「俺、けっこう家事やってるほうだと思うんだけど」

時短復職して半年くらい経ったころ、僕は本気でそう思っていました。朝6時に起きて息子の朝食を作り、保育園に送って出社。17時に退勤してお迎えに行き、夕飯を作って風呂に入れて寝かしつけ。自分のなかでは「相当やっている」感覚だったんです。

ところがある日、妻からこう言われました。

あなたの家事リスト、本当にそれだけ?

この一言がきっかけで、僕たち夫婦は家事の「見える化」に取り組むことになりました。実際に育休取った身として言うと、育休中は家事の全体像がなんとなく見えていたはずなのに、復職した途端「自分がやっている家事」しか認識できなくなっていたんです。

「名もなき家事」とは何か──大和ハウスの調査が示す夫婦の認識ギャップ

「名もなき家事」という言葉は、大和ハウス工業が2017年に共働き夫婦を対象に行った意識調査で広まりました。洗濯・料理・掃除といった「名前のある家事」の裏に、無数の小さなタスクが隠れているという指摘です。

たとえばこんなものです。

  • 脱ぎっぱなしの服をクローゼットにかける
  • ゴミ袋をセットし直す
  • 保育園の連絡帳を書く
  • 子どもの爪を切る
  • 日用品の在庫を確認して買い足す
  • 季節の変わり目に衣替えをする

この調査では、夫が「自分は家事の3割をやっている」と自認しているのに対し、妻の認識は「夫は1割程度」という結果が出ました。夫の自己評価3割 vs 妻の評価1割。このギャップの正体が「名もなき家事」です。

総務省の社会生活基本調査(令和3年)でも、6歳未満の子を持つ夫の家事関連時間は1日あたり約1時間54分。一方で妻は7時間28分。約4倍の差があります。僕自身、時短勤務で「普通のパパよりやっている」と思っていましたが、この数字を見て冷や汗が出ました。

ステップ1:夫婦で「家事の棚卸し」──付箋1枚に1タスクで全部書き出す

僕たちが最初にやったのは、週末の2時間を使って家事を全部書き出すことでした。

やり方はシンプルです。

  1. 付箋を大量に用意する
  2. 「1枚に1つの家事タスク」を思いつく限り書く(夫婦それぞれ別々に)
  3. テーブルに全部並べて、カテゴリ分けする

僕が書き出したのは32枚。妻は67枚でした。

妻の付箋には「保育園のシーツを金曜に持ち帰って洗う」「子どもの靴のサイズを定期的にチェックする」「予防接種のスケジュール管理」「季節の製作に使う材料を用意する」など、僕が完全に視界の外に置いていたタスクがびっしり並んでいました。

福井県が公開している「共家事チェックリスト」を参考にすると、家事は大きく以下の7カテゴリに分けられます。

  • 料理(献立・買い出し・調理・片付け・作り置き)
  • 洗濯(仕分け・洗い・干し・取り込み・アイロン・収納)
  • 掃除(日常清掃・水回り・ゴミ出し・季節清掃)
  • 育児(身支度・送迎・寝かしつけ・体調管理・行事対応)
  • 家計管理(家計簿・支払い・保険・公的手続き)
  • 対外調整(保育園連絡・町内会・親戚づきあい)
  • 段取り・管理(在庫管理・予定調整・情報収集)

このうち、僕が担当していたのはほぼ「料理の一部」「育児の送迎・寝かしつけ」「掃除のゴミ出し」だけ。7カテゴリ中、3カテゴリの一部しか触れていなかったのです。

ステップ2:「やってる感」の正体を数値化する──所要時間×頻度のマトリクス

付箋を並べただけでは「まだ自分もそこそこやってる」と思いがちです。そこで次に、各タスクの「所要時間×週あたりの頻度」を掛け算して、週あたりの合計時間を算出しました。

僕の担当タスクの合計は週あたり約12時間。妻の担当は週あたり約31時間でした。

つまり僕の負担割合は約28%。自分では「半分くらいやっている」と思い込んでいたのに、実際は3割にも届いていなかった。大和ハウスの調査結果そのままの構図が、わが家でも起きていたわけです。

特に差が大きかったのは「段取り・管理」カテゴリです。献立を考える、保育園の行事予定を把握する、子どもの服のサイズを管理する、かかりつけ医の予約を取る。こうした「考える系の家事」は、時間に換算しにくい上に、やっている本人以外には見えません。

上司にどう切り出したかなんですけど、復職面談で「17時以降は不可」と明言したとき、僕は「制約を明示することで周囲が調整しやすくなる」と実感しました。家事分担も同じでした。制約と負担を数字で見せることで、初めて「何をどう分け直すか」の議論が始まるのです。

ステップ3:「得意」と「嫌い」で再配分し、週1レビューで定着させる

数値化した後、僕たちは以下の3つの軸でタスクを再配分しました。

  1. 得意/苦手:料理は妻のほうが手際がいいが、僕は洗い物が苦にならない
  2. 時間帯の制約:僕は朝の保育園送りと夕方のお迎えが固定。妻は朝に余裕がある
  3. 外注・省力化できるか:食洗機導入、ネットスーパー活用、保育園の延長利用

