令和8年度全国学力テストの分析結果が8月3日に公表された。国語・数学の結果はすでに話題になっているが、英語の数字もなかなか重い。中学3年の「書くこと」設問10(2)の正答率は28.4%。無解答率は14.4%。上位層は8割が正解できる一方、下位層では約4割が鉛筆を置いてしまった。
文科省の発表を読み解くと、今回の分析で特筆すべきは数字だけではない。国立教育政策研究所は「国語・英語に共通の弱点は根拠を示す力」と明記した。国語で問われていた課題が、そのまま英語でも現れている。英語力の問題ではなく、言語を超えた構造的な課題だ。
中3英語「書くこと」28.4%が意味すること
2026年度の全国学力テストは、中学校英語において4技能(聞くこと・読むこと・書くこと・話すこと)をCBT(コンピュータを使ったテスト)で初めて実施した年だ。「書くこと」の設問10(2)では、インターネット活用に関する英文を読んで、自分の意見とその理由を英語で書く問題が出た。正答率は28.4%、無解答率は14.4%だった。
「話すこと」の設問でも同様の傾向がある。社会的な話題について聞いた内容を踏まえ、自分の考えと理由を述べる問題では、中位層でも約3割が理由を言語化できなかった。前回2023年に実施した際の「話すこと」全国平均正答率は12.4%と非常に低く、今回はテスト時間を5分から20分に拡大して対応したが、理由を説明する力の弱さは変わらなかった。
共通するパターンは一つだ。意見そのものは言える。しかし「なぜそう思うのか」の説明がつながらない。これは問題形式の難しさではなく、思考のプロセスが途切れているサインだ。
英語と国語で同じ弱点が出た「根拠を示す力」の構造
この構造には見覚えがある。同じ2026年度全国学力テストで、国語でも「本の内容を引用しながら自分の意見を書く」問題の正答率は33.6%にとどまった。国立教育政策研究所は「自分の考えを伝える際に、考えと根拠を区別して表現することを意識させる指導が重要」と分析している。
学習指導要領の本文には、「読むこと」の指導事項として①構造と内容の把握、②精査・解釈、③考えの形成・共有という3段階が示されている。弱点があるのは一貫して③の「考えの形成・共有」段階、つまり根拠を持って意見を述べるプロセスだ。
日本語で③ができていない子は、英語でも③に詰まる。英語学習の量や発音の正確さとは、別の問題として存在している。「英語が苦手だから」と判断して英語の練習量だけ増やしても、根本の構造が変わらない限り「書けない」は解消しない。国語の課題と英語の課題を、切り離して考えてしまっている保護者が多いのが現状だ。
小学校英語が「書くこと」を先送りにしてきた接続の断絶
もう一つ背景として押さえたいのが、小中の接続問題だ。小学3〜4年生の「外国語活動」は聞くこと・話すことが中心で、書くことは対象外。小学5〜6年生の「外国語」で初めて読む・書くが加わるが、文字に慣れる段階として扱われる。
そして中学校に入ると、いきなり「読んで意見と理由を英語で書く」という課題が登場する。段差が大きい。さらに言えば、「意見と理由を書く」という形式は、中学校英語の前に日本語で十分に練習されていない場合が多い。英語の表現形式を学ぶ前に、日本語での論理展開の型が身についていないまま中学英語に進んでいる子が相当数いる。
英語教育の研究者からも、語彙数が大幅に増えた一方で指導すべき語彙の選定基準が十分に示されておらず、教科書ごとにばらつきが生じているという指摘が出ている。「中学英語が急に難しくなった」と感じる保護者が多いのは、こうした複数の断絶が重なっているためだ。
2026年5月に文科省が示した高校国語の科目再編案でも、文学作品への接触機会を増やし「論理と感性の両立」を目指す方向性が打ち出されている。現行では「論理国語」の選択率が77%に対し「文学国語」は49%で、文章を読んで感じたことを言語化する経験が減っている懸念があった。制度のレベルでも「書く力」の育成が改めて問われている。
家庭でできる「言語化3段階」の実践
根拠を示して意見を書く力は、特別な教材なしに日常の会話から育てられる。以下の3段階を、日本語から始めて英語へ接続する形で試してほしい。
段階1:日本語で「意見→理由→根拠」の型を体に入れる
