「9月から過去問を始めると言われていたのに、塾の宿題も減らないし、学校の宿題もある。毎晩子どもが机の前で固まっています」
こんな相談が9月に入ると集中する。毎年、9月第1週から第3週にかけてコンサルへの問い合わせが急増する。内容はほぼ同じだ。塾の通常授業が再開して週テストの宿題も戻ってくる。同時に塾からは「9月から過去問演習を始めてください」と言われる。そこに学校の宿題が加わる。どれも「全部やるべき」に見えるために、全部やろうとして、全部中途半端になる。
18年で1500家庭以上を見てきた経験から言えるのは、この「宿題三重苦」で10月以降に失速した家庭のほとんどが、最初に優先順位を設計しなかったという点だ。
今回は、9月の「宿題vs過去問」の優先順位をどう設計するか、3つの基準で整理する。
なぜ9月に「宿題三重苦」が起きるのか
9月は受験勉強のフェーズが大きく変わる月だ。夏期講習中は「単元のインプット」が主だったが、9月からは「過去問演習(アウトプット)」に重心が移る。
問題は、塾のカリキュラムがこの転換に完全には追いついていないことにある。9月に入っても塾の週テスト・単元テストのための宿題は通常通り出続ける。塾側の論理としては「演習と並行してカリキュラムを完走する必要がある」というものだが、家庭の学習時間は有限だ。
小6の平日の学習可能時間は、学校から帰って塾に行き、帰宅後にこなせる時間を計算すると、実質1.5〜2時間が現実的な上限だ。そこに①塾の宿題(週テスト・演習問題)、②過去問演習(1回60〜90分)、③学校の宿題が全部乗ってくる。「全部やる」は物理的に不可能なのだ。
よくある失敗:「全部やろうとして全部中途半端」
失敗パターンは毎年同じだ。
- 塾の宿題を終わらせようとして過去問に手がつかない
- 過去問を解いたら宿題が残り、子どもが夜11時を超えても机に向かう
- 睡眠が削られ、翌日の授業の定着率が落ちる
- 10月になっても過去問の周回数が積み上がらず、11月に焦る
このパターンに陥る家庭は、「宿題はすべてやらなければならない」という前提を疑っていない。しかし、偏差値表ではなく過去問との相性で見ると、塾の宿題の中には「今の自分の志望校対策にはあまり関係のない単元」が相当数含まれていることに気づく。
宿題を「全部」こなすのではなく、「志望校合格に直結する部分を選んでこなす」という発想への転換が、9月の最重要課題だ。
宿題取捨選択の3基準
基準① 志望校の出題マップと照合し、「頻出外の単元宿題」を削る
まず、志望校の過去問5年分を使って作成した出題マップ(科目×単元×出題形式のマトリクス)を手元に置く。塾から出た宿題の単元を見て、「この単元は志望校に頻出か?」を確認する。
頻出でなく、かつ子どもが比較的得意な単元の宿題は、優先度を下げてよい。具体的には「問題を1問だけ解いて感触を確認する」程度に縮小することが合理的だ。
逆に、志望校で配点の高い単元の宿題は、過去問と同じ重みで取り組む。宿題と過去問が「同じ方向を向いている」ときに限り、宿題が過去問対策を兼ねる。
コンサルで偏差値58の家庭を担当したとき、志望校の理科で天体単元が配点の約35%を占めていた。理科の天体関連の宿題は1ページも削らず、それ以外の単元宿題は大幅に縮小した。3週間後、天体の過去問得点率が80%台に入り、合格最低点を射程に収めた。これが出題マップ照合の実例だ。
基準② 失点3分類で「立式不能の単元だけ」宿題でフォローする
塾の宿題の目的は何か。本来は「授業内容の定着」だが、9月以降はこれを「過去問の失点補強」に読み替える必要がある。
模試や過去問の失点を、①計算ミス、②立式不能、③途中停止の3つに分類したとき、宿題が意味を持つのは主に「②立式不能」の単元だ。
- 計算ミス型の失点:宿題の量より計算の習慣設計(声出し計算・清書ステップ)で対処する。宿題量を増やしても解決しない。
- 立式不能型の失点:概念の穴があるので、宿題で同単元の問題を繰り返すことに意味がある。ここは削らない。
- 途中停止型の失点:解法パターンの未習熟なので、過去問の出題形式に合わせた演習が優先。塾の宿題より過去問対策に時間を使う。
失点3分類で現在の課題単元を特定し、「立式不能の単元だけ塾の宿題を優先する」と決めると、宿題量が自然に半分以下に絞れる家庭が多い。偏差値58の小5男子を担当したとき、失点3分類で割合と速さの「立式不能」を特定し、塾の宿題を2割削減してその単元に集中投下した。3か月後に偏差値が62に回復した。学習時間は増やさず、削る設計だけで成果が出た。
基準③ 「週の復習可能コマ数」を先に計算してから宿題量を決める
親が動く範囲を最初に決める、というのが9月の大原則だ。この「親が動く範囲」には、宿題を全部こなせるかどうかの現実的な見積もりが入る。
1週間の学習可能時間から逆算する。たとえば平日5日×1.5時間+土日4時間=11.5時間が上限の家庭なら、過去問演習に週3〜4コマ(1コマ90分)を確保すると約5〜6時間は過去問に使う計算になる。残りが約5〜6時間だ。
塾の宿題の実質所要時間を計算すると、多くの家庭で週8〜10時間分が出てくる。5時間しか使えないなら、最低でも3〜5時間分の宿題を削らなければ過去問が回せない。
