FP相談でよく聞かれるのが、「子どもが奨学金の返済で苦しんでいるようなのですが、親として何をしてあげればいいですか?」という質問です。
2024年以降、JASSOの第二種奨学金(有利子)の利率固定方式は約2.5%まで上昇しました。2022年頃に0.4%前後だったことを考えると、返済額の負担感はまったく別物です。2026年5月には「奨学金問題対策全国会議」が全国一斉ホットラインを開催するほど、返済困窮の相談は増えています。
私自身、FP相談で奨学金と教育ローンの金利差縮小を調べた経験から、「借りる前」の記事はこれまでも書いてきました。しかし最近は「すでに借りてしまった子の返済をどう支えるか」という相談が明らかに増えています。
この記事では、JASSOの救済制度の正しい使い分けと、親としてできる現実的なサポートを整理します。
奨学金返済が「きつい」と感じるのは甘えではない──数字で見る負担の変化
まず、返済が苦しくなっている背景を数字で確認しましょう。
JASSOの第二種奨学金を月8万円×4年間(総額384万円)借りた場合、金利による返済総額の差はこうなります。
| 利率固定方式 | 月々の返済額(目安) | 返済総額 | 利息総額 |
|---|---|---|---|
| 0.4%(2022年頃) | 約16,800円 | 約391万円 | 約7万円 |
| 1.6%(2024年頃) | 約18,200円 | 約436万円 | 約52万円 |
| 2.5%(2026年現在) | 約19,400円 | 約465万円 | 約81万円 |
0.4%と2.5%では、利息だけで約74万円、月々の返済額で約2,600円の差が出ます。新社会人の手取りが20万円前後であることを考えると、家賃・通勤費・食費を引いた残りから月2万円近い返済は決して軽くありません。
加えて2024〜2026年の物価上昇は食費だけで前年比3〜5%。「返済額は変わっていないのに生活が苦しい」という声が増えるのは、数字を見れば当然のことです。
JASSOの救済制度は3つある──それぞれの違いと選び方
子どもから「返済がきつい」と相談されたら、まず知っておくべきはJASSOの公式な救済制度です。「返せない=ブラックリスト」ではなく、正式な手続きを踏めば延滞扱いにならない制度が用意されています。
①減額返還制度──月々の負担を軽くする
- 内容: 月々の返還額を1/2・1/3・1/4・2/3に減額し、その分返還期間を延長する
- 利用条件: 給与所得者は年収400万円以下(扶養2人で500万円、3人以上で600万円)
- 適用期間: 1回の申請で12カ月。最大15年(180カ月)まで延長可能
- メリット: 返還総額は変わらない(利息が増えない)。延滞扱いにならない
- 注意: 既に延滞している場合は利用できないため、苦しくなる前の申請が重要
②返還期限猶予制度──返還自体を一時停止する
- 内容: 返還を一定期間(最大10年)停止できる
- 利用条件: 給与所得者は年収300万円以下(扶養者ありで引き上げ)
- 適用期間: 1回の申請で12カ月。通算10年(120カ月)まで
- メリット: 完全に返還をストップできるため、失業・病気時に有効
- 注意: 猶予期間中も利息は発生する(第二種の場合)。返還総額はわずかに増える
③返還免除──特別な事情がある場合
- 対象: 本人が死亡、または精神・身体の障害により労働能力を喪失した場合
- 内容: 奨学金の全額または一部が免除される
- 補足: 大学院で特に優秀な業績を挙げた場合の免除制度もある(第一種のみ)
判断フロー:どの制度を使うべきか
結論から言うと家計の見直しが先ですが、制度の選択は以下のように整理できます。
- 「月々の額を減らせば払える」→ 減額返還(返還総額が変わらないので最も有利)
- 「収入が激減して一時的に払えない」→ 返還期限猶予(失業・病気・育休など)
- 「どちらも該当しないが苦しい」→ まず家計の見直し(後述の親サポート参照)
重要なのは、延滞する前に申請することです。3カ月以上延滞すると個人信用情報機関に登録(いわゆるブラックリスト)され、クレジットカードや住宅ローンの審査に影響します。「まだ大丈夫」と思っているうちに動くのが鉄則です。
親が「肩代わり」する場合の注意点──贈与税と口座管理
FP相談で意外と多いのが、「親が返済を肩代わりしたい」というケースです。気持ちはわかりますが、いくつか注意点があります。
贈与税のライン
親から子への資金援助は、年間110万円を超えると贈与税の対象になります。奨学金の残債が200万円あるからといって一括で渡すと、90万円分に贈与税がかかります。
うちの長女のとき実際に義父が200万円を一括で振り込もうとしたことがありましたが、暦年贈与の枠を超える金額はタイミングを分けるのが基本です。奨学金の肩代わりも同じ考え方で、年110万円以内に分けて渡すのが安全です。
「都度贈与」で非課税にできるケース
生活費や教育費として「必要な都度」渡す場合は、110万円を超えても贈与税がかからないケースがあります。ただし、奨学金の返済は「生活費の仕送り」とは性質が異なるため、税務署の判断がグレーになりやすい点に注意が必要です。心配な場合は税理士に相談しましょう。
肩代わりする前に確認すべき3つ
- 親自身の老後資金は足りているか(子の借金を肩代わりして親が老後破綻するのは本末転倒)
- きょうだい間の公平性(一人だけ肩代わりすると他のきょうだいとの不公平感が生まれる)
- 子ども自身の返済計画(全額肩代わりではなく、一部支援+子の努力の組み合わせが理想)