食卓で話題を一つ決めて、「どう思う?なぜ?それを説明できる事実はある?」の順で問いかける。答えを評価するのではなく、「理由を2〜3文で言ってみて」という型を繰り返す。国語の記述問題でつまずく子の多くが、この「型」を知らないまま白紙になっている。答えの正しさより、型を使う経験そのものが目的だ。
段階2:英語で「short opinion + because」を1文だけ
日本語で型が定着してきたら、「英語でも言ってみて」の一言を加える。I think SV + because SV. という最小形から始める。文法の正確さは後でいい。「理由を英語でも言えた」という経験の積み重ねが、「書くこと」への抵抗を下げる。
段階3:学校の英作文課題を「型」で解体してから取り組む
英作文の宿題が出たとき、まず日本語で「意見・理由・根拠」を箇条書きにしてから英語に変換するプロセスを習慣にする。英語力不足で詰まっているのではなく、構造が見えていないために書けない場合が多い。日本語で構造が見えれば、英語は辞書で補える。この順序を知っているだけで、英作文への向き合い方が変わる。
国語の「根拠を示す力」の弱点を分析していた際も、同じ結論にたどり着いた。教科を横断して「根拠ある意見を述べる」という認知のプロセスは同一の構造をしている。英語の正答率28.4%は、英語教育だけの課題ではない。言語横断的な「論拠力」の土台を、家庭の会話レベルで育てることが最短の道だ。
FAQ
中3英語「書くこと」が苦手なのは、英語力が足りないからですか?
必ずしもそうではありません。2026年度全国学力テストの分析では、「意見は言えるが理由が説明できない」パターンが目立ちました。国語でも同じ傾向があり、英語固有の問題というより「根拠を示して意見を述べる」という思考の型が身についていないことが構造的な原因と分析されています。英語の練習量を増やす前に、日本語で「意見→理由→根拠」の型を練習する方が効果的な場合がほとんどです。
小学校英語はどれだけ「書くこと」を教えているのですか?
小学3〜4年の「外国語活動」では書くことは対象外で、聞く・話すが中心です。小学5〜6年の「外国語」で文字に慣れる段階として読む・書くが加わりますが、「意見と理由を書く」形式の訓練は実質的に中学校から始まります。この急な段差が、中学英語で「書けない」を生む一因になっています。
英会話教室に通わせれば「書く力」が伸びますか?
英会話教室は「話す・聞く」を中心に扱うことが多く、「根拠を示して書く」練習とは直接つながらないケースがあります。「書くこと」の正答率28.4%という課題を解決するうえでは、日本語で論理構造を組み立てる練習と、英語で「意見+because+理由」の型を反復する練習を組み合わせる方が効果的です。費用をかける前に、家庭の会話から始めてみてください。
全国学力テストの英語CBTは今後も続くのですか?
文部科学省は令和8年度(2026年度)の調査で中学校英語に4技能CBTを初導入しました。4技能評価の方向性は次期学習指導要領でも継続される見通しで、「書くこと」「話すこと」の評価比重は今後さらに高まると予想されます。
高校の「論理国語」と「文学国語」の選択は、子どもの書く力に影響しますか?
影響する可能性があります。2025年度の文科省調べでは「論理国語」の選択率が77%に対し「文学国語」は49%にとどまります。文学作品を読んで感じたことを言語化する経験が減ると、「意見の根拠となる感性・体験の語彙」が育ちにくくなる懸念があります。2026年5月の文科省科目再編案でも文学教育の強化が打ち出されており、制度レベルでも問題認識は共有されています。
参考文献
- 令和8年度 全国学力・学習状況調査 実施について — 文部科学省
- 【全国学力テスト】2026年度分析結果公表、国語・英語に共通の弱点は「根拠を示す力」 — 教育業界ニュース ReseEd(リシード), 2026年8月4日
- 全国学力テスト、中3英語「意見と理由話す」苦手 — 日本経済新聞, 2026年7月
- 【全国学力テスト】小中の平均正答率を公表、中学英語は4技能CBTを初実施 — リセマム, 2026年7月16日
- 高校国語で科目再編案 文科省、論理的な表現育成へ選択4→6科目に — 日本経済新聞, 2026年5月