具体的に僕が新しく引き受けたのは以下のタスクです。

  • 日用品の在庫管理と発注(Amazon定期便を設定)
  • 保育園の連絡帳記入(前夜に9割書いておく運用はそのまま)
  • 子どもの衣類サイズ管理(3ヶ月に1回チェック日をカレンダーに入れる)
  • 週末の作り置き(土曜の朝サウナから帰ったあとの時間を充てる)
  • 家計の固定費レビュー(月1回、児童手当の入金日に合わせて実施)

そして最も効果があったのは、毎週日曜の夜に10分間だけ「振り返りタイム」を設けたことです。

内容は3つだけ。

  • 今週、想定外に発生したタスクはあったか?
  • どちらかに偏りが出ていないか?
  • 来週の行事・イレギュラー予定の確認

これを8週間続けたところ、僕の負担割合は28%から約42%まで上がりました。50:50にはまだ届きませんが、妻いわく「数字より、見えないタスクの存在を認識してくれていること自体が大きい」とのこと。

「名もなき家事」を放置すると起きる3つの問題

家事分担の偏りを「まあいいか」で放置すると、共働き家庭には以下のリスクがあります。

1. 妻のキャリア機会が制限される

家事の段取り・管理を一手に引き受けていると、常に「頭の中の余白」が埋まっている状態になります。結果として、妻が仕事に集中できる時間が物理的にも心理的にも減り、昇進や異動のチャンスを逃しやすくなります。

2. 夫の「やってるつもり」が信頼を削る

自分では3割やっているつもりが、妻から見れば1割。この認識ギャップが積み重なると、「言っても分からない人」というレッテルが貼られ、家庭内のコミュニケーションコストが跳ね上がります。

3. 子どもへのロールモデルに影響する

時短復職のリアルは、子どもも見ています。僕が「すみません、お先に失礼します」と毎日謝りながら帰っていた時期、妻に「息子が大きくなったとき、パパが毎日謝りながら帰ってきてたって知ったらどう思うかな」と言われて退勤の言葉を変えたことがあります。家事分担も同じで、父親が家庭の運営に主体的に関わる姿は、子どもの将来の家族観に直結します。

仕組み化に使えるツール3選

僕たちが試して効果があったツールを紹介します。

1. 共有カレンダー(Googleカレンダー)

「保育園行事」「予防接種」「衣替え」など、定期タスクを繰り返し予定で登録。見えない家事を見える状態に固定できます。

2. 買い物リスト共有アプリ

「あ、醤油切れてた」を口頭で伝える名もなき家事を、共有リストに変えるだけで「伝達コスト」がゼロになります。わが家はAppleのリマインダーを使っています。

3. Notion or スプレッドシートで家事マトリクス管理

ステップ2で作った「タスク×所要時間×頻度×担当者」の表をデジタル化。月1回の見直し時に更新します。テンプレートは福井県の「共家事チェックリスト」がそのまま使えます。

よくある質問(FAQ)

Q1. 家事の棚卸しを提案したら「そんな暇ない」と言われました

最初から2時間確保しようとすると腰が重くなります。まずは1人で自分の担当分だけ書き出し、「これだけしか書けなかった」と見せるほうが効果的です。相手のタスクの多さを想像させるきっかけになります。

Q2. 名もなき家事の棚卸しは何枚くらい出るのが普通ですか?

東京すくすくの記事では、コピーライターが自身の1日の名もなき家事を書き出したところ120種類に達したという事例があります。子育て世帯なら50〜80項目が一般的な目安です。

Q3. 夫婦で負担を50:50にすべきですか?

必ずしも50:50が正解ではありません。勤務時間・通勤時間・得意不得意を考慮した上で、双方が「これなら納得できる」と感じる比率が最適解です。大事なのは比率よりも「合意のプロセス」です。

Q4. 時短勤務パパが家事を増やすと、仕事のパフォーマンスに影響しませんか?

僕の実感では、段取り力が上がりました。家事の優先順位づけは仕事のタスク管理と同じ構造です。また、「頭の中の家事」を仕組み化して減らすことで、仕事中の認知負荷がむしろ下がったと感じています。

Q5. 外注(家事代行)はどこまで使っていいですか?

予算が許す範囲で積極的に使うべきです。「夫婦のどちらがやるか」の二択で揉めるくらいなら、第三の選択肢として外注を入れるのは合理的です。わが家では月1回の水回り掃除だけ外注しています。

まとめ:見える化は「家事を増やす」ためではなく「認識を揃える」ため

家事の見える化は、どちらかを責めるための作業ではありません。「見えていなかったものを見えるようにして、そこから一緒に再設計する」ためのプロセスです。

僕の場合、育休中は家事の全体像が見えていたのに、復職して業務に追われるうちに視野が狭くなっていました。定期的に棚卸しをすることで、その視野の狭まりに気づける仕組みを家庭の中に作っておくことが大切だと感じています。

完璧な分担は存在しません。でも、「見えていないことに気づく」だけで、夫婦の温度差は確実に縮まります

参考文献