この計算を先に行ったうえで、基準①②に沿って「削る宿題」と「残す宿題」を仕分けする。感情で「全部やらなきゃ」と思うのではなく、数字で「削ることが合理的」と確認する。これが親の仕事だ。
塾への相談は「お願い」ではなく「提案」で行う
宿題を削ることに罪悪感を持つ保護者は多い。しかし、塾の担当講師に「過去問演習を優先するために、〇〇単元の宿題を縮小してもよいですか?」と提案することは全く問題ない。むしろ推奨する。
優秀な塾の先生であれば、子どもの現状と志望校の出題マップを把握したうえで、宿題量の調整に応じてくれる。「全部やることが正しい」という塾の言葉を鵜呑みにするのではなく、「この子の志望校合格に何が必要か」を軸に相談の議題を作る。
その相談のために必要なのが、過去問5年分の出題マップと失点3分類のデータだ。この2枚の紙があれば、「なぜこの単元を優先したいか」が説明できる。志望校選定の段階で勝負は決まっている、という言葉と同じ意味で、9月の設計段階で11月以降の成果が構造的に決まる。
9月〜10月の週間スケジュール設計例
以下は週6日(月〜土)のスケジュール設計の一例だ。
| 曜日 | メイン学習 | 宿題の扱い |
|---|---|---|
| 月曜 | 塾(授業) | 帰宅後:翌日提出分の最小限のみ |
| 火曜 | 過去問演習①(90分)+失点3分類記録(15分) | 立式不能単元の宿題のみ |
| 水曜 | 塾(授業) | 帰宅後:翌日提出分の最小限のみ |
| 木曜 | 立式不能単元の集中復習(60分)+説明タイム(10分) | 週テスト準備(頻出単元に絞る) |
| 金曜 | 塾(週テスト) | 週テスト後:過去問の失点箇所確認 |
| 土曜 | 過去問演習②(90分)+説明タイム(10分) | 頻出外単元は省略 |
日曜はリセット日とし、学習量を通常の3割以下に抑える。説明タイムだけ残し、午後は休養させる。
「全部やらせる」より「削ることを設計する」が親の仕事
9月から10月にかけての親の最重要タスクは、子どもの勉強量を増やすことではなく、削る優先順位を設計することだ。
「宿題を全部やらせなければ」という思いは理解できる。しかし、宿題を全部こなすために就寝が23時を超え、脳が疲弊した状態で過去問に向かい続ける家庭が、秋以降に急失速するのは毎年見てきたパターンだ。夜更かし勉強が成績を下げる理由は単純で、前頭前野が疲弊すれば立式能力が落ち、睡眠中の記憶固定化が阻害される。
削ることは手抜きではない。志望校に合格するために「今最も効果的な時間の使い方」を選ぶ判断だ。この判断を9月の第1週に設計できた家庭が、11月に過去問得点率70%のデッドラインを安定して超える。
よくある質問
Q1. 塾の先生に「宿題を削りたい」と相談すると「全部やってください」と言われた場合はどうすればよいですか?
過去問演習に週何時間を充てる必要があるかを逆算した数字と、志望校の出題マップで削りたい単元が頻出でないことの2点をデータで示してください。感情的な交渉ではなく根拠のある提案として伝えることで、多くの先生は柔軟に対応してくれます。それでも削減に応じない場合は、家庭の判断として自律的に取捨選択することも選択肢です。
Q2. 宿題を削ると週テストの成績が下がりませんか?
短期的に週テストの点数が下がる可能性はあります。しかし、週テストの結果は志望校合格の直接的な指標ではありません。9月以降は「志望校の過去問で点が取れるか」が唯一の目標です。週テストの偏差値が少し下がっても、過去問得点率が上がっているなら設計は正しい方向に動いています。
Q3. 過去問と宿題、どちらを先にやらせるべきですか?
原則として過去問演習を先に行い、宿題を後に回してください。過去問は「志望校でどれだけ点が取れるか」を確認する最重要の学習ツールです。宿題を先に終わらせて過去問に取りかかれない日を作るより、過去問を先にこなして宿題の一部を翌日に回す設計のほうが、秋以降の伸びにつながります。
Q4. 過去問の演習時間はどの程度確保すればよいですか?
9月〜10月は週2回(各90分)を最低ラインとしてください。第一志望の過去問を9月から始め、第二志望・安全校は10月以降に組み込む順序が標準的な設計です。週2回の演習を確保できない週は、宿題の量を見直す必要があります。過去問の回数が足りないまま11月を迎えた家庭が、最も焦るパターンです。
Q5. 子どもが「全部の宿題をやりたい」と言って削ることを嫌がります。どうすればよいですか?
削る理由を子どもに説明してください。「この単元は志望校にあまり出ないから、今は出題が多いこちらを先にやる」と、出題マップを見せながら話すことが有効です。子どもが納得した状態で学習量を絞ることで、残した宿題への集中度が上がります。親が一方的に削ると反発しますが、子どもが「自分の判断」として理解すれば受け入れやすくなります。
参考文献
- 文部科学省「学習指導要領(平成29・30・31年改訂版)解説 算数・数学編」(文部科学省, 2018年)
- 栄光ゼミナール「中学受験の実態に関する調査レポート2026年版」(株式会社栄光, 2026年)
- 進学塾SAPIX「小6秋の学習指針・家庭学習のポイント」(SAPIX, 2025年9月版)





