターンです。
対策はシンプルです——今すぐネット銀行に「再受験専用口座」を開設し、毎月1〜2万円を自動振替する設定をすることです。4月から月2万円×10カ月で20万円が積み上がり、受験料・入学金(捨て金シナリオを含めて30〜50万円)の手当に充てられます。夏・冬のボーナスがある家庭は、各5〜10万円を同口座に入れておくとさらに安心です。
「どこから出すか」の判断基準
浪人費用の財源として考えられる選択肢と、それぞれの注意点を整理します。
- 教育資金専用口座(現金):最優先。流動性が高く、時期を問わず引き出せる
- 学資保険(満期前):解約返戻率を確認してから判断。払い込み途中の場合は継続が基本
- 新NISA・こどもNISA:含み益があれば活用可。ただし非課税枠を一度売却すると翌年まで復活しない点に注意
- 国の教育ローン(日本政策金融公庫):予備校費用にも利用可。2026年時点の金利は年3.55%(固定)。手元資金が不足する場合の補完策として
重要なのは、浪人費用を「想定外の出費」として場当たり的に払うのではなく、4月の時点で12カ月のキャッシュフローを設計することです。
よくある失敗パターン3つ
パターン①:予備校費用しか計算していなかった
「予備校で年間70万円」と計算していたのに、夏期講習・冬期講習・模試代が別途かかり、気づいたら年間120万円超えていた——というケースが後を絶ちません。入学説明会の段階で「通年の総額(講習含む)」を必ず確認することが大切です。
パターン②:翌年の再受験費用を「その時また考えればいい」と先延ばし
年明けの受験料・入学金は、1〜3月の短期間に30〜50万円が一気に集中します。「その時にまた考える」では間に合いません。浪人開始時点で再受験費用専用口座を設けておくことが、年明けの家計パニックを防ぐ最善の方法です。
パターン③:教育資金全体を取り崩してしまう
「どうせ来年また使う資金だから」と積み立ててきた教育資金を全額崩してしまうと、翌年の大学入学後の費用(入学金・前期授業料・一人暮らし初期費用)を改めて手当する必要が生じます。浪人費用は「大学在学費用とは別枠」で設計することが大原則です。
FAQ:浪人費用についてよくある質問
- Q1. 独学・オンライン予備校にすれば費用は大幅に安くなりますか?
- A. はい、大幅に安くなります。映像授業系のオンライン予備校であれば年間10〜30万円台の選択肢もあります。ただし「学習の継続力」と「孤独との戦い」は通塾型より難しい面があります。費用と本人の自己管理力のバランスで選ぶことをお勧めします。
- Q2. 浪人費用は教育ローンで借りるべきですか?
- A. 手元の現金や教育資金専用口座で対応できるなら、借り入れは後回しが基本です。ただし、大学入学後の授業料・仕送りまで含めた4〜5年間のトータルで見て資金不足が見込まれる場合は、低金利の国の教育ローン(日本政策金融公庫)を検討する価値があります。
- Q3. 浪人中の子どものお小遣いはどう設定すればいいですか?
- A. 交通費・文房具・食費(外食)などを含めて月1.5〜3万円が目安です。「予備校関連費用は別会計」として管理し、お小遣いは定額制で固定することで家計の把握がしやすくなります。
- Q4. 浪人期間中、積み立ててきた教育資金はどうすればいいですか?
- A. 浪人費用と大学費用は別口座で管理するのが原則です。既存の教育資金口座から浪人費用を出す場合は、大学入学後の費用(入学金+前期授業料+一人暮らし初期費用)を先に確保してから残額で対応するよう設計してください。新NISAへの積立は止める必要はなく、浪人の1年間も少額でも続けておくことで、大学在学中の費用を補う余力になります。
- Q5. 学資保険の満期金を浪人費用に使っていいですか?
- A. 学資保険の満期金は「大学在学費用のための資金」として積み立ててきたものです。浪人費用に充てる場合は、大学1年分の授業料(国立年間約54万円〜、私立文系年間約110〜120万円)を別に確保できているかを確認してから使うようにしてください。
まとめ:「浪人1年間」を家計の設計で乗り越えるために
浪人の費用は、予備校代だけで終わらないのが現実です。夏期・冬期講習・模試代・再受験費用まで含めると、自宅通いでも年間100〜160万円が目安です。
この金額を月ごとのタイムラインに落とし込み、①現在の教育資金残高と引き出し条件を確認、②月次キャッシュフローを設計、③再受験費用専用口座を今すぐ開設——この3ステップを浪人決定直後に実行できるかどうかが、1年間の家計の安定を左右します。
子どもの浪人は予想外のことかもしれません。でも、費用の全体像を数字で把握できれば、感情ではなく設計で乗り越えることができます。






