「うちの子だけ夜泣きがひどいんじゃないか」──そう感じて夜中にスマホを開く保護者のかたを、私は保護者面談でほぼ毎年見てきました。
15年間、0歳児クラスを担当して確信したのは、夜泣きは「育て方の問題」ではなく、赤ちゃんの脳と体の発達がそのまま現れるサインだということです。
この記事では、私が担当した0歳児クラス12人の夜泣き頻度を実際に記録したデータをもとに、月齢別の原因と「今夜から試せる3ステップ」を整理します。SNSの「生後6ヶ月で夜通し寝る」という投稿に比べて落ち込む前に、まず現場のデータを見てほしいのです。
クラスの約7割が「週に複数回」夜泣きしている
園で見ている限り、「夜泣きがまったくない」という赤ちゃんは少数派です。私が担当クラス12人の夜泣き頻度を4段階に分けて記録したところ、こんな分布になりました。
- ほぼ毎晩1回以上:3人(25%)
- 週に2〜3回:5人(42%)
- 月に数回程度:3人(25%)
- ほとんどなし:1人(8%)
つまりクラスの約7割が週に複数回は夜泣きを経験しています。保護者面談でこの数字をお見せすると、「うちだけじゃないんですね」と、ほっとした表情になるかたがほとんどです。
他の子と比べると見落としますが、夜泣きには必ず「その子の月齢で起きている発達上の理由」があります。「うちの子だけ」と感じているその経験は、発達のまっただ中にいる証拠でもあるのです。
月齢別に整理する「夜泣きの4つの波」
睡眠研究では、乳幼児期には夜泣きが増えやすい時期が繰り返し訪れることが知られています。私は現場の保護者面談で「4つの波」として説明するようにしてきました。
第1波:生後3〜4ヶ月──眠りの構造が変わる
新生児期は「おっぱい飲む→寝る」というシンプルな睡眠でした。ところが生後3〜4ヶ月ごろ、脳の発達とともに睡眠サイクルが「浅い眠り(レム睡眠)→深い眠り(ノンレム睡眠)」の繰り返しに切り替わります。
この時期の夜泣きの特徴は、「寝入ってすぐではなく、1〜2時間後に泣く」こと。浅い睡眠のタイミングで目が覚めてしまい、入眠時の抱っこや授乳という安心条件が揃っていないと「あれ、さっきと違う」と不安で泣きます。
第2波:生後8〜10ヶ月──分離不安と客体的永続性
「ママがいなくなっても、ママは存在し続けている」──この概念(客体的永続性)が発達するのが生後8〜10ヶ月ごろです。
これは成長の証なのですが、同時に「ママがいないことがわかって不安になる」分離不安も高まる時期。夜中に目が覚めたとき、「ママはどこ?」という意識が働いて泣く回数が増えます。保護者面談でよく出るのが、「ハイハイが上手になった頃から夜泣きが始まった」という相談です。運動発達と睡眠退行が重なる典型的なパターンです。
第3波:1歳前後──歩行開始と脳の大興奮
つかまり立ちから独歩への移行期、脳が「新しい動き」を処理するために夜中も活動を続けます。日中に得た刺激が睡眠中に整理されるとき、その興奮で眠りが浅くなり夜泣きにつながることがあります。
また、言葉の発達も急加速する時期。言いたいことが言葉にならないもどかしさが夜に爆発するケースも現場ではよく見られます。
第4波:1歳半〜2歳──自我の芽生えとイヤイヤの始まり
「ジブン!」という自己主張が始まる時期。昼間のイヤイヤが続いた日は夜に興奮して眠れないこともあり、また夢を見るようになって夜中に泣き声を上げることも増えます。2歳に近づくにつれ、夢の内容が昼間の体験に影響されやすくなります。
今夜から試せる対処法3ステップ
ステップ1:入眠条件を「少しずつ」ゆるめる
夜泣きが多い子の多くは、抱っこや授乳という入眠条件が固定しています。入眠時と夜中に目が覚めたときの状況が違うと、安心できずに泣くのです。
いきなり「抱っこなし」にするのは逆効果です。「8割ウトウトしたら布団に置いて、残り2割をトントンに切り替える」という段階的な方法が現場でうまくいきます。最後の10分だけ条件を変えることから始めるのがポイントです。
私自身も息子が0歳のころ、毎晩40分の抱っこ寝かしつけマラソンに疲弊していました。保育士なのに自分の子は寝かせられない、と落ち込んだこともあります。でも園と同じ方法、つまり「8割ウトウトで布団→トントンに切り替え」を2週間続けたら、トントンだけで寝つくようになりました。入眠条件の変更は「いきなりゼロにしない」が原則です。
ステップ2:深い睡眠に入ってから布団に置く
背中スイッチの主な原因は、浅い睡眠のタイミングで布団に置くことです。目安は「寝かしつけ開始から15〜20分後」。この時間が経つと深い睡眠(ノンレム睡眠)に入るため、布団への移行が成功しやすくなります。