親ができる5つの現実的サポート
「お金を出す」だけが親の役割ではありません。FP相談1500件の経験から、効果が高い順に5つのサポートを整理します。
サポート①:JASSO救済制度の情報を渡す
子ども自身が制度の存在を知らないケースが圧倒的に多いです。「スカラネット・パーソナル」のログイン方法と、減額返還の申請画面を一緒に確認するだけでも大きな一歩になります。2024年4月からはオンライン申請が拡充され、失業を理由とする申請もネットで完結するようになりました。
サポート②:家計の棚卸しを手伝う
「返済がきつい」と言う子の家計を見ると、サブスク月1万円・外食費月3万円といった見直し余地が見つかることが少なくありません。親が口出しするのは嫌がられがちですが、「一緒にExcelで数字を並べてみよう」と提案するとハードルが下がります。私も朝5時に起きて家計のデータ整理をする習慣がありますが、数字を「見える化」するだけで漠然とした不安が具体的な対策に変わるのは、子も親も同じです。
サポート③:繰上返済の判断を一緒にする
親にまとまった余裕資金がある場合、「繰上返済すべきか」を判断するポイントは次の通りです。
- 金利2.5%以上で残債200万円以上 → 繰上返済のメリットが大きい(利息削減効果が高い)
- 金利1%未満で残り数年 → 無理に繰上返済せず、新NISAなど他の運用を優先してもよい
- 子が住宅購入を検討中 → 奨学金完済で住宅ローン審査の信用情報がクリーンになるメリットあり
ただし、繰上返済に充てるお金が親の生活防衛資金(生活費6カ月分)を削るなら、やめたほうがいいです。
サポート④:返済と並行した貯蓄の仕組みづくり
奨学金返済中でも、少額でいいので貯蓄の習慣を持たせることが大切です。月3,000円でも自動積立を設定し、「返済しながらでも貯められる」という成功体験を作る。これは私が長男にお小遣いの3分割ルールで教えたことと本質的に同じで、「使う・返す・貯める」を分ける仕組みがあるかどうかが分かれ目です。
サポート⑤:最悪のケースの相談先を共有する
どうしても返済が困難な場合の相談先を、親子で事前に確認しておくことも重要です。
- JASSO奨学金相談センター: 0570-666-301(平日9:00〜17:00)
- 奨学金問題対策全国会議: 弁護士・司法書士による無料ホットラインを定期開催
- 法テラス(日本司法支援センター): 0570-078374(収入要件を満たせば弁護士費用の立替制度あり)
「相談先がある」と知っているだけで、精神的な追い詰められ方がまったく違います。
「親が出すべきだった」と自分を責めないために
FP相談で最も気になるのは、「子に奨学金を借りさせた自分が悪い」と自責する親御さんの姿です。
しかし、借りた時点での判断は、その時点の金利と家計状況では合理的だったはずです。2022年以前の金利0.4%なら、利息総額はわずか7万円。「借りたほうが合理的」という判断は間違っていませんでした。
問題は判断ではなく、環境が変わったことです。金利が6倍以上に跳ね上がる未来を予測できた人はほとんどいません。だからこそ、今できることに集中しましょう。
よくある質問(FAQ)
Q1. 減額返還を使うと信用情報に傷がつきますか?
いいえ、JASSOの減額返還制度・返還期限猶予制度を正式に申請して承認された場合、延滞扱いにはなりません。信用情報に登録されるのは、手続きをせずに3カ月以上延滞した場合です。制度を使うこと自体にデメリットはないので、苦しくなる前に早めに申請しましょう。
Q2. 親が奨学金を一括で肩代わりすると贈与税はいくらかかりますか?
年間110万円を超える部分に贈与税がかかります。例えば200万円を一括で渡した場合、超過分90万円に対して税率10%で贈与税は9万円です。年をまたいで110万円ずつに分ければ非課税にできますが、「定期贈与」と見なされないよう、金額や時期を毎年変えることが推奨されます。
Q3. 奨学金の繰上返済と新NISAの積立、どちらを優先すべきですか?
奨学金の金利が2%を超えている場合は、まず繰上返済を優先するのが堅実です。新NISAの期待リターンは年3〜5%ですが確実ではありません。一方、繰上返済による利息削減は確定したリターンです。ただし、生活防衛資金(生活費6カ月分)を確保した上で、余裕資金で判断してください。
Q4. 返還期限猶予中に転職・昇給したら自動的に猶予は終わりますか?
自動的には終わりません。猶予は申請期間(通常12カ月)が終了するまで継続します。ただし、次回の更新申請時に収入証明を提出する必要があり、年収基準を超えていれば更新はできません。収入が回復したら、減額返還に切り替えて段階的に通常返済に戻すのがスムーズです。
Q5. 子どもが延滞してしまった場合、親が連帯保証人なら親に請求が来ますか?
はい、人的保証を選択した場合、連帯保証人(多くは父母)に返還請求が届きます。機関保証を選択した場合は保証機関が代位弁済しますが、その後は保証機関から本人に請求が移ります。いずれにしても、延滞前にJASSOの救済制度を利用することが最善策です。
まとめ──「知っている」だけで守れるものがある
奨学金の返済問題は、制度を知っているかどうかで結果が大きく変わります。減額返還・返還期限猶予・相談窓口の3つを親子で共有しておくだけで、延滞→ブラックリスト→住宅ローンが組めないという連鎖を防げます。
「お金を出す」ことだけが親のサポートではありません。情報を渡し、一緒に数字を見て、必要なときに相談先につなぐ。それが、子どもの返済期間を支える最も現実的な方法です。






