2026年度(令和8年度)の大学入学共通テスト国語の平均点は116.08点。前年度(2025年度)の126.67点から約10.59点低下した(河合塾Kei-Net公表データより)。SNSでは「急に難しくなった」「時間が足りない」という受験生の声があふれたが、文科省の発表を読み解くと、問題はもっと構造的な場所にある。
本稿では、国語の平均点低下の背景にある「読みの設計」の問題を学習指導要領と文科省の高校国語改革案から構造的に整理し、保護者が今秋から子どもに提供できる具体的な備えを3ステップで示す。
「時間が足りない」は技術の問題ではない
共通テスト国語は2025年度から試験時間が80分から90分に延長された。それでも「時間が足りない」という声は減っていない。大問5問構成は次のとおりだ。
- 第1問:評論(近代以降の論理的文章)45点
- 第2問:小説(近代以降の文学的文章)45点
- 第3問:資料型(実用文・複数資料の読み取り)20点
- 第4問:古文 45点
- 第5問:漢文 45点
受験生の多くは「読む速度を上げる」「設問から先に読む」といった技術論に走る。だが、2026年度の問題分析で浮き彫りになったのは、「読みの入口を間違えている」という根本的な問題だ。評論・小説は1つの文章の内容を的確に読み取る力を問う「読解力重視」の出題が続いており、処理速度ではなく「文章の構造を最初の数分で正確に把握できるか」が得点を左右する。
2026年度の国語は第1問(評論)・第2問(小説)ともに単独の文章からの出題で、Z会の分析によれば「読みやすい文体の文章で文章の内容そのものを的確に読み取る力を問う」出題方針が確認されている。つまり問題そのものは過去最高難度ではなく、「読みの入口設計」ができていない受験生が詰まった、という構造だ。
文科省が高校国語を「再編」しようとしている理由
2026年5月、文科省は中教審の作業部会で高校国語の選択科目を4科目から6科目に再編する案を示した。現行の「論理国語」「文学国語」「国語表現」「古典探究」を見直し、「現代の国語Ⅱ」「論説と批評」「対話と表現」「言語文化Ⅱ」「文学と叙述」「古典と文化」(いずれも仮称)への移行方針だ。
学習指導要領の本文には「主体的に読む力」「文章の構造を把握する力」という目標が明記されているにもかかわらず、現場では大学入試と関係の深い科目(論理国語)への履修集中が起きているという課題がある。文学国語を選ばなかった高校が多い結果、「読みの多様性」が育たないまま共通テストに臨む生徒が増えている。文科省が再編を検討しているのは、この履修偏在を是正するためだ。
大学側の意図はこういう構造です——共通テストが第3問として「資料型」(複数資料の統合的読み取り)を2025年度から新設したのも、論理的文章と文学的文章の両方を読みこなす力が大学での学びに必要だからだ。「論理か文学か」どちらかだけで準備した受験生が第3問で詰まりやすいのは、この制度設計との間にある構造的なミスマッチの結果でもある。
学習指導要領「読むこと」の3段階から見る本質
高等学校学習指導要領(平成30年告示)の国語「読むこと」の指導事項は3段階で構成されている。
- 構造と内容の把握:文章の構造や論理展開を理解する段階
- 精査・解釈:語句の意味や表現効果を吟味し、内容を深く理解する段階
- 考えの形成・共有:読んだ内容をもとに自分の意見を形成・表現する段階
共通テスト国語の各大問は、この3段階に対応した設問で構成されている。第1問・第2問の評論・小説では①②の力が問われ、第3問の資料型では①②に加えて「複数の情報を統合して考えを整理する力」(③に近い力)が問われる。得点が伸び悩む受験生の多くは、①の「構造把握」を最初の数分で終わらせるスキルが身についていない。
英語民間試験の報道が「賛成か反対か」の二項対立に終始していた頃、私が原典を読んで気づいたのも同じことだった。拡散される情報は構造の一部を切り取る。共通テスト国語の「時間不足」も同じ構造だ——問題が難化したのではなく、学習指導要領が要求する「読みの設計力」の育成が追いついていない。
秋から16週間で積み上げる「読みの設計」3ステップ
本番まで16週(9月〜1月)の今から、家庭でできる備えを3段階に整理する。費用はいずれもゼロで始められる。
ステップ1(9〜10月前半):「構造を先に読む」習慣をつける
評論・小説ともに、最初の段落と最後の段落を先に読んで「何の文章か」を30秒以内に把握する訓練を週3回行う。教科書の評論文を使ってよい。「この文章は何について、著者はどう主張しているか」を1行でまとめる練習を、設問を解く前に行うことが目標だ。
これは速読訓練ではなく、指導要領①「構造と内容の把握」の直接訓練だ。この習慣が身につくと、本番での冒頭30秒の使い方が変わる。