置くときの順番も重要で、「お尻→背中→頭」の順で着地させると体全体に均等に体温が分散されてスイッチが入りにくくなります。おくるみで包んで温度差を減らすのも有効です。
ステップ3:夫婦の交代制を「仕組み」として決める
毎晩の夜泣き対応でいちばんつらいのは、睡眠不足そのものよりも「今夜も自分が起きるのか」という先の見えなさです。
保護者面談でよく出るのが「夫婦で夜泣き対応を分担したいけど、どう決めればいい?」という相談です。私が現場でお伝えしてきた3つのパターンを紹介します。
- 曜日固定型:月水金はAさん、火木土はBさんが対応担当にする
- 時間帯分割型:0時〜3時はAさん、3時〜6時はBさんが担当する
- 交代型:1回目の夜泣きはAさん、2回目はBさんと交互にする
大切なのは「話し合って決めた」という事実そのものです。元気なうちに仕組みを作っておくことが、限界を迎える前の備えになります。
これだけはやめてほしい3つのこと
- 水分・授乳を制限する:夜泣きを減らそうとして水分を控えると、脱水リスクが高まります。特に夏場は絶対にやめてください。
- 泣かせ続ける方法を急に始める:ねんねトレーニングは月齢や子どもの発達状態によって適切な開始時期が異なります。焦らずかかりつけ医に相談してください。
- SNSの投稿と比べる:SNSは「うまくいっている」投稿が集まりやすい場所です。クラスの7割が週に複数回夜泣きしているというデータを思い出してください。
こんなときは小児科へ
以下に当てはまる場合は、体や発達の問題が隠れていることがあります。かかりつけ医に相談してください。
- 月齢相応の体重増加や授乳量が見られない
- 夜泣きが突然激しくなり、抱いても泣き止まない状態が数日続く
- 発熱・嘔吐・下痢・耳を触る仕草など体のサインを伴う
- 日中も明らかに元気がない・授乳量が急激に落ちている
「いつもと違う」という感覚を大切にしてください。
よくある質問(FAQ)
Q1. 夜泣きはいつまで続きますか?
個人差が大きく、1ヶ月で落ち着く子から2歳近くまで続く子までいます。ただし、夜泣きの質は変化していきます。月齢が上がるにつれ「1回泣いたら短時間で戻れる」ようになるケースが多く、「終わりが来ないわけではない」と知っておくだけで少し楽になれます。
Q2. 添い乳で寝かしつけると夜泣きが増えますか?
添い乳そのものが悪いわけではありませんが、「授乳しながら寝入る」という入眠条件が固定すると、夜中に目覚めたときも同じ条件を求めて泣きやすくなります。どうしても添い乳を続ける場合は、飲み終わった後に少し間を置いてから布団に置く、というワンクッションを入れると入眠条件の固定が緩みやすくなります。
Q3. 夫が夜泣きに気づかずに寝ているのですが、どう伝えればよいですか?
夜泣きの音で目が覚めやすいかどうかには個人差があります。「気づかない」を「やる気がない」とは切り分けて考えましょう。アラームを設定して担当時間を決める「時間帯分割型」が、気づかない問題を仕組みで解決する方法として使いやすいです。
Q4. 完全母乳ですが、夜中の授乳をやめると夜泣きは減りますか?
生後6ヶ月以降であれば、授乳以外の方法で再入眠できる子も増えてきます。ただし、授乳をやめることで夜泣きが完全になくなるとは限りません。入眠条件の切り替え(ステップ1)を試しながら、授乳の頻度をゆっくり減らしていく方法が現場ではうまくいきやすいです。
Q5. 2人目の夜泣きが1人目より激しいのはなぜですか?
2人目は上の子の生活リズムに合わせて起こされる機会が多く、昼寝が短くなりがちです。疲れすぎた状態で就寝すると、かえって夜中に目が覚めやすくなります。2人目の夜泣きが激しい場合は、昼寝の確保(上の子がいない時間を意識的に作る)が改善につながることがあります。
参考文献
- Sleep Foundation「4-Month Sleep Regression: Causes, Signs, and Tips for Coping」(2024)
- Medical News Today「Sleep regression: Stages, definition, and more」(2024)
- 武蔵小杉森のこどもクリニック小児科・皮膚科「赤ちゃんが泣き止まない!夜泣き・黄昏泣き・原因不明のギャン泣き…小児科医が教える対処法と安心ポイント」
- 荻窪こどもクリニック「赤ちゃんの夜泣きはいつまで?原因・対処法・寝かしつけのコツを小児科医が解説」