ステップ2(10月後半〜11月):「第3問」を得点源として設計する
20点の第3問(資料型)は、文字量が少なく設問の難易度が比較的安定している。ところが多くの受験生は「見慣れない形式」として後回しにしがちだ。2026年度の第3問は「比較的素直な設問が多い」(Z会分析)とされており、逆に時間をかけすぎずに処理する練習こそが有効になる。
10月からは週1回、第3問形式の問題(複数資料を読んで文章を修正・加筆する設問)を時間計測で解く。目標処理時間は15分以内。現時点で第3問の対策を後回しにしている家庭は、この設問が「確実に取れる20点」になりうることを認識したい。
ステップ3(12月〜1月):90分の時間割を「固定化」して崩れを確認する
一般的な時間配分の目安は次のとおりだ。
- 第1問(評論):20分
- 第2問(小説):20分
- 第3問(資料型):12〜15分
- 第4問(古文):20分
- 第5問(漢文):15分
「固定化」が目的ではなく、「固定化した配分でどこが崩れるかを本番前に確認する」ことが目的だ。12月から共通テスト形式の演習で時間計測を習慣にし、崩れたときのリカバリー順序(第3問か第5問を短縮する)を本番前に意識に刻む。古文・漢文が苦手な場合は現代文3問を確実に固め、古典で残り時間を使う戦略設計をこの段階で確定させる。
保護者が今すぐできること
「速読練習をさせる」「問題集を買い足す」より先に、家庭で費用ゼロでできる介入が3つある。
- 「この文章は何を言いたかった?」という1問を習慣化する:夕食後に本・新聞・教科書の1段落を読ませ、この質問を1回する。指導要領①「構造と内容の把握」の訓練が日常に組み込まれる。
- 学校の「論理国語」「文学国語」の選択状況を確認する:論理国語のみ履修の場合、文学的文章の読み慣れが不足しがちだ。学校外で小説・随筆を月2冊読む習慣を補完するよう促す。
- 「時間が足りない」と言ったら原因を分解する:「読むのが遅い」か「設問の読み方が遅い」かを切り分ける。前者なら①の練習、後者なら設問形式への慣れが優先課題だ。原因を特定せずに「もっと練習しろ」と言っても効果は出ない。
よくある質問(FAQ)
Q1. 共通テスト国語で、どの大問から解き始めるのが正解ですか?
「正解の順番」は1つではなく、子どもの得意不得意によって設計が変わります。ただし第3問(資料型)は処理しやすいにもかかわらず後回しにされがちなため、第1問→第2問→第3問→第4問→第5問という順で一度演習してみてください。自分に合う順序を秋のうちに固定することが重要です。
Q2. 論理国語と文学国語、共通テスト対策としてどちらが有利ですか?
共通テストの設問設計上、どちらの履修でも対応できます。ただし第2問(小説)の対策を考えると、文学的文章を読む経験量は得点に影響します。学校の選択肢が「論理国語のみ」の場合は、月2冊以上の小説・随筆読書で補完することをお勧めします。
Q3. 2026年度の平均点が落ちたのは難化が原因ですか?
一概に「難化」とは言えません。2025年度が比較的解きやすい問題構成だった反動という分析もあります(旺文社)。特定年度の平均点の上下に振り回されるより、学習指導要領が求める「読みの力」の水準を把握することが、中長期の対策として有効です。
Q4. 文科省の高校国語再編案は、今の高校生の受験に影響しますか?
2026年5月に示された再編案は次期学習指導要領の検討段階であり、現在の高校生の受験には直接影響しません。ただし再編の背景にある問題意識——論理国語への履修偏在と文学的文章の読み慣れ不足——は現在進行中の課題です。学校の履修選択について子どもと話し合う材料として把握しておくことが有効です。
Q5. 秋から16週間で間に合いますか? 最初に何を優先すべきですか?
9月から本番まで16週あります。最初の4週間で「構造を先に読む」習慣(ステップ1)を身につけることが最も効果対時間の高い介入です。第3問(資料型)の対策は10月から始めても十分間に合います。複数の対策を同時に進めるより、ステップ1→ステップ2→ステップ3の順で積み上げることを優先してください。
参考文献
- 河合塾Kei-Net「2026年度大学入学共通テスト平均点」(2026年1月公表)
- Z会「2026年度共通テストの分析&対策の指針 国語編」(2026年)
- 旺文社教育情報センター「2026年大学入学共通テスト実施速報 中間集計」(2026年1月)
- 文部科学省・中教審作業部会「高等学校国語科の科目構成の再編案」(2026年5月)、日本経済新聞2026年5月11日付
- 文部科学省「高等学校学習指導要領(平成30年告示)解説 国語編」






